第23話 あくる朝、庭にて
「……フッ、……フッ、」
庭に、地面を踏みしめる音と呼吸の音が響く。早朝の喧騒と壁で区切られた空間で、俺は日課の鍛錬をしていた。
準備体操のストレッチから始まり、走り込み、筋トレ、徒手での型稽古、剣を使った型稽古、……というのが理想だが、旅を始めてからは走ることだけはなかなかできていない。故郷とここでは魔物の数が違う。
大抵は一人で、たまにヴァルナがやってきて二人で、鍛錬をするのが普通だ。
そして、今日はそれ以外にも客がいた。
「……見てて面白いものですかね?」
「結構面白いよ?」
そう答えるのはカイだ。いつもは妹と一緒にいるが、今は珍しく一人でここに来ている。
……まあ、楽しいというなら好きにさせようか、邪魔をしてくるというわけでもないし。
会話が途切れ、鍛錬の音だけが沈黙の中に響く。
剣が風を切る音、全身の筋肉の軋みに意識を集中させる。目の前にある『空』を斬るほどに鋭い一閃を振るう。……というのは師匠の受け売りだ、たとえ鍛錬でも、本来斬れるはずの無い、そこに無いものを斬ろうとすればそれ相応の鋭さが生まれる。より実戦に近い動きができるのだ、と教わった。
「……レオにいの剣には、何か流派とかあるの?」
「ありますよ、こっちの方だと俺しか使い手がいないでしょうが、雪花流という流派です」
攻めの『花』の流派、守りの『雪』の流派の二つを源流とする、八の攻めの型、三の守りの型、合わせて十一の型を持つ剣術だ。
俺が、砂漠と海を超えた向こうから持ってきた数少ないものの一つでもある。
そう教えると、カイは「そっか、雪、か……」と言ったきり黙り込んでしまった。
それが気になり、何かあったのか聞こうかと逡巡していると、カイはまた話し始めた。
「…………僕たちは、さ」
「……はい」
「本当なら、春が来る頃にはみんな奴隷になっていたはずなんだ」
「……まあ、悪い選択肢、というわけではないでしょうからね」
奴隷であることを示すための首輪などを付けることになったりとある程度の制約はあれど、衣食住の保証はされるし、買われた先できちんと働けば自らを買い戻し、最終的には自由の身に戻れる。
それが奴隷というもののはずだ。
「皆さんは読み書き計算ができますし、辛い肉体労働をさせられるなんてことも―――」
「違う、紋を刻まれるはずだった」
その言葉に、鍛錬の手が止まった。
「……まさか」
「うん。違法奴隷にされる未来をエルメアお姉ちゃんが視た」
「…………冗談、ですよね? 仮にも彼は領主の息子でしょう?」
黙認ではなく利用しているなんて、悪い冗談であってくれと願っての質問は、しかしすぐに否定された。
「たぶん間違いないと思う。僕たちもあの人たちのことを見て確信したから」
人を踏みつける、暗くて汚い欲望にまみれた人達だった。と続けられた言葉に、俺は黙り込むことしかできなかった。
「……どうやって切り抜けたんですか?」
「……よく分からないんだよね、たぶん何かの噂を流すようにして切り抜けたとは思うんだけど……」
当時はただひたすらエルメアの指示に従って活動し続けたそうだ。曰く、「ここでこの話をしろ」だとか「この日時にこれを買え」だとか、子どもたちをある程度奉公先などに『避難』させたのもこのタイミングらしい。
「……まあ、たしかに年少者に比べて年長者が少ないとは思っていましたが……」
「それでもギリギリだったみたい。エルメアお姉ちゃんがその後倒れちゃってさ、治ってからもずっと気を張りっぱなしなのはみんな分かってて、口にはしなかったけどみんな気を使ってた」
「…………」
権力、という絶大な力を前に、頼ることができるような大人は周囲にどれほどいたのだろうか。
大変だったんですね。だとか、そんな安直な言葉をかけることもできず口を噤む。
「……だから、レオにいには感謝してるんだ」
「…………え?」
そんなところへ突然かけられたその言葉は予想外で、思わず聞き返してしまった。
「だって今日エルメアお姉ちゃんが寝坊してるのってレオにいのおかげでしょ?」
「寝坊というにはまだ早い時間でしょう」
「眠りの浅かった最近と比べたら十分寝坊だよ」
それで、どうなの? と再び質問される。
……心当たりならある。というか十中八九昨日の【命令】だろう。
…………でも、まあ、
「……どうでしょうね、意外とベッドの温もりが恋しかっただけかもしれませんよ?」
「……あははっ、そうかもね」
年長者はカッコつけたがるものだ、ちょっとぐらいいいだろ?
―――――――――――――
ここからはあとがきです。
どうも、シジョウです。更新が遅くなってしまい申し訳無い。
Twitterでも言い訳してましたがここでも改めて……。
動画作ってました。趣味のゲーム実況じゃなくて所属しているサークルの紹介動画です。
たった10日間で作り上げることになったせいで完成してからちょっと燃え尽きてました。
そこに大学で授業が再開したのもあってこんな感じになりました。
……決して狩猟生活に勤しんでたわけではありません。
ティガレ○クス相手に2乙しながら「やっぱこいつ苦手だわー」とか言ってません。
エ○エンク巻きつけてモンスター引っ張って「大怪獣大戦だー」なんてやってません、信じてください嘘ですめっちゃ遊んでましたすごい楽しいです。
こんなんですがチマチマ書いていきますので生暖かい目で見守っていただけるとありがたいです。
それでは。
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