第27話 魚リンガル
「ヌ、ヌ、ヌシが食べられているゥゥゥゥゥゥ!!!!これは一体どういうことなんですか?」
船酔いのため、鉛のように重くなった体を引きずりながら船のデッキに出てきた司会者が言った。
「おい、ちょっと待てよ!ってことは、この食われている方がヌシってことか?この食ってるヤツの方が全然デカいぞ!ヌシって1番お大きいヤツじゃねぇのかよ!」
「はい!その通りです。ですから私も驚いているんです。こんな化け物今まで見たことも聞いたこともありません。ありえない・・・。こんなデカすぎる生き物、どこから?どうやって?来たというのでしょうか?」
「デカすぎる生き物・・・。もしかして・・・」
バンプにはほんのりと心当たりがあった。
「チッキのペットか?」
モカが言った。
「先に言いやがってこのヤロウ!だが、十分あり得る話だと思わねぇか?」
「確かに、あんな化け物みたいな竜をペットにするぐらいでござる。この化け物がチッキのペットと言われても、何ら違和感はござらん!!」
ロボ人も2人の意見に賛同した。
「相変わらず凄い趣味だな」
モカは呆れながら言った。
「ってことは、この今噛み付かれているヌシは危険にさらされているってことだよな?」
「そうですよ!あなたたちの力で何とかできないのですか?」
「お前、だんだん態度が横柄になってきているぞ!」
バンプが司会者の態度に少し釘を刺した。
「すみません。しかし、事実なんです。このままではヌシがやられてしまい、チッキの城にたどり着くことが困難になってしまいます」
「だってよ!モカ!」
「ったく。どいつもこいつも紙袋扱いが酷いな」
モカは渋々周りの期待に応えはじめた。
「3年前に出来たばかりの創作料理居酒屋の精霊よ、我に力を与え給え」
「な、な、な、な、何ですか一体?魔法ですよね?今、精霊と契約をしていますよね?なのに契約する精霊が、3年前に出来たばかりの創作料理居酒屋の精霊ですって?あなたたち舐めているんですか?どうせだったら半世紀以上続く老舗料亭の精霊とかと契約してくださいよ!イヤイヤ、仮にそれができたとしても、全然心許ないわけですし、とにかく、そんな魔法でヌシを救えるわけが・・・」
「うるせぇぇぇ!!!いいから、黙って見てろ!!!」
バンプがブツブツ言い続ける司会者を一括した。
「・・・、・・・えっ?」
バンプの一括に黙り込んでしまった司会者の目に写ったのは、宙に浮かぶ、おびただしい数の包丁であった。
「なぁ?ヌシはダメでも、こいつなら食べていいんだろ?」
「え、えぇ、味は保証できませんが、全くもって問題はありません!!」
「だとよ、みんな?」
「よっしゃぁ!!!昼飯ゲットォォォォォォォォ!!!!」
「拙者もお腹がペコペコでござる」
「モカ!あんたやっぱり凄いのね!!!仕組みはよくわかんないけど、早くご飯にしましょ!!!」
バンプ、ロボ人、イアリがモカにエールのような、催促のような、要望のような声を掛けた。
「ソリャい!!!!!」
モカの合図に合わせて宙に浮かんだ無数の包丁が、ヌシに噛み付く化け物目掛けて飛んで行った。そのひとつひとつの包丁は、まるで自分の意思を持っているかのように空中を動き回り、化け物にダメージを与える。化け物は自分が切り刻まれていることに気がつかないかのように微動だにしない。
「よし出来上がりだ!!!」
ものの数秒でヌシに噛み付いていた化け物は捌かれた。そしてその身は、これまた大きなお皿に綺麗に盛り付けられたのであった。
「うひょぉぉぉぉぉ!!!刺身だぜぇぇぇぇぇぇ!!!いっただきまぁぁぁす!!!」
先陣を切ってバンプが箸を伸ばした。これで美味しくなかったらどうするのだろうか?しかし、そんな不安はすぐになくなった!
「うんめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!身が引き締まっていてプリップリ!!!!!こんなにうまい刺身ははじめてかもしんねぇぇぇよ!!!」
「たまらんでござるな!美味しいでござる!!」
「何これ?めっちゃ美味しいんだけど!!!どんどんいけちゃうわ!!!」
「それに何だか力がみなぎってくるぞ!!!」
バンプが味以外の気づきをアウトプットした。
「本当でござる!!!なんだか自分のレベルが上がったような感覚でござる。」
「確かに!心なしか体も軽くなった気がするわ」
ロボ人もイアリもバンプのアウトプットに賛同した。
「どうなってんだこりゃ?」
まだ驚くバンプ。
「もしかして、この化け物、レベルアップ属性を持っていたのでは?」
司会者がしれっと刺身を食べながら言った。
「あえて、お前の行動(食事)にはツッコまずにいてやるが、レベルアップ属性ってなんだ?」
「えぇ、この世に存在する全てのモノに付与される可能性がある属性のことです。一種の突然変異のようなものですね。このレベルアップ属性はとても凄いんです!!!」
「どう凄いんだよ!もったいぶらずに教えろよ!」
「そう急かさないでください。このレベルアップ属性が付与されたものを食べれば、食べたものは一気にレベルが上がるんです!!」
「そんなチートみたいな話があるのかよ?」
「えぇ。ただ食べるだけで強くなれるんですから、確かにチートですよね。ただ、この属性って付与された本人はわからないんです。生まれてから灰になるまで知ることはありません。手に入れようとする側にとっても、普通のモノと見分ける方法は存在しませんので、自力で見つけることは不可能。ですから、あなたたちは非常に運が良いんです!!!」
「そういうことか!!」
モカが納得した。
「いやぁ、でも美味かったな!!!それでレベルアップもしてんだから、この後の決戦に向けて準備万端だな。・・・あれ?モカ少し残っているぞ?食べないのか?」
「これは残っているんじゃなくて、残しているんだ!!」
そういうとモカはテクテクと船の端まで歩いて行った。
「おい!!!ヌシよ!!!お前ももっと強くなって!!!この海を今度こそ守ってやってくれ!!!」
そういうとモカは、とっておいた刺身を、船の下で優雅に泳ぐヌシに向かって落とした。
ポチャン!!
ポチャン!!
ポチャン!!
海に刺身が落ちた。そして、船からはその落ちた刺身を食べるヌシの姿が見えた。
すると・・・
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「なんだ??なんだ???」
バンプは驚いた。なぜなら、船がいきなり揺れだしたからである。
「ウオオオオオオオオオオ!!!!!!」
「何の声でござるか?」
「ちょっと、また何か来たわけ?」
ロボ人とイアリも突然のことに驚いた。
「ウオオオオオオオオオオ!!!!!!うめぇーーーーーーーー!!!!!」
『えっ???』
一同はその声のヌシに驚いた。
「いやぁ!!!ごめんごめん!!!驚かせちゃった?そう!俺だよ、俺!!!そうヌシ!!!なんかさっきもらった刺身食べたら、喋れるようになっちゃったぁぁぁ!!!」
『えーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』
そう、ヌシはレベルアップして喋れるようになったのである。
「自分たちあれでしょ?チッキの城に向かうんでしょ?だったら俺に任せな!パワーアップした俺なら、潮流なんてチョチョイのチョイよ!!!さぁいくぜ!!!どぉぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ヌシが船を後ろから押し、その力で船は今までにない速度で前進をはじめた。
「フハハハハハ!!!いいぞいいぞ!」
盛り上がるモカ。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!速えぇって!速えぇって!」
翻弄されるバンプ。
「素晴らしいでござる!今日は人間と魚が初めて言葉を交わした記念日でござるぅぅぅぅぅ!!!」
記念日が大好きなロボ人。
「あなたたちといると退屈しないわね!!!」
誰にも見られないところで笑顔になったイアリ。
「オボロオボロオボロオボロオボロ〜〜〜!!!」
ぶり返した司会者。
「さぁ、紙袋のダンナ!見えてきましたぜ、あれがウォーターアラウンドアイランドでさぁ!このまま一気に攻め込みやすぜ!!!」
『江戸っ子になってるぅぅぅぅ!!!レベル上がりすぎて江戸っ子になってるぅぅぅぅぅ!!!』
そんな一同のツッコミなど関係なく船はどんどん進む。そしてついにウォーターアラウンドアイランドの港が見えてきた。
「なんか、港にいっぱいいるけどォォォォォォ?」
そう港にはチッキの兵士たちがわんさかといたのである。
「おい!そこの船止まれぇぇぇ〜〜〜!」
ドドドドドドドドドドドド
ドドドドドドドドドドドド
ドドドドドドドドドドドド
船に止まる気など毛頭ない!
「お前ら!ここがどこだかわかってるのか?チッキ様の領土だぞ?止まらんか!!!」
ドドドドドドドドドドドド
ドドドドドドドドドドドド
ドドドドドドドドドドドド
船に止まる気など毛頭ない!prt2
「えぇーーーー!!!あの船、全然止まる気ないんですけどぉぉぉぉ!!!」
兵士たちは驚きを隠せなかった。
「ダンナこのまま港に突っ込んでいいですかい!」
「頼む!!」
「ヘイ!!!!では、あっしの全力でこの船を港にぶつけてみせますぜ!」
「ぶつけるって言ってるよ?上陸させるじゃなくて、ぶつけるって言ってるよ?」
もはや、バンプの声は誰にも届かなかった。
「でやぁぁぁぁぁぁぁ!!!ダンナがた、お達者でぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
ヌシのフルパワーで船は港まで一直線に飛んで行った!!!
ドガラガシャゴラバキマキドガーーーーーーン!!!!!!
港に突撃した船はその勢いで陸に打ち上げられ、チッキの兵士たちを薙ぎ払いながら止まった。
「いてててててて。ヌシよぉぉぉぉぉぉ!やってくれたなぁぁぁぁぁ!!!」
バンプが船を降りた。
「ハハハハハハ。愉快ですぞ!!!」
ロボ人が船を降りた。
「凄いわね。さっき船浮いてたわよ!!」
イアリが船を降りた。
「面白かったなぁ〜!!」
モカが船を降りた。
「ここからどうするんだよ?」
バンプがモカに問いかけた。
「そうだなぁ〜・・・」
モカが考えていると。
「テメェらよくも俺たちの港を粉々にしてくれたな!!!」
残りの兵士たちがモカたちへと向かってきた。
「とりあえず、こいつらを倒してから考えるか?」
『賛成!』
モカのアイデアに、3人は賛同した。
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