第3話 終わり

僕の周りには誰も居なくなった。インターネットにアクセス出来ないものたちだけが残っている。それは、ずーと昔からある、鳥や花や風や虫達。僕らだけが、昔と変わらず生き続けている進化せずに。ただ僕は樹になった意味を無くした。今はただ、じっと見つめるだけ。彼らの進化を見つめるだけ。誰も僕に語りかける事なく、なんの答えも見つける事なく、皆んながただつぶやいている。つぶやくだけ。問いかける事すらできなくなり、語りかける事も忘れ、ただつぶやくだけ。その呟きはインターネットの中に飲み込まれ消えていく。絵文字の数が増えるたびに、彼らから表情が消えていく。仕事は家からできるようになり、買い物も全てオンライン、食材もその日その日のメニューに合わせて運ばれてくる。娯楽も全てバーチャル。コンサート会場に行くことも映画館に行く事もなくなり、家にいる時間の多くなる生活の中で、彼等の目は、自然の光を受け入れられなくなり、全ての人の目の色はグレーに変わった。耳は一定の音の周波数だけをキャッチするようになり、風の音も鳥のさえずりも、雨の音も聞こえなくなった。臭覚は鈍り、花の香りや、雨の匂い、草の香りもわからなくなった。そして、とうと声帯を無くした。全ての会話は、画面上で交わされる為声をなくした。彼等は、どんどんと一つの物体になっていく。人は表情をなくすと顔形に関係なく同じ顔に見えてくる。灰色の目に同じ顔。誰もかれも同じになった。僕は樹になったおかげて、鳥や、花や、虫達と会話ができる。鳥や、花や、虫達が進化しすぎた人間達を嘲笑っている。永遠の命を探し求める人間達を哀れんでいる。短い命の中で、昔から繰り返される命の儚さのサイクルの中で、鳥や花や虫達は存分に生き、又新しい命へとバトンタッチを繰り返す。賢くなりすぎた貪欲な馬鹿な人間達を憐れみながら、与えられた命の中で輝いている。医学が進み、とてつもなく皆んなが長生きできる。そう、もう少しで永遠の命もきっと手に入れるだろう。なんの為に? 永遠に続く終わりが近づいている。永遠の命を手に入れたなら、もう何も生まれる事がない。終わりがなければ始まりが来ないから。だから、永遠に続く終わりが近づいてくる。さようなら人間。永遠に生き続ける人間達に意味はなく、ただの物体にすぎなくなってしまう。さようなら。


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