第31話 追跡、誘い込み、そして再戦②

 宙を舞った鈍色が、サクリと音を立てて地面に突き刺さる。


「………………は?」


 それは、真っ二つに折られた、否、剣だった。


「……“動くな”」


 後ろを振り返ることなく【命令】する。


 誰も彼もが呆気にとられて動かない中、リーダー格の男だけが立ち上がり槍を構えていた。


「分かってんだろ、あんたらに勝ち目は無い。逃げるんならさっさとしろ、隣町はあっちだ」


「――どっちも、できない相談だな……!」


 再びの突撃。それは即ち――


―――……【命令】が効いてないのか!?


 …………へぇ、


―――お、おい、リーダー! 危ないぞ!


―――心配ねぇよ。


 『動くな』『逃げるならさっさとしろ』、どちらも俺の命令だ、そこから抜け出すのはそう簡単なことではない。強い精神力で無理矢理ねじ伏せるか、さもなくばどうにかして言いくるめるか、自力で出来るのはその程度だ。


 そしておそらく、今回は


 槍をいなし、そのまま剣を投げ捨て掴みかかる。


「お、ら、よっと!!」


「ぐはっ、ぁ」


 背負い投げの要領で地面に叩きつけ、押さえつける。その押さえる手から魔力を流し、目当てのものを探る。

 ……予想が正しければだいたいこのあたりにあるはず……。と、


(……予想通りビンゴ


 【命令】に抵抗する手段はそう多くは無い。

 自力で出来る方法に限れば、俺が知っている手段はさっき挙げた二つだけだ。


 では、他者の力を頼る方法なら?


 それならば、もう一つ選択肢が生まれる。


 それは、他の【命令】持ちに頼るという方法。即ち、相反する【命令】で相殺するという方法だ。

 ……まあ、現実的な手段では無いな。まず『信頼出来る【命令】持ち』を見つけるのが非常に難しい。大抵は周囲の環境のせいで性格がねじ曲がってるし。


 だけど、やはりこの方法も違う。


「……本当、魔剣サマサマだな。本来の技量じゃこんな事できなかった」


 正確には、同じ原理でやり方が違う。


「“解放しろ”」


 奴隷紋を刻む。それは人を無理矢理隷属させる禁忌であり、そして【命令】持ちに対する対抗手段の一つというわけだ。


  ―*―*―*―


「――さてと、じゃあキリキリ吐いてもらおうか」


「……話せるようなことなんてほとんどねえよ」


 盗賊達を奴隷紋から解放し、縛り上げたところで情報を聞き出そうとしてみれば、返ってきたのはそんな答えだった。


「そうか? ほとぼりが冷めるのを待てないような連中だろ?」


「犯人は領主の息子、急かしたのもほとんどコイツ、自己保身だけは一流で実働は仲良しの犯罪組織、金を集めたいようだが理由は不明。……せいぜいこの程度だ」


「犯人が分かっているのに『情報はほとんど無い』か、そりゃあ面白い」


「話したって意味が無いんだよ。アンタが一番分かってんだろうが」


「…………」


 ……ま、自演を疑われて終わりだろうな。


 本当に厄介だ。俺に【命令】の才能スキルが無ければこの証拠一つ突きつけるだけで全部終わるのに。

 できる限りの事をしようと決めたというのに、結局はこれが限界か。不甲斐ない。


「……はぁ、こんなもんか。ちょっと待ってろ、いま紐を解く。あとは自己責任で勝手にしろ」


「以外だな、あっさり殺されるもんだと思ってたんだが」


「孤児院に帰るのに人の血の臭いをさせたくないだけだ」


「……とんだ博愛主義だな」


 そんな捨て台詞を残し、盗賊たちは去っていく。


「…………俺はそんな大層な人間じゃねえよ」


 ポツリと呟いたその言葉は、森のざわめきの中にただ消えていった。

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