第30話 追跡、誘い込み、そして再戦①

 いつものように依頼を受け、町を出ようとした所で、ユーゴーさんに呼び止められる。

 その内容はここに来た時に遭遇したあの盗賊に関するキナ臭い続報だった。


「……逃げられた?」


「ああ、いつの間にか解放されていた。刑罰に関しては実質無罪放免だ。一応正規の手順は踏んでいるが……、その経緯が不透明でな」


「なるほど……」


 ……口封じとかされなかったのだろうか。いや、いくらでも揉み消せるとでも考えているのか?


「そういうわけだから気を付けておいてほしい。町中での事なら手を貸せるが、外で起きた事になると私の力ではどうにもな……」


「……知らせてくださり感謝します。それでは」


「ああ、今日も頑張って来いよ」


 ここで考えていても分かるはずがないか、気にしても仕方無いだろうな。

 そう考え門をくぐった。


  ―*―*―*―


―――しっかし、お前も大きくなったよな。


―――まあな、とはいえ十分な飯と思い切り動ける環境があるおかげだ。リーダーには感謝してるぜ?


―――そりゃどうも。


 ……従魔登録、しといて正解だったな。


 春先に町へやってきてから一月が経とうとしている。俺の腕に2周ほど巻きつける程度だったヴァルナの体躯は、その倍ほどまで大きくなっていた。……本人曰く『まだまだデカくなる予定』らしい。

 もう肩には乗れないだろうな。


 ……普通の獣と比べれば圧倒的な成長速度だ、それに魔法の才覚といい、蛇にあるまじき知性といい――


「――魔石の力の為せる技、か」


―――んあ? なんだ?


―――お前の早い成長速度の話だよ、もしかしたら魔物としての潜在的な能力も高いのかもな。


―――それなりに明確な目標があるからな、漠然としてるよりも魔石が応えやすいんだろ。


 ……知らない情報をさらっと吐き出された気がする。後でしっかりと聞いておいたほうがいいな。



―――……で、どうすんだ?


―――やめろ、せっかく気付いてないことにしたかったのに。


 正直予想外だった。


 盗賊共あいつら、つけてきてやがる。


―――馬鹿なんじゃねえの? 普通もう少し時間を置いて、警戒が少しでも解けてから動くもんだろ?


―――オレに聞かないでくれ、ただの蛇だぞ?


―――……そうだよな、すまん。


―――……まあ、オレ個人の見解を言うと、なんか気がする。ただの報復っていう線はなさそうだな。


 なんか余計に面倒くさそうだ、もういっそ適当なところでスッパリと行くか?


「…………よし、走るぞヴァルナ。ついて来い」


―――なんだ、誘い込むのか?


―――鍛錬ついでにな。


  ―*―*―*―


―――……これ本当に鍛錬か?


―――帰りはな。


 ……うん、あいつら駄目だわ。わざわざ走りやすそうなルートで尾行できるようにしたのに、足取られるわ無駄な動きばっかするわで森の走り方がなっちゃいねえ。


 ……この辺りでいいか。


「おい、もういいだろ、さっさと出てこい!」


「……ちっ、お前ら、行くぞ」


 出てきたのは4人、装備構成は前方から槍1、後方から剣2、投擲ナイフ1、囲まれたな……って、おや。


「何だ、剣から槍に持ち替えか?」


「ああそうだ、アンタには関係ないだろうがな」


「どうだろうな――」


 突然、槍を持ったリーダー格の男が突撃してきた。……不意打ちか。

 更にそこへ後ろからも追撃、タイミングを合わせてきたな。


―――ナイフの初撃、迎撃出来るか?


―――任せろ。他は?


―――俺が対応する。狙われるようなら対処してくれ。


 言うが早いか、突き出された槍に左手の盾を添わせるようにしながら踏み込む。ちょうど左後ろからの斬撃を槍で受け止める形だ。

 そのままの勢いで正面に体当たり、がら空きになった胴体へ、剣を持った右拳を左から振り回すように叩きつける。


「――ぐぅっ!」


「くそっ、この野郎!」


「おっと」


 吹き飛ばし、木に叩きつけられたのを見たところで後ろからの攻撃をガード、もうひとりの剣持ちは……ヴァルナと交戦中か。

 幸い、そちらを狙っているのはその一人だけ。ヴァルナの実力は分かっているし、放っておいても大丈夫だろう。それなら自分のことに集中するべきだな。


「……ちっ、うっとおしい……!」


 前衛に隠れるようにしながら投擲されるナイフを盾や鎧で防ぎながら、振り下ろされる剣をいなす。


 隙ができたところを見計らって、左手の盾の裏に隠し持っていた石を投げる。飛んでいった石は、狙ったとおりにナイフ持ちの額に命中した。


「ぐあぁっ!」


「……うおおおおっ!」


―――まだだ、リーダー!


―――分かってる。


 意識が逸れたところを好機と見たのだろう、防御を考えない捨て身の構えでもう一人が攻撃を仕掛けてくる。

 それを紙一重で躱す、そして、



 ギィ……ン



 耳障りな音を立てて、鈍色が宙を舞った。


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