第29話 決闘終幕

「あっぶな…………」


 生きた心地がしない。もうちょい寝転がってて良いかなぁ……。


 そう逡巡していると喉元に剣が突きつけられる。ジョエルがこちらを見下ろしていた。


「……僕の、勝ちだ」


 …………わぁお。


「本気で言ってます?」


「うるさい! さっさと負けを認めろ!」


「―――認めるのはお前の方だ、ジョエル」


 思わず聞き返していたらその後ろから誰かがやってきた。…………組合ギルドのお偉いさんっぽいな、いい加減立ち上がっとくか。


「……どちらさまです?」


「ああ、すまない。君とは初対面だったな、ここの支部長ギルドマスターをしているシモンだ」


支部長ギルドマスターでしたか、ご丁寧にどうも、既にご存知でしょうがレオンです。……よければうちの従魔に魔力回復薬マナポーションを分けてやってくれませんかね、欠乏症でダウンしているみたいなので。代金は払います」


「……そうか、本当にあの氷壁を君の従魔が……。

 ああ、代金はいらない。職員服を着た阿呆共とその仲間についてはこちらの不手際だ」


支部長ギルドマスター! その【命令】持ちの言うことを信じるんですか!?」


「周囲の危険も顧みずに火魔法を放った冒険者と、たとえパフォーマンスだとしても従魔に防御の【命令】を下した冒険者、どちらを信用すると思う?」


「くっ…………」


 ……驚いたな、組合ギルド職員からの文句が出ないとは。出てくるのがここまで遅くなったのはその辺の意思統一をしていたからだろうか?


 そんな事を考えていると、魔力を回復させたヴァルナがやってきて回復魔法を使い始めた。


「……悪いな」


―――二人とも心配してるっつったろうが。


―――…………お前は心配しなかったのかよ。


―――最後の魔法以外はな。ま、無事で何よりだ、リーダー。


―――……それも聞こうと思ってたんだった。なんだ『リーダー』って。


―――帰ってくる時に思いついた。主人マスター呼ばわりは嫌なんだろ?


―――だからなんでそこで『リーダー』になるんだよ……。


―――パーティ組むんならお前がリーダーだろ?


―――…………ああ、そう。


 ……もうそれでいいや。


 ていうかもう帰っていいだろうか、事後処理とかは俺の出る幕も無いだろうし。


「さて、決闘の報酬はどうなっているんだ?」


「……組合ギルドとして決闘を認めるような行動をしてもいいんですか?」


「いや、非常事態とはいえ介入した以上、最後までやらないと組織として少しな……」


 なるほど、そういう問題もあるのか。


 とはいえな……、


「別にいらないんですよ、精々けしかけてきたのが誰なのか、洗いざらい話してもらうくらいでしょうけど……。どうせトカゲの尻尾でしょうし」


「待て、まさか何の取り決めもなく始めたのか?」


「ええ、まあ。最悪の場合そこでゴネないといけなかったので」


 妨害を躱せるとは限らなかったしな。


「……そんな汚い事が許されると思ってるのかよ」


「最低限譲れないラインがありましたので」


 まあ、そんな終わったことはどうでもいいか。


 うーん……、何かあったかなあ……。


 …………あるにはある、が。


「……取り敢えず保留で、決まったら改めて連絡します」


 今すぐ決めなくちゃいけない話でもないよな。


  ―*―*―*―


「……彼に任せてみるのはどうかと」


 片づけを終え、『補修のため』と封鎖された訓練場の中でなおも佇んでいた男に支部長ギルドマスターが話しかける。


「……【命令】持ちの余所者に、か?」


「はい」


「…………正気とは思えないな」


「私の見立てでは実力は十分あるかと、それにそこらの冒険者なんかよりよっぽど信用できます」


「そうは言ってもな……」


 気乗りしない様子の男に向け、さらに支部長ギルドマスターが言う。


「少なくともこちらと敵対する理由はありません。断られたとしても秘密は守ってくれるでしょう」


「……そこまで推すのなら依頼してみよう。だが、失敗した場合はどうする?」


 男は一応は納得した様子だが、それでも心配の種を潰そうと尋ねる。


「そのための【命令】持ちですよ」


 それを聞き、答えた支部長ギルドマスターに表情は無かった。

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