第20話 騒動、その後日

 才能スキルは人によって多種多様である。


 筋力を強化する、魔力を素早く回復する、高い治癒力を得るといった身体強化系の能力や、特定の属性の魔法を強化したり、大本となる魔力を増幅する魔力強化系の能力、相手の考えていることが分かるようになる読心系の能力、ほかにもいろいろ。


 そして同じ系統、内容の才能スキルでもその効果が全く同じということはほぼあり得ない。

 例えば【魔力眼】を持つミリアは人の持つ魔力などを色としてみることができるが、これが水の流れのように見えている、という者もいる。


 才能スキルの多くは先天的なものであり、両親ないしはその先祖から遺伝するものである。例外としては俺の持つ【命令】やエルメアの持つ【未来視】などが挙げられる。……まあここは孤児院なわけだし先祖の事なんてほとんどわからないけども。


―――そろそろ現実逃避をやめたらどうだ?


―――この状況に困惑してるだけだ。


 そう、俺は困惑していた。俺が斬られたあの事件、ほかに怪我人はいなかったようだが、当の本人である俺が丸一日寝込んでいたらしく目を覚ますと代わる代わるお見舞いがやってきた。

 ……それだけなら別に問題はない、というか心配をかけたのは理解している以上現実逃避などせずにちゃんと向き合って話すつもりだった。



 だった、のだが、



「……あの、シーアさん、何しているんですか?」


「レオにい、しーっ」


 カイとシーアの双子がやって来たと思ったら、シーアがおもむろに俺の腹に耳を当ててきたのだ。何故かカイと手を繋いだままで。理由を聞こうにもカイに「静かに」と言われるばかりでどうしようもない。


 現実逃避だってしたくもなるだろう、訳が分からない。


 と思っていると、


「……うん、大丈夫みたい。悪い子じゃないと思う」


「…………はい?」


―――レオンの中に入っていった剣の事か?


「うん、その子のこと」


「…………待ってください。ヴァルナの念話が聞こえるんですか?」


「うん、今だけだけど」


「……どこから質問するべきなんですかね」


 どうする、どっちから質問する、剣の事は後回しにするか?……いや、そっちの話の方が早く終わるか。


「……とりあえず念話については後で聞きます。というか、俺の中に入っていった剣って……」


―――オークとやらが持っていた剣だな。


「あれ幻覚じゃなかったのか……」


 光の粒子状になっていたし、たぶん剣そのままの形で体内にいる訳じゃないのだろう。体そのものへの違和感は無い。


 違和感を感じているのは魔力だ、軽く操作してみたところ問題は無さそう……どころか精度と速度が上がっている気がする。いやしかしそれってつまり魔剣が魔力体として体内にあるというわけでそんな魔剣、というか魔道具なんて見たことも聞いたことも無い、というか悪い子じゃ無さそうってつまり『意志持つ道具』ってことかよそれって下手したら所謂「伝説級」の魔道具じゃねーか?!


 ……いや、取り敢えず落ち着こう。


「悪い子じゃないって比喩表現ですよね?」


「そのままの意味だよ?」


「……本当に『意志持つ道具』なのかよ。……あー、それ以外でわかることは?」


「今は眠っているみたい。それ以外は……、ごめんなさい」


「いえ、謝るようなことじゃないですよ。」


 むしろ情報無しが当たり前みたいなレベルの事件、相手だった。こうして、俺の中にいる存在が何者なのか、という情報が少し分かるだけでもありがたい。


 ……それよりも、だ。


「ヴァルナの念話が聞こえるってどういうことですか? なんか波長が合わないと聞こえないとか本に……本蛇が言っていた覚えがあるんですが」


「ちゃんと聞こえるのは今だけ。今はカイと手をつないでいるから」


―――こいつら、双子だからなのか手を繋いだりすると才能スキルが強くなるらしい。今までも断片的に聞こえてたんだと。


「そうだったんですか……。って、それ、カイには聞こえていないのでは?」


「シーアが教えてくれているから大丈夫だよ。」


 双子の間でテレパシーまで使えるのか、凄いな。

 ……確かカイの才能スキルが『目を見た相手の感情が分かる』という【読心眼】で、シーアの才能スキルが『声を聞いた相手の感情が分かる』という【読心耳】だったか。これだけならそれこそ経験を積んだ商人とかが才能スキルじゃなくても持っていそうだな、とか思っていたのだが、……あれ? どのくらいまで強化されるんだ?


「……才能スキルってどのくらいまで強化されるんですか?」


「今こうやって目の前にいるだけでどんなことを考えているか分かるくらい、かな」


「……とんでもないですね」


「…………やっぱり、怖がらないんだ」


「ああ、こういう細かい事も分かっちゃうのか、それはちょっと恥ずかしいですね」


 二人が手を繋いだ時の才能スキルは読心系の能力としてはトップクラスに強い部類に入ることになる。それはつまり、近くにいる相手からすれば良い事も悪い事も全て暴露されるかもしれない、という恐怖があるわけだ。そして、その悪感情も分かってしまう、晒されてしまう。

 ここに来る前の生活はとても息苦しく、そして寂しいものだったのだろう。


「やっぱり、最初に見たとおりレオにいは優しい人だね」


「やっぱり恥ずかしいですね。そろそろしょうもない事とか考えましょうか」


「……口動かさなくても会話できそう、とか?」


「正解、さすがです」


 とりとめのない話をして笑いあう。きっと悪感情が怖くて碌に手も繋げなかっただろう、今この時ぐらいは、心が読めることを楽しんでくれたらいい、そう思っていた。

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