第36話 潜入、それと困惑②
「……では、救助が来ることは事前に?」
「ああ、
地上へ戻る階段を登りながら、領主――ウォルター様の話を聞く。
「それ以前にも何度かそういった手紙があった、だから監禁されてからの間に何があったか全く知らないわけではない」
実際、隠れて何度か指示を返したこともあったからね。と、彼は語る。
「だから――」
「……シッ、静かに」
階段を上がりきり、隠し扉の前まで来たところで気配を感じ、その言葉を遮る。
「……おそらくこの部屋ではなくその向こうの廊下です。ここに隠れていてください」
「……流石に気付かれたか」
「そのようです。行くぞ、ヴァルナ」
―――おう。
メリケンサックを取り出し左手につけ、腰のナイフを抜き右手に持つ。そして扉を開け、部屋へ滑り込み、素早く廊下側の扉の前へ移動。……どうやら順番に部屋を探っているらしい、間もなくここにも来るだろうな。
息を潜め待っていると、ついに扉が開く。
「……! こっち――」
俺たちの姿を認め、叫ぼうとしたところで頭を殴って昏倒させる。が……
ピィィィィーーーー!!!
甲高い笛の音、外にも仲間がいたのだろう。その音を聞きつけてドタドタと応援がやってくる音が聞こえる。
……仕方ない、作戦変更だ。
各個撃破は諦める。それなら確実に勝つためには……一芝居打つか。
「クソ、こいつら強い! “早く全員来い!” 各個撃破されるぞ!」
廊下に向け、思い切り叫ぶ。これで建物内の大体のやつに聞こえてればいいんだけどな。
「?! て、テメェ何のつも――」
「ヴァルナ」
―――あいよ。
まだ廊下に突っ立っていた笛持ちの眉間にヴァルナの風弾……じゃないな、風を纏った氷塊がヒット。そのまま吹っ飛び廊下の向こうにいた奴らを足止めした。
―――……で、どういうつもりだ? 敵を全員呼ぼうとするなんて。
―――【命令】に逆らう方法ってのはいくつかあってな、その一つに『横からちょっかいを出す』っていうのがある。
―――……つまり?
―――一斉攻撃よりも波状攻撃の方が厄介なわけだ。
一度【命令】で相手の動きを止めても、あとから応援が来るたびに何度も【命令】しなければならない、なんて状況は間違いなく危険だ。
……ちなみにこの抵抗方法ってのも『ねじ伏せる』と『有耶無耶にする』のどっちかに分類できるんだけどな。……っと、閑話休題。
―――あ、麻痺毒って作れるか?
―――当然。
そう話しているうちに敵がなだれ込んでくる。
「……ちっ、一人と一匹だけかよつまんねえな」
「わざわざ野垂れ死にに来たんだろ、さっさと終わらせようぜ」
ざっと二十人弱、いけるな。
「お兄ちゃーん、怖くなったらサッサと降伏するんでしゅよー?」
「どうせ殺すくせに、よく言うぜ」
……無駄口が多いなこいつら。
「――“全員、動くな!”」
案の定、俺の【命令】にピシリと動きを固める。
……これ小細工なしでも余裕で……、いやいや慢心は良くないだろ。
―――……もしかして隙だらけだったのは作戦でもなんでもないのか?
―――流石に勝算があっての行動だろ、人数差は凄かったからな。
この程度なら主を救うのも簡単だったろうに。こんなの相手にこの家の騎士たちは苦戦していたのか?
……もっと外側の事情かもしれないな、どっちにしろ上手いこと利用されたような気はするけど。
まあ気にしても仕方ないことか……。
「ヴァルナ、毒を」
―――もうやってる、そろそろ効果出るぜ?
その言葉を合図に、バタバタと人の倒れる音。
……何が起きたんだ?
「……なん、ら、体、うご
―――特製の麻痺毒と筋弛緩剤の霧だ、たっぷり味わってくれよ?
なるほど、【魔毒】で作った毒を水魔法と風魔法で霧として散布したのか。便利……というより恐ろしいな、気づかぬうちに負けているなんて。
「……えげつないな」
―――罠があると分かったのに逃げられないのも結構キツイと思うぜ?
「……お互い様ってことか」
残っているであろう毒霧の処理をヴァルナに任せ、隠し通路に隠れていたウォルター様に声をかける。
「……終わったか?」
「はい。まだ残党がいる可能性はありますが、ほぼ全員無力化したはずです。
……念のためこちらを、ヴァルナに処理させてはいますがまだ毒素が残っているかもしれません」
「あ、ああ、分かった。それにしてもこれだけの人数を一網打尽か……」
室内の惨状に瞠目しているウォルター様に清潔な布を渡し、口を覆ってもらう。
どうやらヴァルナは毒霧の処理だけでなく通路の用意もしてくれていたらしい。……風魔法でぶん投げるという痛そうな方法で。
「…………行きましょうか」
「……そうだな」
なんというか……、雇い主とか、潜入者の組み合わせとか、相手が悪かったな。うん。
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