第2話 冒険者の現実

 冒険者――それは身分、学歴、家柄関係なく自身に力があれば大金を稼げる夢の様な職業である。それ故に冒険者の年代の大半が10代前半から20代後半の若者で一般庶民が多い。しかし冒険者の世界はかなりシビアで実力が全てだ。


 力がある者は有名なパーティーに誘われ、無い者は切り離されることも稀じゃない。

 切り離された者の末路は単独でクエストを受けるか、無名のパーティーに加入するぐらいだ。

 その様な者が受けられるクエストは限られており、どれも難易度が低いものばかりだ。難易度が低いということは当然報酬で貰える金額も少なくなる。


 だから――少女は今ここでになるわけにはいかないのだ。


「何で私がクビなのよ!」

 ギルド内で茶色の髪を肩までかけた少女、ルミは座っているテーブルを叩き必死に訴えた。何事かと周りにいる冒険者の視線が集まる。


「弱いからに決まってるだろ。最初はセリアがどうしてもって言うからパーティーに入れたけど正直足手まといなんだよ」

 赤色の髪をした少年、ケイトがルミに向かって冷たい態度を取る。


「ごめんなさいルミちゃん……」

 金色の髪で毛先にウェーブがかかった少女、セリアはルミに申し訳なくなり謝る。


「セリアが謝ることない。弱者を切り捨てるのは当然」

 黒色の髪で少し癖っけの少女、サニはケイトの意見を肯定した。


 ギルドのテーブル席に座り揉めているのはある中堅パーティーだ。現在ルミはパーティー仲間から解雇宣告を受けている最中だ。

 このパーティーは4人組の構成でリーダーの戦士であるケイト、白魔導士のセリア、狩人のサニ、そして魔物使いのルミだ。


 魔物使いとはその名の通り魔物を手懐けて戦わせることができる特徴がある。

 魔物は本来人間を襲う側だが呪法じゅほうと呼ばれる魔法の一種を使うことで従わせることができる。だが呪法そのものが珍しい魔法なので魔物使いと呼ばれる者は少ない。ギルドでも魔物使いはルミしかいない。ルミはギルド内で唯一の魔物使いなのだ。

 ルミも魔物使いなので一応魔物を連れているのだが――


「だってお前弱いじゃん。知ってるんだぞ魔物使いは自分より弱い魔物しか手懐けることができないってこと。それってつまりお前自身が弱いってことだろ」

 リーダーであるケイトは周りくどい言い方はせずにストレートに言った。


 従わせるという行為はしっかりとした上下関係がなければ務まらない。魔物に自分より上だと思わせる為には魔物よりも強くなければならない。


「この子だって戦闘では十分戦えます」

 ルミが言うこの子とは足下にいる魔物のことだ。

 クチバシが大きく白い羽毛で覆われており目の周りに赤色の丸い模様がある鳥の魔物だ。鳥なのだが飛ぶことはできず移動はいつも歩きだ。そしてその目は常に一点を見つめており感情が伝わらず何を考えているのか分からない。少し間抜けそうである。

 名前はアルティメットドラゴンペガサスナイトエンジェルゼロだ。


「なら聞くがその魔物が役に立ったことあるか?」

「魔物じゃないです。アルティメットドラゴンペガサス……ナイト……えーっと――」

「覚えれない名前を付けるな!どっちでもいいわ!」

 するとアルティメットドラゴン(以下略)がケイトを見つめクチバシを開く。

「ケイトノ奴イツモ偉ソウニシヤガッテ!」

「おいこの鳥今何て言った!?もしかしてルミお前が言ったのか!」


 アルティメット(以下略)は聴覚が発達していて人の言葉を真似て喋ることがでる。それは同じパーティーのケイトも知っている。

 ということは誰かがケイトの悪口を言って真似たことになる。


「…………」

 ルミは沈黙を貫く。それは他の2人も同じだった。


「じゃあセリアか!」

「…………」


「じゃあサニか!」

「…………」


「何か言えよ!何でみんな黙るんだよ!同じパーティーだろ!正直に言ってくれよ!!」

「この前の女子会でみんなケイトの愚痴を言った。これが真実」

 狩人のサニが冷静に残酷な真実を告げた。


「そこまで聞きたくなかったよ!何で正直に言うんだよ濁してくれよ!てか女子会って何?俺の知らない所で集まって俺の愚痴言ってたの!?酷すぎるよ!!」


「ケイトがいつも偉そうにしてるのが悪い。前衛職のくせに周りに指示出してばっか。戦士なら前に突っ込んで敵を引きつけろ」


「まあまあ、後衛職が多いこのパーティーでケイト君は頑張っていると思いますよ」

 白魔導士のセリアがケイトのフォローに回る。


「いやでもケイトの指示は大雑把で分かりにくいんだよなー。リーダーぶってるくせに的確な指示ができていない。はあ~これは私がサポートするしかないか」

 ルミはここぞとばかりにケイトを責める。そして仕方ないと言わんばかりに自分の必要性をアピールする。


「え、俺を叩く流れ?てかお前はクビだぞルミ!諦めろ!」

「チッ」

「普通に舌打ちしやがった」


「はいはい分かりましたよ。抜けますよ、こんなパーティー。いつも女性陣を変な目で見てる男がリーダーなんて耐えられませんからね!行くよアルティメットドラゴンユニオン」

 そう言い捨ててルミは立ち上がりその場から離れる。その後ろをアルティメット(以下略)は付いて行く。またルミがアルティメット(以下略)の名前を間違えるのはいつものことだ。


「見てねえよ!」

 ケイトはルミの後ろ姿に向かって大声で否定した。ルミは何も言わずにギルドを出た。

「……ルミちゃん行ってしまいました。パーティーから追い出す必要あったのでしょうか?」

 ルミが去った後セリアが呟いた。

「セリア分かってない。これもケイトの優しさ」

「アイツ自身分かってることだ。わざわざ本当のことを言う必要ないだろ」


 少しの間沈黙が流れる。ルミをパーティーから追い出した理由は弱いからではなかった。弱いという理由だけなら追い出した側の三人がこうして今顔を悩ませながらうつむくことはないだろう。


「あとケイト……」

「何だよ」

「これからはクエスト受ける以外は別行動ね。行こうセリア」

 サニは立ちセリアの名前を呼ぶ。セリアはどうしたのかと首を傾げる。

「サニちゃん?」

「おいサニどうしたんだよ」

 サニはケイトに軽蔑に近い冷たい目を向ける。その後セリアの手を引きルミと同様ギルド出る。


「え、いや、誤解だって。ちょっと……」

 賑やかな雰囲気が漂うギルド内でケイトは一人ぼっちになった。











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