第6話 モカとCOFFEE BEANS

「はぁ〜あ、負けちまったなぁ〜」


ため息混じりにつぶやいたノートは、言葉とは裏腹にどこか清々しそうだった。


「これ知ってっか?」


そう言うとノートは先ほど使えずにいたCOFFEE BEANSをモカに見せた。


「あぁ、知っているとも。それは、俺の旅の目的でもあるからな」


「え?」


モカの意外な返答に思わず大声を出したメープル。


「モカ様、ご存知なんですか?でも、これって危ないものでは・・・?」


「うぅ〜ん。正直、これのことは知っているが、これがどういうものかは知らないんだよなぁ〜」


「へっ?だったらどうして旅の目的だとおっしゃったんですか?」


ごもっともな質問を投げかけるメープル。


「何かカッコイイから」


・・・


・・・


・・・


あたりは固まった。それはモカの魔法の力ではない。・・・いや、ある意味モカの力なのかもしれない。


「はははっ!お前やっぱスゲェな!!!」


ノートは今日イチの笑顔で言った!


「これが何かも知らずに探してるなんて、珍しいヤツだ!お前ぐらいなんじゃねぇのか?そんな理由でこのCOFFEE BEANSを探しているヤツなんて」


「そんなに凄いものなんですか?」


思わずメープルがノートに問いかけた。


「そりゃそうだろ!これを手に入れるために各地で争いが起こってるくらいだぞ!このCOFFEE BEANSっていうのはな、不思議な力が込められた宝石だ。誰が何のために作ったのかはわからねぇが、この世界に10種類存在していると言われている。1つ1つにとてつもない力が込められていて、それを体に取り込めばたちまち強大な力を手に入れることができるんだ!1度取り込んでしまえば、そいつを倒さない限り他人は手に入れることができないんだ」


「そんな、すごいものを何故ノートさんは使わずにいたんですか?」


メープルがグイグイ来だした。


「そんなズルをして、この魔法使いに勝ってもそれは自分の実力で買ったことにはならねぇ!俺の中のプライドが融通きかなかっただけだ。それとな、COFFEE BEANSは、体に取り込むことで強大な力を手に入れられるが、その分、自我を保つことが難しくなるんだ!敵味方関係なく攻撃を始めたり。自分の最愛の人を手に掛けてしまったヤツまでいるという噂だ。だから、普通は体に取り込んだりせずにこうして所持しておくことの方が多いんだ」


「大きな代償を伴う宝石なんですね」


「そうだ!そして、この世にある10個のCOFFEE BEANSを集めると、そいつの思い描く世界を創造できるらしい。だが、その時に本人がCOFFEE BEANSを体内に取り込んでいた場合。共鳴し合うCOFFEE BEANSは1つになろうとするので、そいつの体を突き破ってでも外に出ようとするって話だ。結果、そいつは命を落とすことになるそうだ。とはいえ、まだまだ謎の多い宝石だ。それに、こんな宝石の力を借りるってことは自分を捨てるってことだ。その先で勝利を掴んでも虚しいだけだろ」


「お前、良いヤツだな」


「うるせぇ!!!」


「なんでメープルの村を襲ったりしたんだ」


「それは、この盗賊団が強いということをみんなに見せしめたかったからだ」


「そこは、なんか器ちっちぇえんだな」


グサッ!!!


メープルにはノートの胸に突き刺さる言葉の刃の音が聞こえた。


「だから、なるべく人には危害加えないように食料とかだけにしておいただろうが!」


「そういう話じゃないんですよ!村のみんなは、今もビクビクしながら毎日を過ごしているんです。あなたのは気遣いじゃない!ただの言い訳です!村を襲っているという事実に変わりはないんですよ!」


グサッ!!グサグサッ!!!


モカにはノートの胸に突き刺さる言葉の刃の音が聞こえた。


「悪かったな。もう、村を襲ったりしねぇよ。仲間たちにも言っておく」


ノートはメープルに軽いえしゃくをして謝った。軽く感じるかもしれないが、それがノートの本心から出た言葉だということは、メープルにしっかりと伝わっていた。


「だったら、1つ約束してください」


「何だ?」


「これからは、たまに村まで出てきて一緒に祭りなどを楽しみましょう。もうすぐ、大きな祭りもあるわけだし」


「俺たちが、参加しても良いのかよ?」


「もちろんですよ」


メープルは強く言い放った。その純粋さがノートには嬉しかった。そして、そのまま遠くを見ながらノートが語る。


「実は俺たち盗賊団はな、デスク軍みたいな強い軍を作りたかったんだよ。ただ、どうしてもあいつらみたいに人の命を手にかけることはできなかった。プライドのせいで、中途半端に悪いことして、中途半端に恐れられ・・・。こうやって考えると、本当にどうしようもねぇ盗賊団だな。そんな俺たちに"一緒に祭りを楽しみましょう"って、言ってくれるのか?」


「もちろんですよ」


メープルは力強く言い放った。


「そうか・・・」


そういうとノートはメープルに近づき、目の前で止まった。


「ありがとう」


ノートは深々と頭を下げた。


「こちらこそ。これからもよろしくお願いします」


メープルも深々と頭を下げた。


ノートは自分の仲間たちへ、メープルは村の人たちへ、今日の出来事を全て話した。そして、村人たちとノート盗賊団は手をとりあう仲へとなったのである。


それから数日が過ぎた。


「モカ様!もう行ってしまわれるんですね」


メープルは寂しそうだった。


「あぁ、また遊びにくるよ」


モカは無表情で言った。


「もうすぐ大きな祭りがあるんですよ!いろんな村から人が来て盛り上がるんです!今年はノートさんたちにも手伝ってもらって、過去最高のお祭りにしようと思っています。終わったら、手紙書きますね。ズルッ」


「あぁ、楽しみにしているよ」


「モカ様!僕はモカ様みたいな強くてカッコイイ男になろうと思います。だから、遠くで応援していてください。ズルッ」


「わかったよ。わかったから、そんなクシャクシャの紙袋みたいな顔して泣くなよ!!!」


「自分の方が紙袋のくせにぃ〜。ズルッ」


「頑張れよ。メープル」


「ふぁい!!!ズルッ」


モカは村を後にした。メープル、シロップ、帰ってきた2人の両親、村の人たち、そしてノート海賊団みんなに見送られながら。


そして、新たな物語が始まる。


頑張れモカ!


負けるなモカ!


次回へ続く!

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