エルフ殺しのエルフ

ブルーなパイン

1章 出会いと旅立ち

第1話 焼き付いた記憶

「なんでこんなことに……どうして……」


 少女は声を震わせながら、惨憺さんたんたる光景を目の当たりにした。


 村にある全ての家が真っ黒に焼け焦げて、本来の形を保っていない。木材が焦げた匂いだけがその場に残っていた。


 息が荒くなり体の震えが収まらない。やがて立つことが困難になりそのまま崩れ落ちた。


「なんで?」この言葉が脳内を埋め尽くす。頬を撫でる涙が溢れて止まらない。


 自分がよく遊んだ場所――よく寝た場所――よく食べた場所――愛する者たちがいた場所……。


 記憶を辿たどればいつも楽しいことばかりだった。まさにあの日々は幸せだった。


 しかし幸せな日常は昨夜にして崩れ去った。


 静寂に包まれた夜、目覚めた時には炎が燃え上がり自分の家を飲み込んでいた。誰かに助けを呼んでも村のみんなの返事はなかった。


 炎は全ての家に燃え移り空虚な灰燼かいじんと化した。

 少女ただ一人だけが生き残ったのだ。炎が燃え盛り、家が焼け落ちる、その光景を瞬きを忘れ目に焼き付けた。


 次第に焼き付いた過去が楽しかった過去までも焼き尽くし浸食する。


『――な?――よ』


 は嗤いながら、少女に対して何かを言っていた。


 自分を育ててくれた人、会うたびに面白い話を聞かせてくれた人、美味しい料理を振る舞ってくれた人、初めてできた友達、他にも関わった人全てが焼き尽くされた。


 何故殺されなければならないのか。みんなが何をしたんだ。ただただ平穏に暮らしていただけなのに。焼き殺されていい理由がある人なんて誰一人いなかった。


「熱かったよね、苦しかったよね……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 少女は何度も自分の額を地面に叩きつけた。許してくれる人はもういない。

 何度謝っても返事は返ってこない。あの人たちは自分を救ってくれた。実の娘の様に優しく接してくれた。


 私はみんなに恩を返せただろうか。いや、まだだ。まだ何もしていない。


 心の底から言い表せない感情がこみ上げてくる。

 少女は何故自分だけが生き残ったのか、考えもしなかった。今考えるべきことは他にあったからだ。


 。それが残された自分にできるみんなへの恩返しであり、贖いだと思ったのだ。


 少女は顔を上げ今は無き故郷を見つめた。


「……私がもう許されることはない。だから全部背負って生きる。みんなの苦しみも絶望も全部。仇は私が討つ!!!」


 憎しみに満ちた眼差し。それは、幼い子供が持つ目つきではなかった。

 溢れる涙を涙を拭い、少女は奴らへの復讐を、もうこの世にはいない村の人々に誓う。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る