第19話 20>30

「大丈夫かロボ人!!!!!!」


その痛々しい姿に思わずバンプは声をかけた。

しかし、先ほどとは違いサーティはバンプの方へ向かおうとはしなかった。

それはサーティがロボ人から少しでも目を離せば、自分に危機が迫ると学んだからに他ならない。


「なかなかやるでござるな」


「ロボ人!!!!お前武器持っているんじゃなかったのかよ!!!!それを早く使えよ!!!!」


バンプのその声の意味を理解し、武器を使わせまいとするかのように、サーティが再び30頭ラッシュを仕掛けてきた。


バシッ!ドカッ!スカッ!バシュッ!ズンッ!バシッ!ドカッ!スカッ!バシュッ!ズンッ!バシッ!ドカッ!スカッ!バシュッ!ズンッ!バシッ!ドカッ!スカッ!バシュッ!ズンッ!バシッ!ドカッ!スカッ!バシュッ!ズンッ!バシッ!ドカッ!スカッ!バシュッ!ズンッ!


ダメージの蓄積したロボ人はサーティのラッシュをたまに避けることはできたが、ほとんどを食らっていた。

そしてそのラッシュから逃げるかのように洞窟の岩陰へと身を隠した。先ほどまで真正面からぶつかっていた相手が急に自分に背を向けて逃げた。

その姿にサーティは落胆し手を、いや首を止めた。


「そうだよなぁ〜!!!そんな逃げ腰の相手とやってもつまんねぇよなぁ〜サーティ???そんなヤツとはそろそろ終わりにしてもいいんじゃねぇか?」


コンロがサーティにけしかける。


「グルォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」


その声に感化されたかのように、サーティが雄叫びをあげながら尻尾を大きく振り回しロボ人の隠れている岩陰を破壊しにかかった。


ドガラガラガラァァァァン!!!!!!!


ロボ人は隠れていた岩陰を壊され、サーティから丸見えの状態となった。そんなロボ人の姿を発見したと同時にサーティの30頭分の全口元が光り輝きはじめた。


「マジシャン!!!自分の身を守る準備をしておけよ。サーティはなぁ、30ある口の15の口から炎を吐き、15の口から冷気を吐き出せる竜なんだよ。今からそれが飛んでくるゾォ〜。残念だがこの様子じゃ、あのロボットは終わりだな。まぁ〜、頑張った方だとは思うがな」


「ロボ人逃げろォォォォォォォォ!!!!!!」


そんなバンプの声が逆にサーティの引き金になったかのように、サーティの30ある口から15の炎と15の冷気が吐き出された。


ゴオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!


時に炎に焼かれ、時に冷気により体が固まり、しかしまた炎によって溶かされ、さらに焼かれ、ロボ人はサーティの30の息をダイレクトに受けていた。

バンプは子供たちを抱き込むようにして炎と冷気の余波から守った。


「マジシャンの兄ちゃんありがとう!!」


キツネが久しぶりに言葉を発した。


「気にすんな!!!ただ、この後、どうすればいい。俺が竜もコンロも相手にするってなるとやっかいだぞ!!」


バンプはロボ人の負けを確信していた。

あれだけダイレクトに食らったのだから誰もがそう思うはずである。

しかし、実際はそうではなかった。


「あれ、ロボ人普通に立ってね?」


サーティが全ての息を吐き終わり視界が晴れた時、そこにはロボ人が普通に立っていたのである。

悠然と立ちながらも気絶していた・・・いいや、そうではなく普通に立っていたのである。


「竜よすまないでござる。拙者ロボットであるがゆえ、炎や冷気が効かないのでござる。」


・・・・・・・・・


・・・・・・・・・


エエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!


そこにいた全員が驚いた!!!!!!!


「チートじゃんかよ!!!!!」


キツネがストレートに言った。


「ははは!!!面白ぇ仲間もってんじゃねぇかマジシャンよぉ!!!!!」


「すまぬな竜よ。お主の必殺技を難なく受け止めてしまって・・・」


ロボ人は謝った。


「何かしら大きな技を持っていると思っておったから、少し挑発でもして引き出そうと岩陰に隠れたのだが、やはり逃げるは恥でござるな。拙者の性分に合わんでござる。しかし、おかげでお主の必殺技を見ることができたのもまた事実。もう技は隠してござらんだろ?」


動揺を隠せないサーティであったが、ロボ人の問いに答えてしまってはなんだか負けたような気がしてしまうので、リアクションは取らないようにしようと頭のどこかで感じたのだった。しかしそれは30頭の内の27頭で、残りの3頭は正直にロボ人の問いに頷いてしまった。


「では、拙者も技を使ってこの戦いを終わらせることとしよう!!」


「いよいよロボ人の技が見られるぞ・・・」


バンプはドキドキした。


「この世にはいろんな武術が存在するでござる」


ロボ人が何やら語り出した。


『長くなりそう・・・』


その場にいた全員がそう感じた。


「空手と呼ばれるものや、柔道と呼ばれるもの、合気道などもそうでござる。さらには無名でありながらも高度な技を有する武術も存在するでござる。中には暗殺目的で受け継がれてきた武術も存在する」


「ま、まさか暗殺武術を会得しているというのか???」


バンプは若干棒読みで行った。


「しかし、私は暗殺術などには興味がなく・・・」


「ないんかぁ〜〜〜い!!!」


バンプはひっくり返った。


「世界各国を飛び回りながら、自分にあった武術を探していたのでござる。あくび真拳、かさぶた流術、末っ子長男真拳など、レアな武術とも出会いながら、それでもなかなかしっくりくるものに出会えなかったのでござる。自分には武術など無理な話だったのかと諦めかけていた時もあったでござるが、しかし、それではいかんと己を奮い立たせ探し続け、ついに見つけたのでござる。それがこの"言霊真神拳ことだましんけん"でござる」


言霊真神拳ことだましんけん???』


その場にいた全員が首をかしげた。


「左様、言霊真神拳ことだましんけんとはその名の通り言霊の持つ力を技の力に変え放つ武術でござる。古くから言葉には力が宿ると言われてきたのはご存知でござろう(あくまでも個ロボのイメージです)。"熱い""寒い""大きい""小さい""優しい""怖い"言葉にはいろんな力が宿っているのでござる。例えば技や魔法を使う時に、その技名や魔法の名前を叫ぶのも、少なからず技の力に影響を及ぼしているのでござる。言霊真神拳ことだましんけんはそこを追求した武術なのでござる。この技は技の名前を力に変え相手に放つ技。そのため技の名前が長ければ長いほど力を発揮するのでござる。ご理解いただけたでござるか???」


コクコクコク


サーティも含め、その場にいた全員がうなずいた。


「では、そろそろ実践に移るでござる」


そう言うとロボ人は袖をまくって気合いを入れる動作をした・・・・・が。


「イヤイヤイヤイヤ!!!ロボ人〜〜〜〜!!!お前袖ないぞぉ〜〜〜!!!!!ロボットだから袖ないぞぉ〜〜〜!!!」


ロボ人に袖がなかった。


「この技は歴史が浅く、今もまだ発展途上でござる。そんな言霊真神拳ことだましんけんを教えてくれた始祖でもある師匠はとても華奢で、力とは無縁のような方でござった。しかしとても頭が良くて、多くの言葉とその意味を知っていたでござる。そんな師匠が編み出した技が10連言霊拳でござる。10個の漢字を並べ技の名前とすることで、その名前にちなんだ効果を発動するというもの。人間の限界に挑戦した技であった。なんせ技名を口に出して発しなければこの技は成立しないのでござるから。技名を言っている途中に相手に攻撃されれば終わりでござる。ハラハラドキドキの武術でござる。拙者はこの技に感銘を受け、師匠にイチから叩き込んでもらったのでござる。そして見事習得に成功したのでござる。さらに・・・・・」


「ギャァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」


ロボ人の説明の長さにしびれを切らしたサーティが30の頭を最大限に早く振りながらロボ人へと突進してきた。

その姿を見たロボ人は構えた。


「さらに拙者はその倍の20連言霊拳まで使えるようになり、ついには師匠さえも超えたのでござる。食らえ竜よ!お主の最後の晩餐は人でも牛でも野菜でもなく無味無臭の言葉でござる。」


右手硬握気合込心込精神集中真直突出機械拳ぎてかたにぎりきあいこめこころこめせいしんしゅうちゅうまっすぐつきだすきかいけん


ズバゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンンンンンンンン!!!!!!


サーティの体に向こうの景色が見えるくらいの大きな大きな穴が空いた!!!ロボ人の言霊真神拳ことだましんけんがサーティに炸裂したのである。そしてロボ人はサーティに勝利したのだった。


「ってか、技名喋るの早ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


「そう!!!そこが拙者がこの技に可能性を感じた1番の理由でござる。拙者はロボットであるが故に言葉を噛まずして超高速で発することができるのでござる。それにロボットであるが故に1度覚えた言葉は忘れないのでござる。これが師匠を超えることができた理由でござる」


「確かに、人間が口に出して技名を言うには限界があるよな。それに加えて超高速で喋れて、噛みもしない、言葉もどんどん覚えていく。お前のためにあるような技だな。それにしても一気に師匠の倍の言霊を使えるようになるなんて、その師匠もやりきれなかっただろうな」


「師匠に初めて20連言霊拳を見せた時は、それから3日間口を聞いてくれなかったでござる」


「だろうな。俺が逆の立場だったら1週間は口聞かないかも・・・」


「はははでござる。バンプ殿、拙者は勝ったでござる。あとは任せたでござる。拙者エネルギーを使い過ぎてしまったでござるので、スリープモードに入るでござる」


そう言うとロボ人はその場に座り込んだ。


「しっかりバトンは受け取ったぜ、ロボ人!!!!!こっからは俺の番だ。絶対にあいつに勝つから、そこで見ててくれ!!」


「頼んだでござる!!」


ロボ人は声もあまり出なくなっていたが力を振り絞りバンプへ言葉を投げかけた。


「さぁ、俺たちの番だな」


バンプがコンロに言った。


「オイオイオイオイオイオイ!!!!!サーティを倒すなんて、なんてことをしてくれちゃってんだよ!!!!!チッキ様に怒られるの誰だと思ってんの?面倒臭ぇ事してくれちゃって本当に。・・・・・じゃあこうしよう。お前たちを全員チッキ様に頼んで代わりのペットにしてもらおう!!!これだけ面白いヤツらが集まっているんだから、チッキ様も喜んでくれるだろ。よし!!!決めた!!!そういうことだから。お前ら負けたら人間やめろな!!!」


「お前ら本当に考え方がイカレてんな!!!それにまだお前が俺に勝ったわけじゃないんだぜ!!!」


「減らず口を!!!よほど自分の力に自信があるんだな!!!」


「まぁな、こちとら世界一の剣豪を目指しているもんで」


「いいねぇ〜、その心意気。俺は見習わないけれど」


「ひとついいか?」


バンプが真剣な顔でコンロに問いかけた。


「なんだ??」


コンロも真剣な顔でバンプに聞き返した。


「お前たちはなぜこの洞窟に来たんだ。もともとあのサーティとかいう竜の餌のためにトツペ村を襲ったんだろ。それなのに肝心の竜はここでお前と一緒にお留守番って変じゃないか?」


「気づいちゃったかぁ〜、そこに」


「お前の目的は何なんだ?」


「お前、COFFEE BEANS《コーヒービーンズ》って知ってるか?」


久しぶりにこの単語が出てきた。


「COFFEE BEANSって、あのCOFFEE BEANSか?」


「そう!あのCOFFEE BEANSだ!!!それがこの洞窟の中にあるらしいという情報を仕入れてな。もしかしたらとてつもない化け物がガーディアンとして一緒にいるかもしれないと思ってサーティも一緒に連れてきたわけよ」


「お前の実力なら、そんなことしなくても一人で十分なんじゃないのか?」


「何言ってんだお前!!!そんなの面倒臭いだろ!!!俺そういうの嫌いなんだよ!!!省エネ派だからさ」


「よく言うぜ、人使い・・・いや竜使いが荒いだけだろ!!!で、そのCOFFEE BEANSは見つかったのか?」


「あぁ、コレのことか?」


「それは???」


コンロが見せたものは紛れもなくCOFFEE BEANSだった。


「簡単だったよ。これが置いてあった部屋には誰もいなくて、罠もな〜んにもない!!!多分、こんな不気味な洞窟に入る勇気があるっていうだけで試練を突破したってことなんじゃねぇの???」


「くそっ!!!よりにもよってもう手に入れられてんのかよ」


「安心しろマジシャン!!!これはチッキ様への手土産だ!!!俺は使ったりしねぇ!!!正々堂々と勝負しようぜ!!!」


「お前のそういう潔いところだけは、敵ながら尊敬するぜ。ちなみに村の人たちはみんなまだ無事なんだろうな???」


「ここについてCOFFEE BEANSを見つけるやいなやサーティは寝ちまったからな。その後で部下たちが村人たちを連れてきたから、全員命はまだあるよ」


その言葉を聞いて。キツネとネギマとマキは笑みを浮かべた。


「だとよ、ちびっこ3人集!!!」


「誰がちびっこ3人集だよ!!!」


キツネはバンプに突っ込んだ。そして、そのバンプもまた笑顔であったことに、キツネはさらに嬉しくなった。


「悪いな!!!村人たちの無事を聞いてちょっと力が出てきたわ!!!なんだかお前に負ける気がしなくなってきた!!!」


「ほざけ!!!マジシャンごときが俺になんて勝てるわけねぇだろ!!!」


「じゃあ、やってみるか!!!」


バンプがコンロに切り込んだ。

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