第33話 心の距離Ⅸ
周囲に鳴り響く銃声。
長坂に向けられた4つの銃口から、死へ誘う弾丸が繰り出される。
それを長坂は流れるような動作で避けた。
未来の記憶を聞くことよって為せる技なのだろうか。
それにしても身のこなしは常人のそれを超えている。
あっという間に神崎の部下達の元に肉薄すると、ナイフで喉元を切り裂いたり、サブマシンガンを奪い取ってグリップ部分で殴り付け、ほんの十数秒で4人を床に伏せさせた。
そして、目標である神崎に、長坂は徐々に詰め寄る。
「くっ、相変わらず人を殺すことが好きな奴だ」
「好きでやっている訳じゃない、協会の為に仕事をこなした末路がこれというだけだ」
じりじりと距離は縮まっていく。
すると、神崎は右足を振り上げ、そのまま地面を踏み鳴らした。
まただ。さっきもこの動作をやっていたが、何か意味があるのだろうか。
「さあ、戦争の時間だ」
神崎がそう呟くと、なんと先程長坂に倒された筈である神崎の部下達が体を起こし始めた。
「な......にっ......!?」
「うそ─────────?」
死人が蘇っている。いや、死亡を確認していた訳ではないから、生きていたかもしれない。
でも、それでも、こんな、何事もなかったように立ち上がり銃を構えられる状態じゃない筈だ。
僕達が驚きで固まっていると、神崎は自慢気に話し始めた。
「長坂、お前も知ってるだろう?私はMissionary、戦争の右足。人類が幾度となく繰り返してきた戦争の記憶やエネルギーを使い、分け与えることができる」
「戦争のパイプを持っていることは分かっている。だが他人にもその力を使えたとは......」
「そりゃそうだ。戦争は一人で行うものじゃない。軍隊あってこその戦争だ」
先程の地面を踏み鳴らす行為は、神崎が扱う戦争のエネルギーを部下に伝え流すためのものだった、ということだろう。
人類の戦争の記録。
人間という種が持つ業の深い部分であり、きっと膨大なパワーを生み出す。
でないと瀕死の状態の人間を戦闘可能な状態まで復活させることはできないだろう。
長坂は神崎の部下に囲まれた。銃口は抜かりなく長坂に向けられている。圧倒的不利な配置。
それでも長坂は動いた。
すぐ発砲されるが、未来が分かる長坂にとって避けることは容易い。
敵のうちの一人を処理しようとナイフを喉元に突きつける。
─────────次の瞬間、長坂のナイフは素手で掴まれた
常人のやることではない。実際にナイフを掴んだ敵の手からは血がだらだらと流れている。
しかし全く顔色を変えず、痛みを訴える呻き声も発しず、そのまま銃で長坂の腹部を撃ち抜いた。
「ぐあぁ─────────っ!!」
撃たれた箇所を押さえながら、長坂は地面に膝を着いた。
「長坂さん!」
僕は思わず長坂さんに声をかけたが、反応してくれる様子は無い。
苦しそうにもがき、ついに地面に倒れた。
「戦争のエネルギーを分けることは、何も動けるようにすることだけじゃ無い。戦争に参加する兵士の異常な精神や強靭な肉体、殺戮的な行動をも再現する。私が作り出す兵士は、そういうもんだ」
その言葉は長坂に言っているのか、それとも僕達への脅しとして言っているのか。
どちらにせよ、圧倒的にまずい状況だ。
僕は武器なんて持っていないし戦う力もない。
無謀に突っ込んで行ったとしても、すぐに取り押さえられてしまうだろう。
目の前が真っ暗になって思考を放棄しかけたその時、僕の袖が引っ張られる感触があった。
「ん......?」
「深井くん、あのね─────────」
絶望に埋め尽くされた中で希望を編み出してくれたのは、他の誰でも無い、浅田さんだった。
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