4章 秘密基地

第12話 秘密基地Ⅰ

 一歩前に踏み出す、その行為がいかに大切か分かったのはごく最近。


 それまでは、現状維持をして、できるだけ楽に生きようという気持ちしかなかった。


 もちろん現状維持は衰退を意味する。誰もが時間という概念の中を生きている時点で、それに伴って成長していないということは怠惰の極みだ。


 僕は成長することなく周囲から取り残された。同じステージに立っていたみんなは続々と広い世界に飛び立っていった。


 僕は一体何をしているのだろうか────







 夕暮れのコンビニ。ここ一帯の地域の象徴である山に太陽は沈み、街は赤く染まっている。


 大学の授業が終わった後にシフトに入っていた僕は、くたくたに疲れた状態で休憩しに事務所に入った。


 「お、ふかいじゃん」


 今日はマネージャーの息子さんである健くんがお店にいる。


 何でも、健くんの祖父母が旅行に行っていて、面倒を見てくれる人がいないからお店に連れてきたそうだ。


 マネージャーやオーナーが家にいないときは祖父母の家に預かってもらっているそうで、祖父母にはベタベタに甘やかされているらしい。そりゃまあ孫は可愛いだろうし。


 僕は事務所の奥の椅子に堂々居座る健くんに、椅子に座るお伺いをたてた。


 「健くん、となりお邪魔するね」


 「しかたないなあ」


 どうやら許されたようだ。


 相変わらず上からな物言いだったが、いつもよりどこか元気がなさそうな様子だった。


 気になったので、聞き出してみることにした。


 「今日、何かあったの?」


 「知らない、ふかいには関係ないだろ...」


 拒絶された。少しショック。


 僕は悔しかったので、お店の賞味期限廃棄で出たおにぎりを健くんに見せると、何か食べる?と聞いてみた。


 すると無言でシーチキンのおにぎりを手に取り、もしゃもしゃと食べ出した。


 「美味しい?」


 「うん」


 素直に頷いてくれた。可愛いとこあんじゃん。







 「で、何があったの?」


 改めて聞いてみると、思い詰めたように黙ってしまったが、決心が固まったようでこちらに振り向いた。


 「────仲間に入れて欲しかったん」


 健くんは、ぽつりぽつりと話し始めた。


 「近所の奴が裏山に秘密基地を作ったらしいんだけど、おれ知らなくて」


 「うん」


 「仲間に入れて欲しかったけど、声かけるの恥ずかしいし」


 「仲間に入れて欲しいんだね」


 「ま、まあ」


 「今度手伝ってあげよっか?」


 「はあ?どうやって」


 「秘密基地、一緒に行ってあげるよ」


 バツが悪そうに、健くんはそっぽを向いてしまった。


 「それは...ちょっと悪い」


 その歳にして人に気を遣えるのか、お兄さん感動したぞ。てか小学生に気を遣われる僕は一体......


 「勇気を出して声をかけられるように、サポートするよ」


 「いいって言ってるだろ」


 「遠慮しなくてもいいよ、好きでやってるだけだから」


 まあ面白半分な部分もあるが。秘密基地と聞いて、懐かしくて興味が湧いたので見てみたかった。


 「なんじゃそりゃ」


 とい言いつつも、なんだかんだ言って受け入れてくれたみたいだ。







 にしても、友達に声をかけられない健くんをどうやって勇気付けようか。


 参考になるような子供時代を送ってきてはいないが、ヒントになるものはないか、少し記憶を辿ってみることにした。


 今まであまり自分の過去について深く思い返したことはなかった。大したことは成し遂げていないし、そんなにいい思い出もない、と思う。


 何より不甲斐ない自分の人生を改めて思い知ることが、少し怖かったんだ────

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