第22話 憎悪と願いⅧ
目蓋を開けると、目の前には大空が広がっていた。
仰向けに寝転がっているようだ。
お腹の上には、すやすやと寝ている女の子が乗っかっている。知里ちゃんだろうか。
─────────風が気持ちいい。
暖かい日差しを浴びて、ポカポカした身体をちょうど良く冷やしてくれる風。
不意に、左手が柔らかい感触に包まれた。
「暁人さん、私と結婚してくれませんか?」
横に顔を向けると、叶さんも仰向けに寝転がっていた。
川の堤防に広がる草原。優しく背中を受け止める自然のベッドに身を任せ、手はお互いを確かめ合うように絡み合っている。
「─────────そうだな。ずっと待たせて悪かった」
暁人さんは、年月をかけて気持ちに整理がついたのだろうか。
お腹の上で眠る幼子の髪をゆっくり梳かしながら、感傷にふけっている。
「いろいろあったが、俺の目的は、最初から叶を幸せにすることだった」
自分に言い聞かせるように呟いた。
「そんな暁人先輩に、私が惚れないわけが、無いじゃないですか」
「ありがとな。でも俺は、迷ってたんだ。叶の気持ちを信じることが、できなかったんだ」
「いいですよ。これから信じてくれれば」
「なんか、いつもより積極的だな。本当に叶か?」
「茶化さないでくださいよ、もう」
雲は目の前をゆっくりと流れていく。
川のせせらぎが、気持ちが通じ合った彼らを優しく包み込む。
「本当の家族になろう。結婚してくれ、叶」
ぐすっ、と、鼻水をすする音が聞こえた。泣いているのだろうか。
左手は、より一層強く握りしめられる。
「はい。これからもよろしくお願いします、暁人先輩」
「ずっと暁人先輩ってのも何だかなあ」
「ずっと私の先輩でいる、って言ってくれたのは、暁人先輩ですよ」
「よく覚えてるなあ、それ言ったの何年前だよ」
「あー、4年くらい前ですかね。懐かしいです」
「本当、あれから色々あったよな......」
「ええ、本当に......」
穏やかな時間が流れていく。
彼らの妨げになるものは、もはや何もない。
幸せな気持ちが心を満たしていく。
お腹の上に乗っかる女の子も、左肩に寄り添う彼女も、暖かい。
─────────様々な犠牲の上に、1つの家族が生まれようとしていた。
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