第9話 正論はイレギュラーに勝てない

バンプとの約束を結び、「カケタネ村」へと1人戻ってきたモカ。すると村の入り口にボールを持った1人の女の子が立っていた。


「どうした?お嬢ちゃん」


モカは聞いた。


「ねぇ、紙袋。さっきまで、あの大きな木の下でバンプ様と話していたでしょ?私見てたの。あなたってバンプ様のお友達なの?」


「俺は紙袋ではない!モカという立派な名前があるんだ!」


「自分で立派とか言って恥ずかしくないわけ?いいから友達なのかどうか教えてよ!!」


言葉だけだとふてぶてしく感じそうだが、女の子はずっと不安そうな顔をしている。


「まぁ、友達といえば友達かな。どうした?」


「さっき、バンプ様が遠くの方へ行くのが見えたから、心配になって村の入り口のところまで来てしまったの。バンプ様は元々旅をされていたと聞いたわ。もしかして、もう旅立たれたの?」


「心配するな!あいつは村の安全のために、周りに怪しい奴がいないかパトロールに行っただけだ。そのうち戻ってくる」


「本当に?」


「本当だ!!」


その言葉を聞いて、女の子は表情が一気に明るくなった。


「お前、バンプのことが好きなんだな」


少しからかい混じりでモカが聞いた。


「私ね。1ヶ月前にパパのお仕事の都合で、この村に家族みんなで引っ越してきたの。縁もゆかりもない、知人も友達もいない村だったから、友達を作るのにも、私から行動しないとって意気込んでいたんだけど、いざ友達を作ろうとすると上手く話せなくて、話し掛けてもらっても緊張して上手に返せなくて、もうダメダメ。友達なんて全然できなくてずっとひとりぼっちだったの。そんな時、バンプ様がこの村にやってきたの。そして、今日みたいにマジックショーを開いてくださったの。私は友達がいなかったから、初回から1人でバンプ様のマジックショーを見に行ったわ。最前列で見ていたら。最後のマジックの時に、サポート役として私を選んでくださったの。さっき、あなたもステージに上がってたじゃない?あんな感じよ。とてもワクワクしたわ。あなたの時と同じマジックよ。黒い箱にバンプ様が入るヤツね。ステージに上がると客席が満員になっているのがわかった。子供も大人もたくさんいたの。それを見た瞬間に急に緊張し始めて・・・。だけど、そんな私を見てバンプ様は"大丈夫だよ"と、優しく言ってくださったの。それで一気に緊張が解けて、マジックに集中できるようになったわ。あなたの時と違って、私の時は初めに渡された剣がとても重くてね。全然持てなかったの。だけど、それも含めてバンプ様の演出だったみたい。その演出も私の緊張をほぐしてくれたわ。私の出番も無事に終わり、会場からは大きな拍手♪私にとっては、この村に来て初めての楽しい時間だった。マジックが終わり、寂しさを感じながら、家に帰ろうとすると、"スゴイね""カッコ良かったよ"って、周りの子供達が声を掛けてきてくれたの。私もなぜだかその時は上手く話せて、そこからどんどんみんなと仲良くなっていけたの。バンプ様のマジックがなければ、私は今日も1人で遊んでいたと思うわ。バンプ様は、私にとってのヒーローなの。できることなら、この村にずっといてほしい。それが無理なら、せめてこの村を出る日くらい教えてほしい。そして言いそびれていた"ありがとう"を言いたいの。だから、もし、バンプ様が勝手にどこかへ行こうとしたら、その時は教えなさいよ。紙袋!」


好きなことの話をする時、人はついつい熱くなってしまう。このくらいの年齢でもそれは同じなのだなとモカは思いながら、子供にしたわれているバンプの話を聞いて、どこか自分も嬉しい気持ちになった。


すると、


「お〜〜〜〜〜〜い!!!タマ〜〜〜〜〜〜〜!!!」


遠くの方から子供がやってきた。


「お前、ボール取りに行ってくるって言ってなかなか戻って来ないから心配してたんだぞ!!!早く遊びに行こうぜ!!!みんな待ってるぞ!!!」


「ごめん。ちょっと急用があって。でももう用事終わったから大丈夫。行こう!」


タマは嬉しそうに子供達に答えた。


「じゃあね。紙袋!!!バンプ様の件忘れるんじゃないわよ!!!」


そう言うと、タマは迎えに来た子供と一緒に走って去って行った。


「こういう村を失くしてはいけないな」


モカは少し空を見上げ噛み締めた。


「よし、早めに結界を張る準備だけでもしておくか」


そう言うとモカは、村を囲んでいる塀の外側から周りを囲むような形で呪文のようなものを書き始めた。その呪文は数時間ほどで書き終え、村全体をぐるりと囲んだ。ひと段落して、モカが腰をトントンと叩いていると。


「よう!モカ!!」


ちょうどバンプが帰ってきた。


「どうやらデスク軍が動き出したみたいだ。数にして100人ほど。しかも幹部のひとりである"ボード"と、その副幹部"キー"もこっちに向かってきているみたいだ」


「ほうほう」


モカにはいつものように緊張感がない。


「わくわくしてくるな!」


バンプにも、どこか緊張感がないようだ。


「思うのだが、あの木の場所で戦わなくてもいいんじゃないのか?もう少し村から離れた場所で戦った方が安全だと思うが?何かこだわる理由でもあるのか?」


「・・・・・」


「・・・・・」


「・・・・・正論!なんでもっと早く気が付かなかったんだぁ〜!!!そうだよな。何も村の近くで戦うことないよな。盲点だったわぁ〜。村から距離を取れば村も安全!うわぁぁぁ。全然気がつかなかったよぉ。それ最高じゃ〜ん。そうと決まれば、これ見て」


そういうとバンプはどこからともなく地図を取り出した。


「ここがデスク軍の本拠地で、ここがカケタネ村。2つを直線んで結んだところにある、戦いやすい場所と言ったら、ここかな?山が削れて出来た道で、ここは狭いから100人いても一斉に狙われる心配がない。人数差を埋めるにはもってこいの場所なんだ。デスク軍の本拠地からも離れているから、スグに増援を呼ばれる心配もなし!よし!ここで奴らを迎えよう。モカは村で待ってて。何かあった時は結界をよろしく」


「いや、ヨロシクって、お前1人で行くのか?」


「そう!モカは村の大切なお客様なんだから」


「いや、大切なお客様に結界お願いしてるだろうが!俺も行く!面白そうだから」


「モカが行ったら、誰が村を守るの?」


「結界を張ったまま戦えばいいんだろ!」


「えっ?そんなことできるの?普通、結界を張っていると動けなくなるんじゃ・・・?」


「誰が言った?」


「誰が言ったって、常識なんじゃ・・・」


「それは常識ではない。ただの間違った知識だ」


「マジ?」


「マジ!」


「そんなことまでできるのかよ!」


「できる!」


モカのその言葉に、バンプは唖然とした。


「でも、モカを危ない目に合わせるわけにはいかない。だから、俺が1人で片付ける。それだけは譲れない」


「わかった。俺は見ておくだけってことで」


「よしっ!それで決まりな!」


「いや、もう1つある!」


「なんだよ!まだあるのか?」


「あぁ、奴らを待ち受ける場所をここに変更してほしい!」


そういうとモカは地図上のある地点を指差した。


「プットス大草原?なぜここがいいんだ?」


「う〜ん。理由はない!なんとなくだ!」


「もうわかったよ。他は?」


「いや、他はない!」


「よしっ!今度こそ決定!プットス大草原だとさっきの場所よりもカケタネ村寄りだから、もう少し遅くに出発してもいいかもな!モカの結界があるとはいえ、念のため村のみんなには、"近くで猛獣が確認されて、その討伐に向かうから、安全のために村からは出ないでくれ"とでも言っておくよ。じゃあ、今日はゆっくりして体を休ませておけよ」


「OK〜!」


モカは浮かれた返事をした。


「ではまた明日会おう!」


「あぁ、また明日な!!」


そう言って2人は別れた。


そして次の日。


zzz


ガヤガヤガヤガヤ。


パチッ!


外の騒がしさでモカは目を覚ました。


「モカさん!お目覚めですか。」


宿屋の店主がモカに話しかけてきた。


「なんだか外が騒がしいな」


「はい!先ほどバンプ様が血相を変えて村の外へと飛び出して行かれたんです。村人たちは、猛獣が近くに現れたのではないかと不安を感じているところです」


(何か想像していなかったことが起こったのだろう。でも、あいつ一人でもかなり善戦しそうだから、もう少しゆっくりして、行こうかな)


なんて、モカはマイペースに考えていた。


「誰か〜!誰か〜!うちのタマを見ませんでしたか〜?」


宿屋の外から女性の声が聞こえる。聞き覚えのある探し人の名前にモカは反応した。そして、急いで店を出てその女性の元へと向かった。


「今、タマと言ったか?」


モカが女性に尋ねる。


「はい!私の娘です!さっきから姿が見当たらなくて・・・」


「タマだったら、さっきバンプ様を追いかけて村の外に出て行ったぞ!」


町の人が親切に教えてくれた。その瞬間。


ドヒュン!


モカが凄いスピードで人混みをかいくぐり、村の外へと出ていった!


さぁ〜、バンプ、タマ2人の運命や如何に?


頑張れモカ!


負けるなモカ!


次回へ続く!

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