第8話 いつもの日常は、時として最高の日常である

「この村を守って欲しい?その真意をまずは聞こうか??」


モカは冷静にバンプに聞き返した。


「俺は元々この村で育ったんだ。 "生まれた"のではなく、"育った"と言ったのは、俺がこの村の人たちに拾われた子供だからだ。物心つく前だから全く覚えてはいないが、俺を育ててくれた、血は繋がっていない父さんと母さんに教えてもらったからそうなんだろう。そんな俺も、3年前にこの村を出た。理由は世界一のマジシャンになりなりたかったからだ。マジシャンになって、世界中の子供達を笑顔にすることが俺の夢なんだ!まぁ、正確に言えば、夢はもうひとつあるんだけどな。その二つの夢を叶えるために、修行も兼ねて全国を旅していたんだが、その途中でよからぬ噂を耳にしたんだ」


「・・・・・」


モカは真剣にバンプの話を聞いている。


「その噂っていうのが、どうやらデスク軍がこの村を狙っているらしいというものだ。なぜ、こんな田舎の村をデスク軍が狙うのかって思うかもしれないが、村人達だったらピンとくるだろう。その理由は多分コレだ!!!」


そう言うとバンプは待ち合わせの目印となった目の前の大きな木を指差した。


「この木は、今はただの木に見えるかもしれないが、時期的に考えて、あと数週間、いや、もしかしたら数日の間に、たったひとつだけ実を宿すはずなんだ。きっとデスク軍はその実を狙っているんだろう」


「その実が一体なんだというんだ?」


モカが問い返す。


「あんた、COFFEE BEANSって知っているか?」


「あぁ、知っている」


「そのCOFFEE BEANSの秘めてる力についても知っているよな?」


「とてつもない力を手に入れられるんだろ?」


「そうだ!ただ、COFFEE BEANSには力と引き換えに、取り込んだものが自我を失くしてしまうというリスクがあるんだ」


「そのことも知っている。だからなんなんだ!」


モカは少し痺れを切らして言った。


「すまん。回りくどくなったな。実は、この木になる実にはCOFFEE BEANSまでの力はないが、デメリット無しで食べたものの力を増幅させる効果があるんだ!COFFEE BEANSと比べれば、3分の1、いや、4分の1くらいしか及ばないかもしれないが、それでもかなりのパワーアッップが期待出来る木の実なんだ。俺たちは、毎年、実がなると大切に摘み取り、何十リットルもの水の中に、その果汁を絞るんだ。そしてその水を村人全員に配って飲む。そうすると村人全員が1年間、無病息災で頑張れる。そうやってこの村のみんなは健康を守ってきたんだ。気休めなんかじゃないぞ!飲んでみたらわかると思うが、希釈された水であっても、飲むだけで力がみなぎってくるんだ。その話が巡り巡って、デスクの耳に入ったんだと思う。俺はその情報を知ってから、心配になって、変装してデスク軍の内部に潜入したんだ。そこで聞いた話によると、どうやら奴らは数日後にこの村を襲いにくるらしい。奴らも奴らで立て込んでいるらしく、詳しい日時までは知ることができなかったが、いつ来てもいいようにと、俺は先週からこの村に滞在して、デスク軍の進撃に備えていたんだ。そんな中、あんたに出会ったというわけだ」


「なぜ、俺に声を掛けた??」


「それはもう、強そうなオーラがビンビンに出ていたからね。それでも、オーラって目に見えないから不安じゃん。だから、俺のマジックに参加してもらって実力を図ろうとしたわけ。でも、想像以上だったよ。まさか、本物の剣を渡す流れのために作っていた、かなり重たいはずのダミーの剣を軽々と持ってしまうなんて」


「やっぱり、あの剣はブラフだったのか?あんなに重たいのを子供が持てるわけないと思っていたからな」


「そうそう。あれを子供に渡して、持った瞬間に重すぎて手を離す。そして、実はこっちの剣でした〜って、本当にマジックで使う剣を取り出すっていう流れだったのに、普通に片手で持っちゃうんだもん。驚いちゃったよ」


「ふん、よく言うぜ。お前も片手で俺に渡したじゃねえか?」


「あれっ?そうだっけ?」


「ふんっ!そんなに力があるのなら、お前一人でどうにか出来るんじゃないのか?」


「狙いが俺ならね。でも、デスク軍の狙いは実なんだ。そのためなら村人達にも容赦しないと思うんだよ。さすがに村人達を守りながら敵の相手もってなるとね・・・。だから、君には村人達の護衛を頼みたいんだよ」


「お前はどうするつもりだ?」


「俺は、ザコと大将の処理かな!デスク自らこの村に足を運んでくるのなら、一騎打ちといこうじゃないか。ワクワクするねぇ」


「どのくらいの人数が来るのかもわかってないんだろう?」


「まぁね。人数によっては物理的に戦えないし、守れないしってなるかもね。その時は、もうお手上げだよ。どうしようもない。でも、できる限りの事はしたい。それが、俺を育ててくれたこの村への恩返しになると思うから」


「ヘラヘラしている割には、そういうところ考えているんだな」


「失礼なこと言うね。俺がヘラヘラしているのはマジックをしている時だけだよ。普段は真面目な顔しかしていないんだからね」


「ふぅ〜ん」


モカは明らかに信じていない顔をした。


「で、どう?手を貸してくれない?」


そう言うとバンプはモカに手を差し出した。


「しょうがねぇな」


モカはバンプの手を握った。


「ありがとう。改めまして、俺の名前はバンプ。世界一の剣豪兼マジシャンを目指す男さ」


「俺はモカだ。周りからは大魔法使いってよく言われる」


「えっ?大魔法使い?本当に?あの剣を片手で持てるほどの腕力があるというのに、魔法の方が得意ってことかい?こりゃ驚いたな。その魔法楽しみにしておくよ。ん?待てよ。そんなに魔法が得意なんだったら、ひとつお願いを聞いてもらえないかな?」


バンプは急に真剣な顔になった。


「何だ?」


「モカは村規模で結界を張れたりする?」


「愚問だな」


「そうか、だったらさ"カケタネ村"に結界を張ってもらえたりしないかな。できればデスク軍の視界から消えるような結界とかだと嬉しいな」


「別に構わんが。どうしてだ?」


「できれば、このことは村の人たちには知ってほしくないんだよね。だってさ、いくら俺たちが頑張ってデスク軍に勝利したとしても、また、いつか同じようなことが起きるんじゃないかって、みんなが不安を感じながら生活を送らなくちゃいけなくなるかもしれないだろ?そうならないためにも村の人たちには、俺たちが戦っている間もいつも通りの生活を送って欲しいんだ」


「わかった。じゃあ、この村にはそういうタイプの結界を張っておくとしよう。村の外からは俺たち2人にしか見つけることができなくて、村の中にいる人たちは、村の外を見ても俺たちが戦っている姿などは見えないっていう結界はどうだ?」


「それ良いね。村の出入りもあるだろうから、結界を張るのはギリギリで良いと思う。それまでは、集中して村の周りを警戒してくれ」


「お前注文が多いな!!!」


「ハハハ、ごめんよ。モカが頼もしそうに見えるんでついついお願いしちゃった」


「頼もしそうじゃなくて、頼もしいからな!そこは、ハッキリさせとくぞ!」


「ハイハイ。わかったよ。じゃあちょっと僕は、デスク軍の偵察に行ってくるよ。モカは村の人たちとまだあまり話せてないでしょ?戻ったら、村を回ってみなよ。カケタネ村はみんないい人だし、ご飯も美味しいからさ」


「わかった。お前も無理するなよ」


「大丈夫だよ。こう見えて結構強いんだよ」


そう言って、バンプは手を振りながら偵察へ向かった。モカはバンプに言われた通り村へと戻った。


さぁ〜、新たな仲間が増え、用意周到で迎えるデスク軍!果たして、モカたちはカケタネ村を救えるのか〜?


頑張れモカ!


負けるなモカ!


次回へ続く!

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