第7話 鉄の玉はとても重いのである

"カッコイイから"という理由だけで、とてつもない力を秘めたCOFFEE BEANSを集めようとしているモカは、メープルたちに別れを告げ、次の街へとテクテク歩いていた。


クゥー、クゥー。


モカは歩きながら優雅に空を飛ぶ鳥たちの鳴き声に耳を傾けた。


クゥー、クゥー、


ヒューーーーー、ストン。


何かが落ちてきた。モカはその袋を手に取った。


チャリン。チャリン。


袋の中からは何やらお金の音が聞こえる。モカは袋の中身を開けてみた。そこにはお金と一緒にメモが入っていた。


「シロップの風邪薬代が余ったら、パンケーキを買う」


・・・


・・・


・・・


「やってもうタァァァァァァァァ!!!」


そう、やってもうたのである。皆さんは覚えているだろうか?そもそもモカがノート盗賊団へ喧嘩を売った理由。それは、メープルのお金を取り戻すためであった。しかし、なんやかんやで良い感じにまとまって満足したモカたちは、当初の目的など、とうの昔に忘れていたのだった。そして、その目的でもあるシロップの薬代が、鳥の背中に乗ったままこの場所まで運ばれてきたのである。多分、一番最初にモカがメープルを助けてからずっとだと思われる。


・・・


はぁ〜。返しに行くか。


モカはメープルへお金を渡しに帰った。とても恥ずかしかった。ただただ恥ずかしかった。あんなに良い別れ方をしただけに何とも言えないほど恥ずかしかった。村の人たちの"あれっ?どうしたんですか?"と言わんばかりの驚いた顔がとにかく恥ずかしかった。そんなこんなで、メープルとスグに再会を果たしたモカはお金をしっかりと返し、お詫びにパンケーキをこっそりメープルにプレゼントして、改めて次の冒険へと向かったのである。


冒頭の道へと再び戻ってきたモカ。すると、


チリンチリーーーン!!


前から自転車に乗ったおじさんがやってきた。頭にねじりはちまきをしている。知人ではないが、"ゲンさん"って名前っぽそうな人であった。そのおじさんは、モカと通り過ぎる瞬間に少しだけ立ち止まり、


「COFFEE BEANSを探しているんだったら、この先の街に行ってみな!」


と、だけ言い残し去って行った。"なんだ、あのおっさん?"と、心の中で思いながらモカは、おじさんが教えてくれた方へと向かった。のんびりと歩きながらモカはしんみりと考えていた。


「ひとりは寂しいな・・・」と。


つい先日まではメープルがいた。さらに村の人たちとも仲良くなった。ノート盗賊団とも仲良くなった。みんなで楽しむということの温かさをモカは知ってしまったのである。嬉しくなって急にテンションが上がるようなタイプではないにしろ、モカは確実にこの数日間楽しかった。


「仲間でも探すか」


モカは道の真ん中でそう呟いた。


数時間後、たぶん先ほどのおっさんが言っていたであろう村に着いた。入り口の看板には「カケタネ村」と書いていた。モカはドキドキしたり、ためらったりすることなく、村の中へと入っていった。


「レディース・アーンド・ジェントルメーン!!!さぁさぁ、今日もバンプ様のマジックショーが始まるよぉ〜」


村に入ってすぐの広場で男が大勢の子供達に向かってそう話しかけていた。面白そうな雰囲気がビンビンに出ていたので、モカも広場の方へと向かい一緒に楽しむことにした。


「さぁさぁ、目を凝らして見ていてねぇ〜。まずはこの風船!!!この何の変哲も無い風船を空に向かって投げると・・・。ほらっ!!!あっという間に鉄のボールになりましたぁ〜」


「ワァァァァァァ!!!パチパチパチパチ!!!」


「次はこのグラスの中に入ったお水に注目ぅ〜!!!このグラスに入ったお水に黒い布を被せてぇ〜、1、2、3と数えて布をとると・・・。じゃあ〜ん!!!何とグラスのお水がオレンジジュースになりました!!!」


「オォォォォォォ!!!パチパチパチパチ!!!」


男は大人気である。そしてモカも子供と同じように食い入って見ている。


「さぁ〜それでは今日最後のマジックになるよぉ〜!!!今日最後のマジックはこれダァ〜!」


そう言うと男は何やら大きめの黒い箱を持ち出した。多分これは、この男が中に入って誰かに剣などで突き刺してもらうアレだ!!!


「今から私がこの箱の中に入ります。そして事前にひとり指名させていただくので、その子は私が入ったこの黒い箱にある、スキマを目掛けてこの剣を差し込んでください。あらかじめ、剣を差し込みやすいようにスキマを作っているので、力は必要ありません!安心してください」


ざわざわざわ・・・


ざわざわざわ・・・


アゴがシャープになってしまいそうなほど、会場はざわざわとした。"お兄さん大丈夫かな?""危険じゃないの?"そんな声が広場のあちらこちらから聞こえていた。


「うぅ〜ん。誰にお願いしようかなぁ〜・・・。よし!後ろの方にいる、そこの紙袋みたいな子!!!君に決めたっ!!!」


広場にいた全員がモカの方を向いた。そしてモカは思った。


「俺、子供じゃねぇし!!!」


とはいえ、ここでそんな説明をしていても場の空気が悪くなるだけである。モカは大人な対応で、てくてくとステージの方へと向かった。


「やぁ〜はじめまして。いきなり指名したけど大丈夫かな?難しくはないから緊張しなくていいよ」


マジシャンの男は箱の準備をしながらモカに話しかけた。


「よし!準備完了っと。それじゃこの僕の愛用の剣を君に渡すから、これを使って箱にズドンと差し込んでおくれ」


そう言うと男は剣をモカに渡した。


「・・・・・」


モカは男のその剣を持つや否や何かを感じたようだった。


「・・・・・」


そして、男もそのモカの姿を見て何かを感じたようだった。しかし、男は動きを止めずそのまま黒い箱の中へと入っていく。


「それではみなさん!!!本日最後のマジックでーす!!!今からこの紙袋の少年が、黒い箱に入った私に向かって剣を突き刺します!!!もし失敗してしまったら、みなさんに会えるのは今日が最後ということになります。それでは緊張の一瞬です。紙袋の少年、痛くしないでね。さぁどうぞ!!!」


ドゥルドゥルドゥルドゥルドゥルドゥルジャン♪


ドラムロールが鳴り止むと同時に、モカは剣を黒い箱に突き刺した!!!


「キャァァァァァァァ!!!」


会場には、男が本気で刺されたと思い込んでいる純粋無垢な子供たちの悲鳴が響いた!!!すると、マジシャンの男はすぐに手を振り、自分が無事であることをアピールした。


「私は大丈夫で〜す。では紙袋の少年、今度はその剣を抜いてくれるかな?」


"だから、俺は紙袋でも少年でもねぇ"と思いながら、モカは剣を抜いた。男は箱から体を出し、モカの横に立った。


「それではみなさんもう一度、手伝ってくれた、紙袋の少年に大きな拍手を!!!」


パチパチパチパチパチパチパチパチ♪


「手伝ってくれてありがとう」


鳴り止まない大きな拍手の中で、男は耳打ちするようにさりげなくモカに感謝を述べた。


「この後すぐ、村の外にあるあの大きな木の下に来てくれないか?」


そう言うと男は、村の広場からでも見える、その大きな木を指差した。


「わかった」


モカも男に聞きたいことがたくさんあるようだった。とりあえず了承だけして、観客席へと帰って行った。


「今日はみなさん、本当にありがとうございました。また、明日もこの広場でお会いしましょう」


モカは約束通り木の下へと来ていた。男はまだいない。すると強く風が吹いた。


ヒュルルルルルルルル♪


花びらが舞い、木の葉が舞い、瞬間的に幻想的な光景になったかと思った次の瞬間、風はやみ、先ほどのマジシャンの男が現れた。


「で、用事ってのはなんだ?」


モカが先に切り出した。


「率直に言おう。俺と一緒にこの村を守って欲しい」



さぁ〜これは一体どういうことなのか?


この男は一体誰なのか?


新章はまだまだ始まったばかり!!!


頑張れモカ!


負けるなモカ!


次回へ続く!

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