第5話 モカ vs ノート

モカとメープルは大きなドアの前に立っていた。


「どう考えてもこの中にノートがいると思うのですが・・・?」


メープルは恐る恐る言った。


「まぁ、そんなこと考えていても時間の無駄だろ!お邪魔しまぁ〜す」


怖気付いているメープロのことなど気にせずにモカは大きなドアを開けた。


ギィィィィィィィィィィィィィィ。


音の割には簡単に開けてしまったモカ。ドアを開き切ると部屋の奥に玉座のような立派な椅子が見えた。そして、そこには今までのものとは比べものにならないほどのオーラを身にまとった男が1人座っていた。と、次の瞬間。


ドスッ!!!


そこには、今、その瞬間まで玉座に座っていたはずの男が、モカの体にナイフを突き刺している姿があった。


「モカ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


メープルが大声でモカの身を案じた。


「ハイ、なんでしょう?」


モカは全く気にしていないようで、メープルの問いかけに普通に答えた。そんなモカの姿にナイフを刺した男の方が驚き、即座に後ろへ飛び、距離をとった。


「お前、お腹を刺されて何ともないのか?」


男は聞き返した。


「だって、まだ自己紹介もしていないのにダメージなんかおっている場合ではないだろ?」


「答えになってねぇよ!!!まぁいい、俺の名はノート。ここの盗賊団をまとめるリーダーだ!っと言っても、仲間はほとんどお前にやられちまったようだがな」


ノートは若干モカのペースに乗せられつつも自己紹介をした。


「俺は大魔法使いモカだ!!!」


モカは自分のペースで力強く自己紹介した。


「はっ!!!自分で大魔法使いと名乗るとはおめでたいヤツだな。でも、今の攻撃が効いていないとなるとあながち、それも嘘じゃねえのかもな。それにしてもお前たちはここに何しに来たんだ?」


「おまえたち盗賊団が町の人たちから食料やらなんやらを奪っていると聞いたので、寄り道がてら、成敗しに来たのだよ」


「はぁ〜???お前そんなしょうもない理由で命を捨てに来たのか?」


「別に命を捨てに来たのではない!お前を倒して自分やここにいるメープル、他の村人たちの命を輝かせに来たんだ!」


「はっ?言ってろ!お前が、そんなに余裕を持っていられるのも今の内だけだぞ!!!・・・だが、ここまで来たことだけは褒めておいてやる。なんせ、ここに拠点を構えてからというもの、俺のところまでたどり着いたのはお前たちが初めてだ!みんなマッキーの魔法にやられて帰って行ったからな」


「なるほど、俺たちが初めだと・・・。だから褒めてくれると・・・。エヘエヘエヘ。」


モカは例え敵だろうが、褒められると嬉しいのだ!!!


「どこまでもふざけたヤツだぜ!さっきの一撃は正直驚いたが、あれはあくまでも挨拶程度。俺の本気はまだこんなものではない!いくぞ!!!」


そう言うとノートはその素早さを活かしモカを撹乱するかのように辺りを高速移動して見せた。


「フハハハハハ!!!さっきのスピードが50%の力だとするとこのスピードは75%ってところか!!!」


ノートは激しいスピードの中で、会話をする余裕すら伺わせながらモカを挑発した。


「お前はさっき大魔法使いだと言った!!!それはつまり、魔法には自信があるが、体力や肉弾戦には自信がないということを遠まわしに相手にバラしてしまっているのだ!!!お前がどんなに凄い魔法を使えようが、俺にはそれを避ける自信がある!!!どんな魔法も当たらなければ意味がなよなぁ〜!!!ファハ〜ン?」


「凄い!全く見えない!」


メープルは、ノートのスピードになんとか追いつこうと目を凝らすが全く捉えることができない。そんな現実の中、モカに勝利はあるのかという不安さへ募り始めていた。


「フハハハハハ!!!どうだ?戦意喪失したか?いつ、どこから、どんな攻撃が飛んでくるか予測できまい?恐怖に打ち震えながら、俺の攻撃の餌食にな・・・」


ポカッ!


「へ?」


ノートは実に拍子抜けした声を出して止まった。


「どうした?もっと早く動かなくていいのか?」


"ポカッ"っという音は、モカが杖でノートの頭を軽く叩いた音だった。ノートは驚きを隠せなかったが、その杖が自分の頭の真芯をしっかりと捉えていることを感じた。それは、杖がまぐれで当たったのではなく、故意に、意図的に、狙って当てられたものであるという証拠だった。


「な、な、なっ?なぜ、このスピードについてこれる?お前のように魔力だけを鍛えてきたヤツに俺の自慢のスピードを捉えることはできないはずだ!!!」


ノートは驚きを隠せない。


「なぁ〜?1ついいか?誰がいつ、魔法しか学んでこなかったと言った?」


モカは、"そこは鼻なのですか?"と聞きたくなるような場所をホジホジさせながら、余裕綽々で言い放った。


「俺は大魔法使いだ!!!それ以上でもそれ以下でもないと思っている。ただ、それが肉弾戦が苦手な理由になんでなる?」


「ありえない!!!俺は魔力に目をくれずに、体力や体術を磨くことに心血を注いできたんだぞ!!!それをたかが魔法使いに見切られるだと!!!ありえない!ありえない!!!ありえるはずがなぁぁぁぁぁぁぁぁぁいいいいいい!!!」


ノートの怒りと共にあたりを爆風が包んだ!!!メープルは門の丁度いいところに身を寄せ、吹き飛ばされないようにモカを見守った。


バシッ!


ビシッ!


ザクッ!


モカの体に先ほどまでとは比べ物にならないほどの速さで、ノートが攻撃を与える。


「フハハハハハッ!!!強がってみても、結局、手も足も出ずにただ攻撃を受けるだけじゃないか?」


ノートが言う通り、モカは一歩も動くことができていない。


「ふぅ〜。さっきの魔法使いといい、こいつといい、この盗賊団は力の使い方を固定概念で押し付けすぎだろ!!!力というものは無限の可能性を秘めていて、だからこそ鍛錬すべきものなんだ!!!戦士だから魔法が苦手だとか、魔法使いだから肉弾戦が苦手だとか、誰がいつ決めたんだよ。その考えが、お前の可能性を圧迫しているってことに早く気付けよ!!!俺ちょっとプンプンしちゃったから、少し強めにいくぞ!!!」


そう言うとモカはその場で、"今から杖を前に突き出します"と言わんばかりのモーションで腕を後ろに力強く引いた。


「何をしている?そのまま俺がお前の眼の前にくる瞬間を狙って一撃必殺でも決めようってか?残念でした〜!!!俺は横から攻撃させていただきますぅ〜!!!ファハ〜ン!!!」


その言葉通り、ノートはモカの左側から攻めた。


はずだった・・・。


「セイッ!!!」


モカは誰もいない空を目掛けて杖を前に突き出した。と、その手が伸びきる前に目の前へとノートが吸い寄せるようにして飛んできた。


「はぁ〜!!!何で俺がコイツに吸い寄せられているんだよぉ〜!!!」


ノートはジタバタしながら、モカの目の前へと吸い寄せられていく。


「これが魔法と力の上手い使い方だ!!!」


「わわわわわ、やめてやめてぇ〜!!!」


「せぇ〜のっ!突きぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


ドボゴォォォォォォォォン!!!!!


ノートにドストライクでモカの突きが突き刺さった!!!そして、ノートはそのまま玉座へと吹っ飛んだ。


「モカ様〜」


メープルがモカのところへと駆け寄る。


「今のはどうやったんですか?」


メープルが目をキラキラさせながらモカに質問した。


「今のは冷蔵庫と冷蔵庫にメモを挟むマグネットの2つの精霊に力を借りて、あの男にマグネットの魔法を掛け、俺の杖が冷蔵庫のドアのような材質になる魔法を掛けたんだ」


「もしかして、最初に頭を叩いた時にすでにマグネットの魔法を掛けていたのですか?」


「まぁ、そうだな」


「スゴイ・・・」


ただただ、メープルはぽかんとしてモカの実力に驚いていた。


「そっかぁ、あの瞬間にほとんど勝負は決まっていたのか。そう考えると、なんだかんだでノートも余裕でしたね」


メープルがそう言った瞬間だった。


「ククククククク!!!」


それは、玉座の側に立ち不敵な笑みを浮かべるノートだった。


「そうだよなぁ〜!!!魔法使いが肉弾戦得意じゃないなんて決めつけちゃいけねぇよなぁ〜!!!確かにそうだ。勉強になったわ。俺も見習って硬い考えを捨てるとするか!!!」


そう言うとノートは、手に持った宝石のようなものを顔の高さにまで持っていき見つめた。


「これがなんだかわかるか魔法使い?これはなぁ、COFFEE BEANSっていう、この世に10個しかないと言われている、不思議な力を秘めた宝石だ!!!この宝石を飲み込めば、俺はかつてない力を手に入れることができる!!!お前との実力の差も簡単に縮めることができる。こんな宝石に頼るのは俺のプライドが許さなかったが、お前の考えからするとそれすらも勝手な決めつけに思えてきたわ。だからいただきまぁ〜す」


「モカ様!!!ヤバイですよ!!!」


メープルが慌てふためく中、モカはじっとノートを見つめていた。


プルプルプル。


COFFEE BEANSと呼ばれる宝石を飲み込もうとするノートの手がずっと震えている。そして、ノートは中々飲み込もうとしない。そんなノートの元へモカが歩み寄る。メープルも一緒についていく。そして、そばに来てわかった。ノートは泣いていたのだ。


「できねぇなぁ〜。やっぱ」


ノートは、手を震わせ、声を震わせ言った。


「これさえ飲めば、お前に勝てるかもしれねぇのに。こんな宝石の力を借りてお前に勝っても、全然喜べねぇってわかってるからよぉ。頭も体も飲み込もうとしねぇんだよ!!!」


ノートにはプライドがあった。それが自分の可能性を押さえつけていると分かってもいた。


「悔しいなぁ〜おい」


ノートの素直な感情が言葉になってこぼれた。


「誘惑に負けないっていう強さもあると思うぞ」


モカが優しく言った。


「ハハッ。さっきと言ってることが違うんじゃねぇのか?」


ノートも優しく言った。


「かもしれんな?でも、こういう柔軟性が自分の可能性を広げていくもんなんだよ」


「お前、1番得意なのは魔法じゃなくてヘリクツなんじゃねえのか?」


「いや!魔法だ!」


ハハハハハハハハ。


ノートは笑った。モカも笑った。メープルも笑った。温かな空気が玉座の周りを包み込んだ。そして、なにわともあれ、モカたちはノート海賊団に勝利した!


おめでとうモカ。


これからどうなるモカ。


次回へ続く。

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