第28話 ブリっ子
「なぁ?ひとつ聞いてもいいか?」
バンプがおもむろにイアリに声を掛けた。
「何よいきなり!」
イアリはバンプのいきなりの質問に若干イラっとしているようであった。
「いきなりというかな・・・?それは何だ?」
「それって何よ?」
「それだよ!それ!」
「それじゃわからないわよ!」
「それだろうが!その着ぐるみのことしかねぇだろうが!なんで、陸に着くなり新しい着ぐるみ着てんの?」
「いいじゃない!オシャレは乙女のたしなみよ!」
「ただただ緊張感のない奴にしか見えないのだが・・・」
「失礼しちゃうわね。せっかく買ったばかりの着ぐるみなのに、ブリっ子は嫌いなわけ?」
「お前なぁ・・・、ブリっ子っていうけど、それ魚のブリだからな!!!!」
「そんなの知ってるわよ!ブリっ子って自分でさっき言ったじゃない!」
「ブリっ子ってそういう意味じゃねぇから!!!!!」
「えっ?」
「だからぁ〜、ブリっ子ってそういう意味じゃねぇから!!!!!」
ガーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!
イアリはもろにショックを受けた。しかし、それはしょうがないことでもあった。なぜならイアリは物心つくまで、実家という俗物とは隔離された環境の中で、ただただひたすらに暗殺のノウハウを叩き込まれてきたのだから。世間のことなど知らなくて当たり前なのである。
「ブリっ子っていうのは、主に男の前で自分を無知や非力に見せるような女のことを言うんだよ。お前のは魚のブリ!出世魚!無知とか非力どころかやる気満々で出世しちゃってるから!全然違うから!」
ガーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!
「知らなかった。せっかくホット・スプリングさんのフラッグショップまで行ってじっくり吟味して、店員さんの"これでブリっ子になれますよ!"って言葉を信じて買ったのに・・・」
「それは店員さんのユーモアあふれるギャグだったんだろうな。まさか店員さんも冗談を本気にして、ブリっ子になれると思って買う人がいるとは思わなかっただろうな」
「私、ブリっ子になって男どもにチヤホヤされたかったのに・・・」
「おいおいおいおい、どさくさに紛れてとんでもねぇこと言いやがるな!」
ズーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!
イアリはひどく落ち込んだ。
「ウリャァァァァァァァァァ!!!!!!」
忘れていたが今はバトル中だったのである。バンプとイアリのやり取りなどなかったかのように、港にいたチッキの部下の生き残りたちが、一斉にモカたちに襲いかかってきた。
「はぁ〜、面倒臭いが、ロボ人いくぞ!」
「はい、でござる!」
バンプの呼びかけにロボ人は応え、2人は一歩ずつ前へと踏み出した。
覇々抜き(ばばぬき)
ボゴロドバゴンズガラガラバキドコガガズガドッガーーーーン!!!!!
バンプとロボ人の必殺技によって数百はいたであろう、チッキの部下たちは全員吹き飛ばされた。
「ロボ人?気づいたか?」
「えぇ、気がついたでござる!!」
「どうやら俺たち本当にレベルアップしているみたいだな?」
「そうでござる。拙者も改めてレベルアップを実感したでござる」
そう、先ほどの食事によってレベルアップしたことを2人とも実践を通して、あたらめて実感したのだった。
「ちょっとぉ〜!私の分も残してくれていても良かったんじゃない?」
「悪かったなブリっ子!」
ズーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!
再びイアリは落ち込んだ。
「みなさん、あの向こうに見えるのがチッキのお城になります」
司会者がモカ一向に教えてくれた。
「ですが、お気をつけください。何と言っても相手はあのチッキです!そう簡単に城に入れてくれるとは限りませんよ」
警戒を呼びかけているように見えるが、モカたち一行はそんなことではなく、司会者は説明や煽りがうまいのかもしれないくらいの危機感?しか持ち合わせていなかった。
「どんな罠が待っていても関係ないわ!私の家に比べたらどこも遊園地よ!可愛らしいものだわ。さぁ、ビビってないで行くわよ!」
「誰がビビってんだよ!お前の方こそ勝手に仕切ってんじゃねぇ!」
バンプはイアリの勝手な行動に若干の苛立ちを覚えた。
イアリを先頭にモカたち一行はチッキのお城を目指すのであった。
「目には入っているからすぐにつくだろうと思っていたけど、結構あるな!」
そう、モカたちはかれこれ1時間は歩き続けていたのだった。
「なんだかおかしくござらんか?」
ロボ人が疑問を投げかけた。
「確かにね。お城まで遠いというより、さっきから全く近づいている気配がないのよね・・・」
イアリも違和感に気がついているようであった。
「ちょっと待て!これ見てみろよ!」
バンプが皆に呼びかける。
『これは?』
一同が見たのはただの木であった。
「これがどうしたって・・・」
イアリがバンプに言い返そうとしたところで何かに気がついた。
「この木、1時間前に見た木と全く同じ・・・」
「つまり、拙者たちは先ほどから全く進めていないということでござるか?」
「どうやら、そうみたいだな。どうやら俺たちは、すでに何かしらの罠にかかっているらしい」
「罠に掛かってる?」
イアリがバンプに聞き返した。
「あぁ、その可能性が非常に高いぞ!ただ、俺たちにまだ何も仕掛けてこないところを見ると、俺たちを疲れさせていたぶろうっていう魂胆なのかもしれない・・・」
「罠に掛かってる?」
「あれっ?ちょっと?イアリちゃん?」
バンプはイアリの様子のおかしさに何だか嫌な予感を感じていた。
「幼少の頃からありとあらゆる暗殺術を身につけてきた私を罠にはめたですって!どこのどいつよ!隠れてないで出てきなさいよ!」
イアリはプライドを傷つけられたのであった。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
イアリの怒りも虚しく、何かが姿を表す気配は全く感じられなかった。
「じぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
イアリはあたりにじっと目を凝らした。
「ん?」
何かに気がついたようだが、まだ見間違いの可能性があるかもしれないとイアリは慎重になった。
「んん?やっぱり見間違いじゃない!そこだ!」
ビュッ!!!!!
イアリは何もない空間に向けてクナイを投げたのだった。
「おいおいおい!何してんだよ!」
バンプがイアリをからかおうとしたその瞬間だった。
シャン!!!
何もない空間に投げられたはずのクナイが、何かをかすめたような音を発したのだ。
「やっぱりね。っということは、お願い!みんなしゃがんで!」
イアリの言う通り、モカたちは全員その場にしゃがんだ。
「ありがとう!うりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ブンブンブンブンブン!
ブンブンブンブンブン!
ブンブンブンブンブン!
イアリはくさり鎌を取り出し、鎌の方を頭上で円を描くように振り回しながら、その円を次第に大きくしていった。そして、その円がイアリを中心に半径300mほどになったころ。
シャッ!シャッ!シャッ!シャッ!
先ほどよりももう少し何かを捉えたような音が、今度は4つ分聞こえたのだった。そして、それと同時にモカたちの視界が歪みはじめたのであった。いや、正確に言えば真実が顔を出しはじめたのであった。
「おい!危ねぇじゃねぇか!」
バンプが言ったのかと勘違いしそうであるがそうではない。
「クソォ〜!もうちょっとお前たちの体力を奪って動けなくしてから、思う存分ぶっ飛ばしてやろうと思っていたのに」
何と先ほどまで何もなかったはずの空間に1人の男が立っていた。そして、その両隣には狼が2頭ずつ並んでいる。
「あんたが私たちの道を邪魔していたのね?」
「いかにも、俺の名はルーザ!そして俺の両隣にいるこいつらはどう猛で凶暴な狼のウルボブラザーズだ!」
「別に名乗らなくてもいいわよ!すぐに終わるんだから!!!」
「けっ!言ってくれるじゃねぇか小娘!1時間以上も俺らの罠にかかりっぱなしだったくせにいい気になるんじゃねぇ!」
「確かに、私たち間抜けよね!相手に幻覚を見せるだけしか取り柄のないような連中にまんまと騙されていたんだから」
「んな!貴様、そこまで言うということは俺たちの技を見切ったということなのだろうな?」
ルーザはそんなわけないだろう?と言いたげな思いを言葉の裏に込めながら言った。
「えぇ、ついさっきだけどね」
「え?・・・・・?」
「だから、ついさっきわかったって言ったの!」
「え?・・・・・わかったの?」
「ええ!!」
「ククク。これは驚いた!まさかウルボブラザーズの独特の毛が高速移動することで周りの景色と同調し、お前たちに幻を見せていたことに気づくとは、さすがチッキ様を倒しに来ただけのことはあるな。まさか、俺の着ているこのコートもウルボブラザーズの毛でできていて、同じように景色に同調できるなんてことまで気づいているのではあるまいな?」
「なるほど、そういう理屈だったわけね」
「え?」
「だから、そういう理屈だったわけねって」
「え?気づいてなかったの?」
「いいえ!今、気づいたわ!」
「え?強がってません?」
「いいえ!強がってないわ!」
だって今、気がついたんだもの。
・・・・・・・・
・・・・・・・・
「だが、理屈が分かったところで同じこと。ウルボブラザーズのスピードはチッキ軍の中でもトップクラス!お前は俺たちの動きについてくることすらできずに朽ち果てていくのだ!いくぞウルボブラザーズ!」
『ワオォォォォォン』
ルーザの呼びかけにウルボブラザーズが力強く答えた。
4頭の狼たちがイアリの周りを高速でグルグルと走り出した。そのあまりのスピードによって、先ほどルーザが入ったように1人と4頭は周りの景色に溶け込みはじめ、見る見るうちにイアリの視界から消えたのであった。
「はぁ〜。こんなところで時間使っている場合じゃないんだから、とっとと終わらせちゃうわよ!」
「ハハハハハ!威勢だけはいいな!そう簡単にこの技が破れるわけがなかろう!」
イアリの視界から消えたままのルーザは挑発するように言葉を放った。
「だから、簡単だって言ってるでしょ!」
そう言い放つイアリの視界には既にルーザが映っていた。
「なっ?なぜ、俺たちのことが見えているのだ?」
「そんなの決まっているじゃない!」
破魔血の
ズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバ!!!!!
イアリの刀より繰り出された無数の斬撃がルーザとウルボブラザーズたちを切り刻んだ!
「私の方が、あなたたちより早いからよ!!!」
カシン!!!!!!
イアリは抜いた刀を鞘に戻した。
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