第4話

走る、という言葉を思い出した。


それからみんなと何か目標に向かって走った日々を思い出した。


少なくとももう僕は、そこにはいない。


みんなとは一緒ではない。


彼らは、その目標を達成できたのだろうか。


なんとなくだけど、多分できたんだと思う。


僕には確かに2020夏、は来なかった。


でも、あんなに頑張っていたみんなだ。


きっと報われたんだと思う。


アカネもきっと笑っているだろうな、今頃。


もう僕は、二度と風を切ることはできない。


でももう一度、駆け抜けたみたい。


みんなのことを思い出すほどに、強くそう思った。


そしてそれができないと悟るたびに、自分の死を強く感じた。


切る風もないこの世界で、もう一度駆け抜けたみたい。


叶わない願いが響く空間などなく、感情は虚しいまま何処かへ消えていった。


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切る風もない世界に駆ける @spitz07

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