第28話 罠と決闘②
どうして。
【命令】持ちはズルをして誤魔化して、それで等級以下の実力しかないのではなかったのか。
「……く、そ…………」
あり得ない。
奴が悪人で、裁くのは僕だったはずなのに。
果敢に攻めた。
全て受け流され、逆にカウンターを決められそうになった。
守りを固め、反撃の機会を伺った。
全て突き崩され、反撃など考えられなかった。
それでも必死に食らいついて、遂にその時がやってきた。
「…………っ!」
それまで一片の隙も見せなかったレオンが見せた致命的な隙。
そのチャンスを逃すまいと剣を振るう。
「あっ―――」
罠だと気付いたときには遅かった。
振り抜いた剣は完璧に躱され、今度は僕の方が隙を晒すことになる。
駄目だ、回避も防御も間に合わない。
それが分かっているのに無理に避けようとして尻もちをつく。
負ける。このままどうしようも無く。
…………負ける? 正義のはずの僕が?
そんな訳無い。
そんな事あるはずが無い。
だって僕は正義で、奴は悪だ。
そうだ、僕はまだ負けていない!
首を刺し貫こうとする剣を転がって避け、立ち上がる。
僕はまだ、負けていない。
―*―*―*―
……これも駄目か、どうするかな。
あとから文句を付ける隙の無いように、転ばせてから剣を突きつけた。
実際、観衆はもう勝負は決したと納得したようだったが、当の本人がそうでも無いらしい。また攻防が始まっていた。
幸い、考える時間はある。剣は見切ったし、妨害もほぼない。
―――何が『ほぼない』だ、ふたりとも気付いてんぞ。
―――おお、そりゃ将来有望だ、……っと。
……まあ、妨害は続いている訳だ。
風魔法の次は水魔法らしく、今も俺の足元を狙ってぬかるみを発生させている。大して技量のあるやつでもないらしく頻度は下がってるけどな。
―――……涼しい顔しやがって。
―――どこで修行したと思ってやがる、ってな。
向こうはそろそろ雨が降る時期か、懐かしいな。
ここから砂漠を越え、国を越えて、更に海を越えた島国、それが俺の故郷。
夏の前には雨が降るし、冬になれば雪が降る。
村を飛び出て、師匠に出会って、修行したのもそんな場所だから、足元が悪かろうが剣を振るのになんの支障もない。
だから―――
「この程度じゃ負けねえよ!」
横薙ぎの一撃を振るう、たまらず後ろへ飛び退いたところへ盾で地面を抉り、飛ばす。
よく踏み固められたはずの地面は水魔法で柔らかくなり、目潰しに丁度いい。
そして同時に駆け出す。普通ならこの程度の攻撃、避けてしまえばいい。だがジョエルにとっては飛び退いた直後の事だ、それをするには体勢が悪すぎる。
だから盾で受けるしかない。それはつまり致命的な死角を生じさせる事と同義だ。
それでもどうにかしようと剣を真正面に構えたのを見て、意表を突くように右へステップを踏む。
もう盾での防御は間に合わない。剣を振るにも盾が邪魔で満足に振れない。
「これで、終わりだ!!」
ガラ空きとなったその左半身に、逆手に剣を握った拳を叩き付ける。
試合と言えど、双方ともに身体強化はしている。そんな中で殴った結果、ジョエルは盛大に砂煙を巻き上げながら吹き飛んだ。
「…………ふぅ」
流石にこれで終わ―――
「「「……オオオオオオオオ!!!!」」」
「スゲェ! あんな妨害まみれで勝ちやがった!」
「かっこよかったぞー!」
訓練場内に歓声が沸き起こっていた。
―――なんか、むず痒いな。
―――勝者の特権ってやつだろ? 受け取っとけばいいじゃねえか。
……そう割り切れるならそうしたい。こういうのはあまり慣れていないから、どうすればいいのかいまいち分からない。
―――とりあえず早く戻って来いよ、二人とも心配してるぜ?
―――……ああ、そうだ、なっ!?
火魔法の前兆!? このタイミングで!?
慌てて前兆を感じた方向―――ジョエルが吹き飛んだ方向へ向き直る。
そこには三発の火球。
盾を構え直すのと、砂煙を突き破るように飛んできた火球の一発目がそこにぶつかるのは、ほぼ同時だった。
バキリ、と盾の壊れる音。
木製の武器と打ち合わせるための盾は、殺すために生み出された火球の前ではあまりにも無力だった。
―――何してんだ! 早く避けろ!!
―――お前らに当たるだろうが!
―――オレがどうにかする!
―――だが……
……確かに、避けなければ危ない。大怪我をするかもしれない。
でも、仮に避けたとして、ヴァルナが守りきれなかったら? そうなるくらいならここで俺が―――
―――早くしろ! リーダー!!
「―――っ!! "守れ"、ヴァルナッ!!!」
こうなれば一か八かだ、叫ぶように【命令】しながら横に飛ぶ。躱しきれなかった二発目が脇腹を掠り、その余波に撥ね飛ばされた。
ああクソ、避けて正解だった。こんなのをまともに食らってたら死んでたかもな……。
地面に叩きつけられながら横目でヴァルナ達の方を見ると、そこにはひび割れながらも二発の火球を防いだ氷壁がそびえ立っていた。
「あっぶな…………」
思わず脱力する。途端にぶり返す脇腹の痛みに顔をしかめた。
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