第13話 私が、僕が、あなたを好きになったとき

二人は買い物を終えて帰ってきた。



一緒に夕飯を作っていたが案の定亜沙美は皿を割ったり調味料をこぼしたりと散々な事となり、途中から全て直人が作った。


そして亜沙美は落ち込んでいた。


「ごめん、ナオ、余計な手間がいっぱい増えちゃって」

「大丈夫だよ、僕だってあのぐらいはやっちゃうし」

「慰められたら泣くよ?」


そう言われた直人は話す言葉を変えることにした。


「いや考えられないよあんなの。どうし…」

「それはもっと泣くからね!」

亜沙美は軽くテーブルを叩いて涙目で直人を見ている。


「…亜沙美、本当に気にしないで。食べよう?」

「うん…」


食事を始めたが微妙に暗い空気が流れてしまった。直人は何とかしようと考えるがこれといったものが思いつかず、その様子を感じ取った亜沙美は更に落ち込んでしまった。


「ナオ、私のこと嫌いになった?」

「なるわけないよ、ずっと好きだったんだから」

「ずっと?」

「そう、転属してからちょっと経ったあと。それからずっと。僕がミスったことあるでしょ?亜沙美が庇ってくれたミス」


「…あぁ!二人で店を回った時の?」

「そう、あの時から僕はこの人の為なら何でもしようって決めたんだよ。始めは先輩としてだったけど段々と女性として好きになっていって、それで今。だから嫌いになるわけないよ」


「ナオ、私ね、ナオの事をもっと前から知ってたんだよ?」

「えっ?」

「ナオがまだ就職する前に私が店舗巡回の仕事してたときにナオの事知ったんだよ。なんか他のバイトの子と雰囲気が違ったし、社員からもどんどん仕事任せられててちゃんとこなしてて、凄いなぁって見てたの」

「そうだったの?」


「それでそのまま就職したって聞いてまた店舗巡回を理由に会いに行こうとしたんだけど、その業務が他の人がメインになっちゃって行けなかったの。だから転属してきたときは驚いたよ、あの時の!って」

「よく覚えてたね、ただのバイトだったのに」

「うん、いわゆる一目惚れってやつかな。なんて言うのかな、輝いて見えたの」


「僕が?」

「うん、キラキラしてたというか、気が付いたら見てるって感じ。そこからずっと気になってたの。それで教育係になったもんだから嬉しくて、もうこれは運命!って思ったの。だってそんな事有り得る?このまま会えないままかなぁとか思ってたのに」

「じゃあ尚更、亜沙美を嫌いになるわけないよ」

「どうして?」

「好きだった年数で負けてる」

「そこは勝ち負けじゃないでしょ」

亜沙美は笑った、直人はその顔を見てようやくホッとした。


「さっ食べよう!冷めちゃうから」

「うん」


食べ終わった二人は後片付けをした。

途中、亜沙美が皿を一枚割ったが、もう直人は慣れていた。



二人は毎年恒例の歌番組を観ていた。

「そうだネックレス!着けようよ」

「あぁそうだね、ちょっと待ってて」


直人がネックレスを持ってきた。

箱を開けると

「ナオ、着けてあげる」

「ん?いいの?」

「うん、はい、後ろ向いて」

亜沙美はネックレスを着けたあと、後ろから直人を抱きしめた。


「ちょ!ちょっと」

「んー?どうしたの?」

「いや、ちょっと恥ずかしいって」

「ナオ、愛してるよ」

「え?急にどうしたの」

「私が寝ちゃう時に言ってくれたでしょ?だから私も言いたくて」


「…うん、ありがとう」

「じゃあ私のも着けて」

「うん、じゃあ後ろ向いて」

「んーん、前から着けて?」

「えっ?」

「前から着けて、私は目を瞑ってるから。あとはわかるよね?」


「何だろ?急に圧力が……」

「ん」

亜沙美は絵に描いたタコのように唇を突き出した。


「いやいや、ふざけてるじゃん」

「ハハハ、はい、じゃあ着けて」

亜沙美は後ろを向いた。


「え?後ろ向くの?」

「おや?おやおや?前からの方がいいかね?」

「い、いや後ろでいいよ」

「んー?目、瞑っててあげよっか?」

「いいから、はい、もう一回後ろ向いて」

「デュフフ」

「笑い方!」


直人は亜沙美にネックレスを着けたあと同じように後ろから抱きしめた。

「え?ちょ、ちょっと、ナオ?」

「ん?御返し」

「からのー?」

「愛してるよ。…って!からのは言っちゃダメだよ」

「ハハハ」

「……亜沙美、こっち向いて」

「ん?…っ!」

振り向いた亜沙美は唇に何かが触れてる感触がした、その前に直人の顔が近づいてきていた。恐らくこれは。亜沙美は急に心臓の鼓動が早くなっているように感じた。


二人の顔が離れたあと

「ちょっと!ずるい!!」

「えっ?」

「ずるい!!」

直人は肩を叩かれた。


「ごめん」

「はい、じゃあ目瞑って」

素直に目を瞑った。


「歯をくいしばって」

「ちょっと待って殴られるの!?」


「アハハ、うそうそ。だってー、告白もナオからでキスもナオからなんて」

「嫌だった?」

「嫌じゃないよ?嬉しい、けど悔しい」

「まぁ、僕も男ですから」

「いつもいやらしい目で私を見てる!?」

亜沙美は自分の肩を抱き、仰け反った。


「そこまでは言ってない!そういう目では見てないよ」

「ほー、私のことはそういう目で見れないと?」

「あー、もう八方塞がり」

直人は頭を抱えた。



二人はまたソファーに座りテレビを見ていた。

「コーヒー飲む?」

「………」

「あさ……、寝てるか。よく寝るなぁ、普段よっぽど忙しいんだろうな。連休入ってからも色々あったしな」

直人は静かに立ち上がり寝室へ向かった。一枚の毛布を取ってから戻り、起こさないように亜沙美にかけた。

「なんか亜沙美見てたら眠くなってきたな…」

直人もそのままソファーで寝ることにした。

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