第18話 憎悪と願いⅣ
────────眩しい日差しに、思わず手をかざした。
空は蒼く、雲は散り散りに浮かんでいる。
周りには、取り囲むようにそびえ立つ建物。
その麓には数本の木が植えてあり、足元からは芝生の感触を感じる。
ここは、どこだ......?
「そうですよねえセンパイ」
突然声をかけられ驚いてしまった。
いや、声をかけられたセンパイ?自身は驚いていない。
「まあ、そうだな。こういう日は外に出かけたいもんだ」
僕は何も喋ろうとしていない。しかし、口元から声が聞こえる。僕の声では無い。
なんだこれ。
僕は今まで何をしていたんだっけ。思い出せない。
にしても、この場所は知らない。見たことが無い。
目の前にいる男女も見たことが無い。
────────いや、男の方はどこかで...
喉元まで出てきた言葉は、シャボン玉が弾けるようにして霧散してしまう。
年齢は20歳過ぎだろうか。
髪は金髪で、男にしては少し長めでボサボサ。
柄物のロングTシャツにダメージジーンズを履いている。グランジファッションという感じだろうか。
女の子も男と同様に20歳くらいだろう。
赤のタートルニットに、グレーで膝上のフレアスカート。フレンチカジュアル的だ。太めのベルトでウエストマークしている。
髪型は黒髪ロングで、落ち着いた雰囲気を感じる。
しかし、どちらの髪型もファッションも明らかに近年見ないような感じだ。悪い言い方をすれば古臭い。
「なんで、飲み会サークルの中でツーリングのイベントをやりたいと思ってるんスよ」
「おお、良いんじゃないか」
自分の意識とは関係なく会話が進んでいる。
とは言っても自分の意思で喋ることも、身体を動かすこともできない。
いや、どちらかというと意識だけ存在していると言った方が良いだろうか。
自分自身の身体の感覚、触覚、温度、痛み諸々、何も感じないというよりは無い。
「暁人センパイも参加してくださいね」
「いや、俺バイク持ってないし、バイク興味ある奴だけで集めれば?」
────────暁人センパイ、と聞こえた。
どうやら自分は暁人センパイのようだ。
おかしい。僕は■■■の筈だ。
「マジっすか、残念っすわ。叶は俺がニケツしてやるから来いよな」
「う、うん......」
女の子は遠慮がちに応えた。どうやら、この真面目っぽい子が叶さんか。
────────ジジッ
ノイズが走る。イブツが混じる。
「明臣、そしたら俺がサークルのみんなに展開しておくよ。イベントの旗振りは任せたぞ、言い出しっぺなんだからな」
「任せてくださいよ暁人センパイ。叶もついてるし、男も女も集まりますよ」
「そういう問題じゃねえよ。まあ頼んだぞ」
明臣と呼ばれた男の肩を叩いて激励した後、叶さんの肩にそっと手を置いて目を見つめた。
「叶も無理すんなよ。なんかあったら言いに来い」
「は、はい。ありがとうございます......」
すると視界は真っ白に埋め尽くされた。
激しい光の中に意識が溶けていく。
限界を迎えた僕の意識の脳裏には、困ったように微笑む叶さんの表情が焼き付いていた────────
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