第10話 不運?幸運?

なんか嫌な胸騒ぎがしたんで急いで村を出たんだが正解だったな、バンプはプットス草原に着くや否やその光景に安堵と驚きの両方を感じていた。先日、モカと話していた時刻よりも数時間早く辿り着いたはずなのに、そこにはデスク軍が軍勢を引き連れて集まっていたのである。


「ボード様。なんだかよく分からないやつが現れましたキー!」


「ふんっ!放っておけ。我らの目的は、あのCOFFEE BEANSにも引けを取らないという例の果実だけだ。無駄なことをしている時間はない」


「しかし、ボード様。その果実だっていつ実がなるかわからないんでしょ?一体どうするつもりなんですキー?」


「確か、近くに村があったはずだ。そこで、のんびりと待てばよかろう。デスク様は寛大なお方だ。そのくらいの時間はお許しくださるはずだ」


「まぁ、あっしは力が手に入れば何でもいいんですがね。あそこにいるのは、その邪魔になりそうな男ですねキー」


「そこのキーキー言っているのが副幹部のキーかな?すると、その隣がボードってことかな?」


バンプが2人に話しかけた。


「その通り!あっしはデスク軍幹部ボード様の右腕!副幹部のキー様だキー!」


「ふんっ」


多分、ボードであろう男は自己紹介も何もせずに黙りこくっている。


「念のため聞くんだけどさ。君たちの目的は何なんだい?」


バンプが質問する。


「あっしたちの目的は、カケタネ村という田舎の村のそばにある聖なる樹になる果実を手に入れることだキー」


「やめてくれって言ったら?」


「聞く耳持たんキー!」


「そっか。じゃあ、一つだけ質問してもいいかな?」


「何だキー?」


「俺の予想では、君たちは午後くらいにこの草原にたどり着くはずだったんだ。なのに、実際はこんなに早く着いている。しかも軍全体が。一体どうやったんだい?」


「どう予想を立ててお前が、午後くらいにたどり着くと感じたのかは知らないキーが、あっしたちは川を下ってきたんだキー!」


「えっ?川を?」


「そうだキー!大木を切り抜いて作った即席の船に乗って来たんだキー!あっしたちのアジトからこの草原までは川が流れているんだキー!船さえあれば、あとはその流れに乗るだけで、大して体力を消耗することなく、ここまでたどり着けるんだキー」


「そんな。これだけの兵を乗せる船まで持っているのか?」


「それは違うキー!船と言っても、あくまで即席のものだキー!ボード様がいくつか大木を切ってくださり、それにあっしたちはただ乗ってきただけだキー!」


(これだけの人数を運ぶための大木。数本に分けたとしてもかなりの大きさなはずだ。そんな簡単に何本も切り倒せるものなのか?あのボードって男、やはり幹部なだけある)


バンプはボードの実力へ少しの畏怖を感じた。


「やはり、君たちは危険な匂いがするね。カケタネ村のためにもここで倒しておく必要があるな」


「お前一人で何ができるキー!この軍勢が見えていないのかキー?デスク軍の精鋭と呼ばれているこいつらを前に、まだそんな口がきけるとは。その自信だけは褒めてやるキー!」


そう、バンプの目の前には100以上の兵がいるのである。


「お前みたいな男が一人頑張ったところで、あっしたちの目的には何ら支障は出ないキー!これ以上話すだけ時間の無駄だキー!お前ら、一気にカタをつけるキー!」


『オォォォォォォォォォォォ!!!』


キーの掛け声で、引き連れていた100以上の兵が一気にバンプへと向かってきた。


「ヤバァァァイ!!!これじゃあ、やられちゃうよぉぉぉぉぉぉ!!!」


「キキー!今頃怖気づいたって遅いのだキー!お前はもうあの世行き決定だキー!」


「ワァァァァァ!!!嫌だよぉぉぉぉぉぉぉ!!!・・・・・・・・・なぁんちゃって★」


そう言うとバンプは腰の左に刺した剣のつかを右手で持った。


緒操呂奇真剣おどろきしんけん

覇々抜き《ばばぬき》


それは瞬きをすれば見逃すほどの速度だった。デスク軍の兵全員へと当たるほどの範囲を持った衝撃波が放たれ、もれなく兵は一人残らずその場に倒れた。


「ほう・・・」


ボードと思われる。いや、ボードです。はい。そいつは腕を組んだままバンプの技に感心していた。


「キーィィィィィィ!!!なんだその技は?よくも我らの可愛い部下達をぉぉぉぉぉぉ!!!許さんキー!!!こうなったらあっしが直々にお前を倒してやるキー!!!この程度の実力で調子に乗っていると痛い目見るキー!!!」


「ははっ!俺だってこの程度が本気と思われちゃ困るんだよね。楽しみだなぁ〜」


バンプはまだまだ余裕の表情で、これからのバトルを楽しみにしているようであった。


「ジャキィィィィィン!!!」


キーは武器を取り出した。それは爪だった。


「あっしの武器はこの両腕についた爪なのだキー」


「へぇ〜、いきがってた割には普通の武器なんだね」


「剣が言うなキー!!!」


「ごもっともだね。でも、どんな武器でも俺は負ける気がしないな。さぁ、かかってきな」


「その自信は数秒後に打ち砕かれるキー!行く気キー!」


キーのその声にとっさに構えをとったバンプ。しかし、次の瞬間バンプは驚く。


「消えた・・・」


そう!キーがバンプの視界から消えたのである。・・・オホン。失礼。キーがバンプの視界からキーえたのである。


ザクッ!!!


「っつ!!!」


それは姿の見えないキーからの攻撃だった。浅くではあるがバンプの体が切られた。


ザクッ!!!ザクッ!!!


またしてもバンプの体が切られた。


「キーーーエ!さっきまでの自信はどうしたのだキー!攻撃が当たりまくってるだキー!」


「まいったな。姿が全然見えないや」


ザクッ!!!ザクッ!!!


「キーキーキー!あっしの特技は擬態!1回10秒、どんな景色にも溶け込むことができるのだキー!その後、1呼吸さえおけば、また10秒と、すぐに使えるんだキー!」


バンプへの攻撃を続けながら、弾むような声でキーは語る。


「軽くチートじゃん!その特技。ちくしょう、視覚が意味をなさないか・・・。だけどね。俺がマジシャンってことをお前は知らないみたいだ。マジシャンは観客の視覚を裏切ってなんぼ。ゆえにパフォーマンスする本人たちは、それ以外の感覚も常日頃から研ぎ澄ましていなくてはならない。例えばこんな風に・・・」


そう言うとバンプはスッと目を閉じた。


スカッ!!!


バンプはこの戦いで初めてキーの攻撃を避けた。


「何ぃ〜!!!そんなバカなだキー!!!」


「フフフッ。もうお前の攻撃は当たらないよ」


「今のはまぐれだキー!今度は畳み掛けるキー!!!」


シュッ!!!

スカッ!!!


シュッ!!!

スカッ!!!



シュッ!!!

スカッ!!!



キーの攻撃が全く当たらなくなった。

しかし・・・、


「キーキーキー!反撃はどうしたキー?避けるだけで精一杯ではないかキー?」


その通りであった。バンプは聴覚を研ぎ澄ましキーの攻撃を避けられるようにはなったのだが、未だに反撃の糸口は見つけられていなかったのである。


(こいつの言う通りだ。今はちょっとした風の揺れる音を聞いて動きを認識できているが、攻撃に転じる余裕がない。こいつの攻撃自体は複雑ではない。多分、この特技に溺れて接近戦の技術は磨いてこなかったんだろう。だからと言って、こっちが攻撃できなければ同じことだ。何か糸口はないのか・・・)


と、その時だった。


ビュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウ!!!!!


プットス大草原を強い風が吹き抜けた。


ビュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウ!!!!!


ビュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウ!!!!!


風は止まない。むしろ、今まで風があまり吹いていなかったことの方が特別だったのである。


ザクッ!!!


ザクッ!!!


風の音が大きくなったせいで、バンプは聴覚に集中力を注ぐだけでは、キーの動きを捉えられなくなってきたのだ。


「どうしたキー?風の音がうるさくて集中できないかキー?攻撃がどんどん当たり始めたキーよ!さっきはヒヤッとしたキーけど、このままだと、どうやらそろそろ終わりになりそうだキー!天もあっしに味方してきたのだキー!」


「くそっ!あと一歩で解決策をつかめそうだったのに、いくら聴覚を鍛えているとはいえ、やはり一朝一夕ではうまく使いこなせなかったか。不甲斐ない」


バンプはうなだれた。そして意識するでもなく、自然と目を開けた。急にキーの姿が見えるようになってやしないかと根拠のない願いもむなしく、先ほどと変わらず、キーの姿は見えない。


ザクッ!!!


ザクッ!!!


ザクッ!!!


今バンプは、キーが攻撃する、その瞬間の殺気に反応してダメージを受けながらも急所に当たることだけは避けている状態である。


「目を閉じても、開けても、あいつを捉えることはできないのか・・・・・・・・んっ?」


何かに気がついたバンプ。


「さぁさぁさぁ!そろそろ次で最後だキー!!!」


10秒経ち、一呼吸おいたキーが、バンプから少し距離を置き話しかける。


「お前の敗因は、こんな風の強い大草原であっしと闘ってしまったことだキー!!!もしここがただの大地だったら万が一もあったかもしれないキー!その不運も含めてあの世で後悔するキー!」


そう言うとキーは姿を消し、バンプへの最後の攻撃に入った。


「フフフ。お前は何もわかっていないねぇ〜。ここが大草原だから"俺が負ける"だって?違うよ。ここが大草原だから、俺が勝つんだ!!!」


「はっ?強がりだキー!あっしが真っ直ぐお前に攻撃をするならまだしも、あっしは擬態を使いながらも、動き回っていろんな角度からお前を攻撃してきたんだキー!!!」


キーの言っていることは正しい。現にバンプの体の傷はいたるところにできている。それはキーが擬態しながらも、真っ直ぐな動きではなく、あらゆる方向からバンプへ攻撃を仕掛けた証拠である。


「わかってないねぇ〜。単調とか複雑とかどうでもいいんだよ。お前の動きが見えていれば何の問題でもない」


「何を言っているキー!見えているわけないキー!擬態をなめるなキー!もうこれでくたばっちゃえキー!」


「だから、お前の動きなんて丸わかりなんだよ。だってほら、足元見てごらん!」


「何を言っているキー!!!足元なんかに何もあるわけ・・・・・」


!!!!!!!


「こっ、こっ、これはまさか・・・?」


「そうだよ。ここは大草原だ。僕らは、はじめからこの草を踏みながら戦っていたんだ。君の姿が見えなくても、この草が踏みしめられていく様子を見ていれば、こんな風に・・・」


スカッ!!!


「ね?簡単に避けられちゃうんだよ」


スカッ!!!


スカッ!!!


スカッ!!!


「ありえないキー!ありえないキー!」


キーの攻撃がバンプに全く当たらなくなった。


「お前も望んでいることだし、そろそろ終わりにしようかな」


「ちょっ、ちょっ、ちょっと待つキー!」


「う〜ん。ごめん!イヤだ」


緒操呂奇真剣おどろきしんけん

返師王ぺージワン


先ほどの覇々抜きが横一閃の剣技なのに対し、こちらは縦一閃。その一振りが、キーの体の中心線を捉え、見事にヒットした!!!


「あっしがこんな奴に負けるなんてありえないキー!!!」


・・・バタンっ!!!


バンプはキーに勝利した。


「ったく。だから、あれほど接近戦も練習しろと言ったんだ。アホゥが!!!」


「さぁ、次はあんたの番だ。デスク軍の幹部なんだろ?ちょっと可愛がってあげるよ」


「ふんっ、調子に乗りおってからに。まぁ、わしも最近体が鈍っていたから。どうせおままごとだろうが、相手してやるとするか」


さぁさぁ、バンプ VS ボード 開戦だぁぁぁぁぁぁ!!!


いったいどうなってしまうのか?


頑張れバンプ!


負けるなバンプ!


次回へ続く!

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