第11話 帰り道と朝

「ほら、しっかり歩きなさい。もう少しだから。」


「すまんな。本来なら俺がその役目なんだが…」


「今日だけは許してあげるわ。まあ今日に始まったことではないけれど。」


バーを後にした俺たちは俺の家へと向かっていた。琴奈の家は隣の駅なのだが、結局タクシーで帰るからとタクシー代を琴奈へわたし、家まで送ってもらっていた。


「帰ったら着替えてすぐ寝なさい。あと明日は駅に12時集合だから忘れるんじゃ無いわよ?」


「はいよ。頑張って起きるよ。」


そう言うと、琴奈はタクシーに乗り込み帰路へと着いた。長い付き合いになるが、琴奈は俺の家に入った事はないし、俺も琴奈の家へ入った事はない。特に意味はないのだが、そのぐらいラフな関係だということにしている。


「先輩。お帰りなさい。」


「なぜここにいる?」


「えと、今日はご迷惑をお掛けしましたし、一言お礼を言いたかったのですが、お部屋分からなかったのでここで待ってました…」


通りからマンションへと進むと、玄関の前に菊一がいた。まぁ家は目の前だし待つ事も可能か。


「律儀なやつだな。俺が無理矢理引っ張ったんだから気にしてないし、気にする必要もない。あの後は無事に終わったのか?」


「はい。最後まで理由つけてきましたけど、多分やりたかっただけなんだろうなーって…本当にありがとうございました。顔痛みますよね?」


「問題ない。殴られるところまで予想してたしヒョロ男だったしな。用が済んだなら俺は寝るぞ?だいぶ酔っててな…吐きそうなんだ…」


「先輩!ここで吐かないで下さいよ!部屋まで送りますから行きましょう!」


「…頼むわ」


いきなり部屋に上げていいのだろうか?とふと考えたが、具合の悪さから思考が回らず、手も出せる状態ではないと自分で判断し、菊一に任せる事にした。


「先輩。おはようございます!」


「…なあ俺やってないよな?」


「えっ?覚えてないんですか!?あんなに激しかったのに…って嘘です嘘です!頭グリグリしないで下さい!…昨日は先輩すぐトイレで吐いた後に寝ちゃったので、鍵もわからないし、私もお布団があったので勝手に使わせていただきました!とりあえずお水と簡単な朝ご飯です。」


「そうだったか。すまん。迷惑かけた。美味そうだな?料理出来たのか?」


紫音はテーブルに並べられた朝食を見つめ感想をのべる。


「先輩結構食材あるのに最近使ってないですね?もったいないですよ?」


「ああ。彼女がいた時は作ったりしてたんだが、1人だと面倒いし、バイトもキッチンだから余計面倒いんだよ。」


「えー?それじゃあ私に作ってください。私も先輩にご飯作りますからローテーションでどうですか?」


「俺の家に寄生する気か?」


「先輩の部屋ネット環境整ってるし、授業の事も聞けるしいっぱい本あるし居心地いいんですもん!お金は払いますから!」


「はぁー…まあバイトが休みの日はいいぞ。ただ俺は基本1人が好きだから連絡はくれ。」


「はい!それは私も同じなのでちゃんと連絡します!あっ、それと。昨日やってはいないですけど、私のおっぱい揉んでましたよ?感想聞かせて下さいね?」


「ぶっ!!」


菊一は満面の笑顔で俺に問いかける。その意図は拒否権はないからね?と言っている悪魔の笑顔以外なにものでもなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る