飼い猫と共に異世界生活
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第1話 始まりは寝起きでした。
22時帰宅も慣れっこのブラック企業勤めも社会人10年目、28歳、男、名前は
「ただいま、クロ」
名前は、見た目のままクロと名付けた。飼い始めたのは、彼女と別れてすぐだったと思う。帰り道に通りかかった公園で、1人声を上げて鳴いていた。体力はすでに使い切って、ヘトヘトだったが、俺はその鳴き声がすごく気になった。寄って行くと、草むらの中に一匹の成猫が横に倒れており、その成猫に体を擦り寄せながらクロが鳴いていた。俺はカバンを地面に置く。その成猫を抱えて、スマートフォンで現在地から一番近い動物病院を調べ10分ほどの道のりを必死に走った、全力疾走なんていつぶりだろうか。成猫には温かさは感じられない。病院に着く頃には汗が溢れ出し、口からは胃液が出てきそうだった。片腕に成猫を抱え、俺は乱暴に病身のガラス戸を叩いたが、人の気配はない。俺は少しパニックになっていたが、一度病院の敷地から出て、周りを確認した。病院と隣家には仕切りがなかった為、俺は明かりのついた隣家のインターフォンを一度鳴らした。呼吸を整えながら、家の主人が出てくるのを待っていると、ドアが開いた。50歳前後の中肉中背の男性が出てきた。俺の腕にか帰られた猫をみると、少し苦い顔をした。その男性は、猫の首元を撫ぜたと思うと、俺に対して話しかけてきた。
「あなたの飼い猫ではないよね」
俺は上下に頷いて、『はい』と声を出した。
「残念だけど、この子はもう死んでるよ」
男性の言葉を聞いた俺は、腕が震えだした。生命の死など、あまり体験したことがなく、耐性がない俺の腕で冷たい猫がどうしようもなく怖かったのだ。
男性は猫の腹部を見他かと思うと、もう息のない猫の腹を撫ぜる。
「この猫の近くに子猫なんていませんでしたか?」
なんでわかるんだろう。俺は少し不思議だった。
「居ました!小さい黒猫」
「一匹だけですか?」
「はい、その子猫だけでした」
「そうか…」
男性は悲しそうな顔をした。が、その顔はすぐに変わり、俺の目を見つめた。
「どこでこの猫を見つけましたか?」
俺は来た道を指で指したと同時に、足首に何か当たるのを感じる。下を向くと先程の子猫が居て、俺と目があると、『にゃあ』と鳴いた。それが俺がクロを飼位始めるきっかけだ。
俺はスーツのままベットに倒れ込んだ。今日寝ただけでは、今までの疲れは落ちそうもない。シャワーだけ浴びるだけでもすれば気持ちよく寝れるかもしれないが、そんな気力はどこにも残っていなかった。うつ伏せのまま、首を締め付けるネクタイは少し緩めた。クロはうつ伏せで、顔を横に向けた俺の目の前で丸くなった。
「…今日は疲れたよ。あー、お前のご飯入れてやらないと。ごめんな。いつもお前は俺に合わせて、晩飯抜きの夜食だなー」
俺は、精一杯の力を腕に移し、上半身を起こした。脚をベットから出そうとして、片足は出たものの、もう片足は上手く動かせず、体勢を崩す。50cm程度の高さから頭を撃ちつけて、俺は気を失った。
次に目を覚ますと、そこはベットの横でも、俺の部屋でも、俺の知っている世界でもない様子だった。左腕にはクロが巻きついて来る。目の前に見えるのは、なんだろう。例えるなら、中世ヨーロッパ。なんだがゲームの中の世界のようだ。目に映る人々の目線がやけに痛かった。これは夢だ。あー、早く起きないと、遅刻するとまた意味のない愚痴を一時間も聞かなければならない。でも、どうも目は覚めないようだ。俺は俺の頬を思い切り抓った。痛みはすぐに伝わり、少し目に涙がたまる。あー、本当にどうしよう。同僚や部下に迷惑をかけてしまう。四月に入社したあの子、今にも倒れそうだったな。俺が頑張らなきゃいけないのに。じゃないと、またあいつの様になってしまう。俺が頑張らないと、早く会社に行かなければならないのに。早く、早く覚めてくれ。もう、あんなの嫌なんだよ。俺、頑張るからさ…。だから、会社に行かなくちゃ。
飼い猫と共に異世界生活 Link @iganahozuyu
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