第14話 薬草集め④

 ざくざくと穴を掘り慎重に根を掘り出す。人の手でうまく栽培できないこの植物の根は、乾燥させ、すり潰して解熱剤として使う。保存がきき、量も確保しやすいため安価に手に入る市民の健康の味方だ。


「あぁ、そうだ」


 あれもついでに聞いておこう。


「毒があまり効かないって言ってたけど、どんな才能スキルなんだ? やっぱり【毒耐性】とかか?」


―――……毒を食ったり毒に侵されると、魔力を使ってそれをまねできるようになるな。例外もあるが。


「まさか【魔毒】か?」


 まさかの返答が返ってきた、この才能スキルはヴァルナの説明通り『毒を真似して生み出せる』というものでかなり珍しい。その珍しさ故にその全貌も明かされていない。

 ……まあ、明かされていない一番の理由はこの才能スキルを持っている奴のほとんどが暗殺者などの仕事をしているからなのだが。


「…………お前本当に何者だよ」


―――色々と珍しいのは自覚してるよ。


「なあ、それだけの力があったのに何であんなに痩せ細っていたんだ?」


―――獲物が減っていたところにさらに狩りに失敗してな。


「……まだ春の半ばだぞ?」


―――オレの縄張りの周辺がちょうどそうだったってだけの話かもな、なんにせよあの時は生きるか死ぬかの瀬戸際だった。襲い掛かったのがお前で運が良かったよ。


「……そうか」


 まあ、さすがに気にしすぎだろう。冬を越せなかった動物が多くて生態系のバランスが崩れることもあるし、そういうのは時間がたてば勝手に治っているものだ。他所から来た旅人が一々気にするようなことでもない。


 ……そろそろ十分だろう、薬草もだいぶ集まったし、当初の目的だった地形の概要も把握できた。


 西の空はもう夕焼けで赤く染まり始めている、暗くなる前に帰らねば。


  ―*―*―*―


「――はい、ではこちらが報酬になります」


 町へ戻り、組合ギルドに薬草を納品する。報酬を受け取って依頼完了だ。

 ……まあ、恒常依頼なのでこの言い方には若干の語弊があるが。


「それと、こちらの剣と盾なのですが……」


「……すみません、元の持ち主が分かるようなものが見つかればよかったのですが……」


「い、いえっ! こうして組合ギルドまで持ってきてくださるだけでも十分すぎますから! ……とにかく、こちらは特に報酬、謝礼はいらないとのことでしたが、よろしいのですね?」


「はい、それでお願いします」


 これは小悪鬼長ホフゴブリンが持っていたものだ、倒した後にそのまま放置するわけにもいかないのでこうして持って帰ってきた。

 ……正直なところ、謝礼に関しては『いらない』のではなく『受け取りたくない』というのが本音である。この前の盗賊と同じようにマッチポンプを疑われたらたまったものではない。


「……では、これで手続きは以上ですね、本日はお疲れさまでした」


 何はともあれ、こうしてこの町にきての初仕事は無事に終わりを迎えた。

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