第2話 進化?

進化:(1)事物が進歩して、よりすぐれたものや複雑なものになること。(2)生物が、周囲の条件やそれ自身の内部の発達によって、長い間にしだいに変化し、種や属の段階を超えて新しい生物を生じるなどすること。


すごい勢いでテクノロジーが進化している。そう、辞書にあるように物事が進歩して、より優れたものになっていく。進化だ。世の中はとっても便利になってる。スマートホーンがあれば何もいらない。その電話一つでなんでもできる。いつでも、どこでも人と連絡が取れる。公衆電話を探して連絡をとるなんてもうひと昔もふた昔も前のこと。いつでも、どこでも電話がかけられる。テキストはもっと便利。自分の都合で返事ができる。誰かに道を聞く事もない、ゴーグルマップがある。学校の先生はもういらないかもしれない? わからないことは、全てオンラインで調べれば誰かに聞くよりも便利で、何よりも勿体ぶらないし、知らないって事実に恥をかく事もない。デパートもスーパーもいらないかも? 買い物はオンラインの方が品が豊富で、いっぺんに全ての商品を見比べてベストな物が手に入れられる。歩き回って、欲しいものを探す必要もない。嫌いだった品やサイズ違いなども全て無料で返品できる。返品の際の店員の嫌な顔をみなくってもすむ。友達? いらないかもしれない。ゲームは全てオンラインでできるし、対戦相手がいなくってもコンピューターが対戦相手になってくれる。とっても便利で、なんて快適な毎日。私達の生活は日々進化している。そして僕に気を止める人は誰一人としていなくなった。僕には人の声がもう聞こえない。僕にはもう人の姿が見えない。


可愛いカップルが、いつもの日曜日に僕の樹の下に腰を降ろして2人の時間を楽しんでいた。そう、3年前までは。二入はただ見つめあって、なんて事のない会話を交わし、笑ったり怒ったりしながら二人の時間を過ごしていた。時には、お弁当を持って来て、ピクニックシートの上でトランプしたり、写生をしたり、寝転がったり、小さな虫に驚いたりして、風を頬で感じて、太陽の日差しを楽しんでいた。


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こないだ、3年間付き合ってる彼氏の誕生日に最新のスマートホーンをプレゼント! 裕樹の喜びようったら、子供のように大喜び! 進化し続ける私達には欠かせないギャジット。二人お揃いのスマートホーン。プラス、アップルのエアーポッドも大サービス! 最新の携帯とイヤホンで二人は硬く結ばれている。裕樹からテキスト『おはよう、春菜! びっくり、今起きたところ。なんと、もう2時! 昨日、ゲームに入れ込みすぎて今朝の4時までやってたよ。今、ひま? そう言えばここ1週間くらい春菜の顔見てないから、久しぶりにあの樹の下で会わない?」FACEBOOKの欄から目を離し、手っ取り早く裕樹にテキストを返す。「オッケー。じゃあ、4時にあの樹の下で?いい?」裕樹から、オッケーサインが返ってくる。

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進化。そう、2人は進化した。すごい勢いで進化しているテクノロジーと共に進化していった。言葉を無くした。会話はもういらない。僕の樹の下に3年前と同じように腰掛けて、2人はテキストを交わす。絵文字が、2人の感情を表す。進化。そう、進化して表情がいらなくなった。怒ったり、笑ったり、泣いたり。二人は別々の音楽を聞く、最新のイヤホンで。風の音も、虫の声も、周りの音は何も彼等の耳には入ってこない。2人は、もう手をつながない。彼等の手は大忙し。テキストを打ったり、自分の興味のあることを調べたり、情報をとり続ける。二人はつながっている、最新の携帯で。肩を並べて座って、ゲームをする。それぞれが自分の世界に閉じこもりながら、つながっている。


進化。そう、2人はもっと進化していく。外に出る必要がなくなる。スカイプで会ったり、FACE TIMEで会ったりするようになる。もう、僕の樹の下に一緒に来る事はない。バーチャルデート。色んな場所に時間を飛び越えて、2人はそれぞれの家から待ち合わせの場所に行く。待ち合わせの場所はもう、僕の所じゃない。FACE TIME, FACEBOOK, TWITTER, WHAT’S UP, LINE, ETC.




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