第21話 PET

タイムアップ!タイムアップ!タイムアップ!



それはバンプのダブルアップの時間が終了したことを告げる声だった。


「グワァァァァァァァァァ!!!!!!」


タイムアップの声と同時に今まで溜まっていたダメージが倍になってバンプに降りかかってきた。


「グオォォォォォォォオオオオ、ツゥゥゥゥゥゥゥゥゥ、ギャァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」


バンプの苦痛の叫びが洞窟内に響き渡った。


「そ、そ、そんなことも、も、も、言ってられ、な、な、ないよな。む、む、村人たちを早く、つっ、グワァァァァァァァァ!!!!!」


なんとか必死の思いで洞窟の奥へと向かおうとするバンプだったが体が言うことを聞かない。するとバンプが向かおうとしていた洞窟の先の方からテクテクと何かが近づいてくるのが見えた。


「な、な、なんだあれは??」


それはヒョロッとしたシルエットで、よく見ると岩がいくつも合体してできたような構造をしている。


「お、お、俺の知っているものと、す、少しイメージは違うが、ゴ、ゴ、ゴーレム?・・・か?」


そう。それはゴーレムであった。しかし世間一般に知られているゴーレムとは全く違い、ゴボウのような体格。力強さとは無縁のような見た目をしていた。


「ソレ、カエセ!ソレ、カエセ!」


そのゴーレムがどんどんコンロの方へ近づいていく。


「ソレ、カエセ!ソレ、カエセ!」


するとゴーレムは人差し指を伸ばし、指先からレーザーのようなものを発射した。


ピュンッ!!!!


放たれたレーザーはコンロの右腕の付け根あたりを貫通した。


「グワァァァァァァァァァァ!!!!!」


コンロが大声を上げる。


「テメェ、これでも喰らいやがれ!!!」


そう言うとコンロは残りの力を振り絞り、大きな炎の玉作って、そのゴーレムへと放った。


「ソレジャダメ!キカナイ!」


ゴーレムがそう言うと今度は真っ直ぐにパンチを繰り出した。


ゴガァァァァァァァァァァァァァァァンンンン!!!!!!


コンロの放った大きな火の玉は見事に粉砕した。


「クソッ!!!力が全然出ねぇ!!!なんなんだこいつは!!!」


「ソレ、カエセ!ソレ、カエセ!」


ゴーレムはコンロの目の前に立った。


「何を言っているんだ」


するとゴーレムは倒れているコンロの胸ぐらを掴み、片手でコンロを持ち上げた。


「ソレ、オレノモノ!ソレ、カエセ!」


「ぐっ!お前、もしかしてこの洞窟にあったCOFFEE BEANSコーヒービーンズのガーディアンか?」


「オレハ、COFFEE BEANS《ーヒービーンズ》ヲマモル、ガーディアン!!!」


「ちくしょう、誰もいないと思っていたのにいたのかよ!!!しかも時間差で出てくるなんて、このゴーレムを作ったやつの悪趣味さが伺えるな」


「主ノ悪口許サナイ!」


ビュッ!!!


ドボッ!!!


コンロを持ち上げていない方の手を使い、ゴーレムはコンロのお腹へパンチを入れた!!!


「グワァァァァァァァァ!!!」


満身創痍のコンロにはもう抵抗する力が残っていなかった。


ゴソゴソゴソゴソゴソ


コンロのポケットをまさぐり、ゴーレムはCOFFEE BEANS《ーヒービーンズ》を見つけた。


「見ツケタ!見ツケタ!見ツケタ!見ツケタ!見ツケタ!コレヨリ、食ス!食ス!食ス!食ス!食ス!」


「何だと!!!」


バンプが耳を疑った。


パクリ!!!


ドッッカァァァァァァァァァァァァ!!!!!


洞窟の中をまばゆい光が照らした。それはとても眩しい絶望の光だった。


「マジかよ!!!あいつCOFFEE BEANS《ーヒービーンズ》を食べやがった・・・」


光が消え、そこに立っていたのは先ほどとは比べ物にならないサイズのゴーレムだった。サーティにも引けを取らないそのサイズと力強さ溢れるフォルムはまさにゴーレム。私たちが想像するゴーレムそのものだった。


「COFFEE BEANS《ーヒービーンズ》を食べたものは自我を失う代わりに、とてつもない力を得ることができるなんて言い伝えがあったけど、人以外でも関係なくいけるのかよ!!!」


「ミナギル!ミナギル!俺、今カラ泥棒ヲ懲ラシメル」


ヒュッ!!!


ボカンッ!!!


さっきより早く、重く、硬いゴーレムのパンチがコンロの顔面にヒットした。


「グハァッ!!!」


ボカボカボカボカボカボカボカボカボカ!


コンロはサンドバックのようにゴーレムに殴られ続けた。


「グハァッ!!!ゲボォッ!!!」


「や、やめろ!!!」


バンプの声も虚しく、ゴーレムは攻撃を続けた。


「バツ!!!コレハ、勝手ニトッタバツ!!!ハハハハハハハ!!!」


「なんちゅう悪趣味なガーディアンなんだよ。しょうもねぇもん作りやがって」


「聞コエタゾ!!!今、俺ト創造主ノ悪口言ッタナ?」


「何!!!」


それはバンプも驚くほどの速さだった。一瞬のうちにバンプの目の前にゴーレムが来たのだった。


「決メタ、オ前カラブッ倒ス」


「お前、何なんだよ本当!!!自分勝手なことばかりやりやがって!!!人を何だと思ってんだよ!!!」


「ハハハハ!!!貴様、モウ悪口ヲ言ウ"力"シカ残ッテイナイミタイダナ」


「いくら何でもやりすぎだろ!!!お前には心ってものがねえのかよ!!!力があれば何したっていいのかよ???」


「ハハハ!!!ソウダ!!!"力"ガアレバ何ヲシタッテイイノダ!!!モウ、オ前ノ言葉ハ十分ダ!!!安ラカニ眠レ!!!」


「ちゃんと聞いてんのかよ!!!!・・・・・・なぁ、モカ!!!」


ゴバギャリャバガラガラズッドォォォォォォォォォォォーーーーーーン!!!!!!


ゴーレムは吹き飛んだ!!!!!モカの強烈な一撃によって。


「人がせっかく気持ち良く寝てたのに起こすな!!!そして起きて早々ピンチになってんじゃねぇ!!!!」


「お前、それがずっとオンブしてくれてた人に言う態度か?」


「しょうがないだろ眠いんだから!!!それにお前、俺をさっき投げたろ、投げるなぁぁぁぁぁ!!!さっき俺に人使いが荒いみたいなこと言ってたけど、俺から言わせればお前は魔法使い使いが荒いんだよ!!!」


モカの寝起きは最悪だった。


「強えぇ!!!それに紙袋が本当に喋ってる。あれ生きてたんだ」


「凄いわ!!!あのゴーレムを1撃で吹っ飛ばすなんて!!!」


「まだ凄い仲間がいたんだ」


キツネ、マキ、ネギマは動くモカを見て感動していた。


「まぁ、冗談はさておき、モカ!!!お前、あの眠ったふりは俺のためにしてたんだろ???俺の体へわざと負荷をかけ、普通の暮らしをしながら修行ができる様に。おかげで、俺はこの前負けたボードよりもはるかに強い、コンロに勝つことができた。お前の修行がなければ秒で負けていたと思う」


「知らんなぁ〜。俺は寝るのが好きなだけだ」


「そうか」


「そうだ」


「いい戦いだったんだぜ!!!敵なのに尊敬できる。そんな相手に出会えることなんて早々ないと思うんだ。そんなコンロがボロボロにやられたんだ。本当は俺が仇をとってやりてぇんだけど、体がいうこと気かねぇんだ。だから、頼む!!!代わりに仇をとってくれ」


「はぁ〜、しょうがねぇなぁ〜」


モカのその言葉にバンプは笑顔になった。


ガラガラガラガラ!!!


モカに吹き飛ばされ瓦礫の下敷きになっていたゴーレムが起き上がった。


「何ガ起キタ!!!何ガ起キタ!!!」


「お前は知らなくていい。ガーディアンだか、カーディガンだか知らねぇが!!!人の寝起きを不快にしてくれてんじゃねぇよ!!!」


「紙袋ガ喋ッタ!!!コレハ事件!!!コレハ事件!!!」


「喋る岩が人のこと言ってんじゃねぇ!!!!!」


モカが杖で殴りかかった。しかしゴーレムはそれを腕でしっかりガードした。しかし、その衝撃を全く逃がすことができずに地面の上を並行移動するかのように飛ばされた。


「強イ!過去最高ニ強イ!!!」


「過去最強じゃねぇ!!!未来最強だ!!!」


ドガドガドガドガドガ!!!


ドガドガドガドガドガ!!!


ドガドガドガドガドガ!!!


モカの杖殴りラッシュが続く!!!


「なぁ、マジシャンの兄ちゃん。あの紙袋って杖持ってるのに戦士なのか?なんだかさっきから力技しか使ってないような・・・」


「まぁ、そう思うわな。それはしょうがない。でも、もう少し見てたらわかると思うぞ。あいつが魔法使いだってな」


ドガドガドガドガドガ!!!


ドガドガドガドガドガ!!!


ドガドガドガドガドガ!!!


モカのラッシュを受け止めながらも幾つか食らっているゴーレム。防戦一方の戦局にしびれを切らしたかのように、口からビームを発射した。


ピュンッ!!!


ジュッ!!!


不意の1撃がモカの頬をかすめた。そして、モカはラッシュをやめゴーレムと少し距離をとった。


「お前強イ!過去最高ニ強イ!!!タダ攻撃ガ単調!!!過去最高ニ単調!!!」


「悪いな!!!お前には今のが攻撃に見えていたんだな???それは失礼した。俺は準備体操のつもりでやっていたんでな」


「強ガリガ見苦シイゾ、コノナンチャッテ魔法使イ!!!」


「ほう。今何と??」


「強ガリガ見苦シイゾ、コノナンチャッテ魔法使イト言ッタンダ!!!コノナンチャッテ魔法使イ!!!」


「そうかそうか。じゃあお望み通り魔法を見せてやろう!!!」


「ハハハ!!!創造主カラ魔法ノ偉大サハ聞イテイル。精霊トノ契約ニヨッテ魔法ノ強サガ変ワッテクルト。オ前ノヨウナ紙袋ニハ、契約ヲ結ンデクレル精霊ナンテイルワケナイ。ハハハハハ!!!」


「はいはいはいはい。分かった。お前は作られたものにしては喋りも達者だし。それなりに強い部類にも入るのかもしれないな。俺にとっては他の奴らと変わらんけども。ただ、お前に弱点があるとするのならば。相手を分析する能力を授からなかったことだ。だから、俺に対しても未だに余裕を持っていられるんだ。そしていかにもモブキャラが言いそうな、セリフを惜しげもなく発することができるんだ。よし決めた!!!なんだか俺、段々お前の創造主にも腹が立ってきたから、お前と一緒に創造主もぶっ倒してやろうと思う!!!」


「何ヲ言ッテイル紙袋???頭デモ打ッタノカ???私ノ創造主ハ、ココニハイナイゾ!!!」


「いる!いない!なんて関係ない!!!お前がいるじゃないか?俺が今からお前のような、俺のガーディアンを作るから、そいつがお前に勝てば、俺はお前の創造主の魔力にも勝ったことになるだろ!!!」


「面白イ!!!紙袋オ前、面白イ!!!タダ、絶対二ソレハナイ!!!オ前ハ勝テナイ!!!創造主ハ大魔法使イダッタ方!!!私ヲ生ミ出ス前ニモ、何度モ何度モ何度モ何度モ何度モ、ガーディアンヲ生ミ出シテイル。オ前トハ経験値ガ違イスギル」


「そっかぁ経験かぁ・・・。確かに、俺は自分で戦うのが好きだから、学校の授業くらいでしかガーディアンを作ったことがないかもしれないな。でも、やってみないとわからないだろ。何はともあれ、やってみようぜ!!!」


「面白イ!!!受ケテ立ツ!!!」


「じゃあ今から作るから。・・・あっ、ちなみに俺が作っている間、攻撃してきてもいいから。遠慮するなよ」


「私ハ、ソンナコトハシナイ!!!待ッテイルカラ急ゲ!!!」


「では、お言葉に甘えて。自動販売機の精霊よ、我に力を与え給え」


ピカーーーーーーーーーーーーーンンンンン!!!!!!


またもや辺りを強い光が包み込んだ、今度の光はモカの魔法がもたらした希望の光だった。その光も落ち着いた頃、光の中から何やら人影らしきものが見えた。


「ジャーーーーーーーーーーーーーンンンンン!!!!!!これが俺のガーディアン!!!!!その名もペットボトルマンだ!!!」


・・・・・・・


・・・・・・・


・・・・・・・


洞窟の中は静けさに包まれた。ペットボトルマンは500mlのペットボトルに手足が生えたようなフォルムをしていた。


「ククク!!!残念ダ!!!モウ少シマシナガーディアンガ出テクルト思ッテイタノニ。ペットボトルマン!!!笑ウ気ニモナレナイ!!!」


「おい!!!ペットボトルマン!!!あんなこと言われているぞ!!!良いのか?」


「良くありません!!!私はペットボトルのプライドにかけてあの岩の塊をぶっ倒そうと思います!!!」


ペットボトルマンはとても流暢に話した。


「よし!!!ではあとは任せた!!!頑張れ、ペットボトルマン!!!」


「はい!!!モカ様の期待に必ずや応えてみせます!!!」


「イヤイヤイヤイヤ!!!本気デスヤン!!!本気デ勝ツ気デオリマスヤン!!!コンナペットボトルゴトキガ!!!」


そう話すのと同時にゴーレムはパンチを繰り出した。


ベゴンッ!!!!!


そのパンチはペットボトルマンにクリティカルヒットし、ペットボトルマンは洞窟内の地面や壁を跳ね返りながら吹き飛んだ。


「ハハハハハ!!!話二ナラナイ!!!」


「よそ見はいかんぞ!!!」


なんと今吹き飛ばされたばかりのペットボトルマンがもうゴーレムの目の前にいていたのである。


バガァァァァァァァァァァァンンンンンンン!!!!!


今度はペットボトルマンのパンチがクリティカルヒットしゴーレムは吹き飛んだ!!!


「ハハハハハハハ!!!私の体は超柔軟性のあるポリエチレンテレフタラートでできているので、貴様ごときの攻撃では傷一つけられんのだ!!!!!まだまだいくぞゴーレムよ!!!!!」


炭酸ジェットラーーーーッシュ!!!


ドガ!バギ!ズガ!ドガ!バギ!ズガ!


ドガ!バギ!ズガ!ドガ!バギ!ズガ!


ドガ!バギ!ズガ!ドガ!バギ!ズガ!


めまぐるしいスピードで繰り出されるペットボトルマンのラッシュがどんどんゴーレムにヒットする。


「ウガァァァァァァァ!!!」


そのラッシュをゴーレムは半ば強引な力技ではじき返した。


「少シ侮ッテイタ!!!シカシコレナラドウダ!!!」


ピュンッ!!!


ゴーレムの口からレーザーが放たれた!!!


プルタブシーーーーールド!!!


ペットボトルマンがプルタブ型の大きな盾を出した。それに当たったレーザーはプルタブの表面の絶妙な曲線に沿うかのように洞窟の天井へと受け流されていった。


「ゴーレムよ。お前の技は私には効かない!!!そろそろ終わりにしよう!!!行くぞ!!!」


そう言うとペットボトルマンは両手を前に出した。


「食らえ!!!クリスタルガイザーーーーーーーーー!!!!!」


ペットボトルマンの構えた両腕から超巨大な水のエネルギー弾が放たれた。


ドバシャーーーーーーーーーーーーーーーンンンンン!


そして見事、ゴーレムにヒットした。岩でできたゴーレムはびしょ濡れになった。


「"力"ガ出ナイ、コウナレバ全員道連レ二シテヤル!!!」


何やら、ゴーレムが自爆しそうな雰囲気を醸し出した。


「そうはさせるか!!!食らえ!!!ボトルキャップボンバー!!!!!!」


ドガーーーーーーーーーーーーーーンンンンン!!!!!


ペットボトルマン渾身の必殺技が決まり、ゴーレムは粉々に砕け散った。


「この世の悪を全て水に流す!ペットボトルマン!!!」


ペットボトルマンは決め台詞を言った。


そして、ゴーレムとの戦いに勝利した。

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