第24話 魔法の鍛錬

「さて、と」


 朝食の後、試したいことがあった俺は町から離れた場所にある森に来ていた。この辺りの冒険者の仕事場でもある場所ではあるが、町の中よりは体を動かしやすいだろうと判断しての事である。


 まあ、動かすのは体ではなく魔力なのだが。



 魔法を学ぶ、ということにおいて大きな壁となるのは、『認識』『操作』『変換』の三つだ。


 『認識』というのは自身の体内にある魔力を認識することで、これが意外と難しい。

 そもそも気力体力魔力というくらいには当たり前に生き物が持っているものなのだ、これをあえて認識し直すということが出来ずに魔法を学ぶことを諦める者も多い。


 『操作』とはそのまま魔力の操作のことである。

 魔法を使うならば、それを発動させる場所に魔力を集めなければならない。


 と、ここまで出来れば晴れて使えるようになる。俺もここまではある程度独学で出来ていた。


 問題は最後の『変換』である。


 『変換』とは何か、それは無属性の魔力を属性のある形にする事である。

 火炎属性なら炎、流水属性なら水、といった形へと変換するのである。これらの『変換された魔力』は実際の炎や水のように振る舞いながら魔力としての性質を併せ持つ。


 この『魔力としての性質を併せ持つ』というのが厄介なのだ。

 実際の炎や水は簡単にイメージできる。しかし属性魔法としての炎や水が分からない。

 ましてや俺の魔力の属性は『光』、見よう見まねでやろうにもまず使い手に会えない。

 数少ない使い手は大抵【命令】持ちを目の敵にする聖職者だし、そうでなかったとしても見ず知らずの【命令】持ちに魔法を教えてくれる人はいないだろう。


 ……前置きが長くなってしまった。結局の所、何がしたいのかというと、


―――良くも思いついたよな、体内で魔力と一体化しているするなんて。


「意思があるなら大体効くからな」


 ……という事である。


 魔法を学ぼうとするする時の壁は、魔法を使おうとする時の壁でもある。魔力に意識を向け、操作出来なければ準備ができず、変換できなければ発動出来ない。

 それを補助するのが呪文だ、呪文を詠唱することで『操作』と『変換』の大部分を自動で行い、細かな制御を自分で行う。というのが主流だ。


 そして、今回魔剣に求めるのはこの呪文の役割である。


 体内の魔力に意識を向け、操作。前方へ右手を翳し、そこへ魔力を集める。


 ……俺の中にある『光』のイメージ、それは大地を照らす太陽だ。ならば下すべき【命令】は――


「“照らせ”」


 魔力に何か手を加えられる感覚、恐らくはこれが『変換』の感覚だろう。

 今まで出来なかった『変換』、それが出来たという一瞬の感慨に浸る間もなく。


「……おお」

―――おおーー。


 右の手のひらから光が生み出され、前方を照らしていた。


 ……すごいな、まさか本当にできてしまうとは。


「さーて、ここからが本題だな」


―――ん? 本題?


 集める、いや纏めるか? ……それも違うな、それよりはもっとこう……


「“束ねろ”」


 数瞬おいて、生み出されていた光が手のひらから10センチ程のところへ集められる。

 その焦点へここに来る途中拾ってきた木の枝を持っていくと……、


 ―――おいまさか本題って


「よっしゃこれで着火器具が壊れる心配をしなくて済む!」


 枝の先には火が点いていた。


―――…………えー


 窓際に硝子の花瓶を置いていたら小火ぼや騒ぎになった。なんて話を聞いたことがある。そんなことで火を起こせるのかと試したこともある。

 実際、その時は成功したのだが、硝子が割れてしまう可能性を考えると旅先では使えないと使用を諦めた。


 それが出来るとなれば使わない手はない。細々としたものを買うのに困るほど金欠という訳ではないが、そういうちょっとの積み重ねは意外と馬鹿にできない。


―――てっきり攻撃魔法でも使うのかと思ってたんだが。


「こんなピカピカ光るだけの魔法で攻撃とか無理だろ」


―――火を起こせるだけの威力があるなら何か出来そうだけどなあ。


「これを攻撃に使うには汎用性がなあ……」


 残念ながら他の攻撃魔法と違って狙ったところで収束させないといけない。それでは十分な汎用性は得られないだろう。


―――最初から収束させておくのはどうだ?


「……なるほど」


 確かにそれなら使えるかもしれない。


 ……んー、だとすると……


「……“撃て”」


 指を前に突き出し、一言【命令】する。ピィンと小さく、甲高い音が響くと同時に、細い一条の光が矢の如く撃ち出された。


 そして、そこには……、


「うわ」

―――うわ


 不幸にも的にされ、風穴を開けられた岩が転がっていた。

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