第15話 旅人の授業:魔法編①
…………どうしてこうなったんだ。
―――顔に出てるぞ。そんなに人に教えるのが嫌か?
「……いや、【命令】持ちがこうやって授業するのはあまりよくないだろと思ってな」
―――そこまで悩むことかね。
「悩むことだよ、相手が幼い子供なら尚更な」
たとえそれが授業の一環であっても、【命令】持ちの言葉には強制力がある。教えるための『~してください』という言葉ですら相手を縛り上げかねない上に、いつまで効力が続くかも不明瞭なのだ。
精神の未成熟な子供相手なら、それこそ一生効力が続く可能性もある。あまりにも危険なのだ。
―――よく分かんねえな。……とにかく、そんな風に顔に出したまま授業するわけにもいかないだろ、シャキッとしろって。
「……いい加減腹括るかあ」
教室代わりの大部屋のドアを開ける。みんな大人しく座って待っていたようだ。
「……はい、それでは授業を始めます」
「「「よろしくおねがいします!」」」
うん、元気な返事だ。この調子なら委縮して授業に参加できないなんてことは無さそうだな。
この町にきて数日、子供たちの監督役をしたり力仕事を手伝ったりしながら過ごしていたある日、俺は子供たちの教師役をすることになった。
―*―*―*―
つい先日の事である、特に用事の無かった俺は孤児院の庭にいた。早朝の鍛錬の時にはよく来ていたのだが、そういえば昼間の様子はあまり見てないな、と思ったのが理由だ。
……まあ、やっぱりというべきかだいぶ騒がしい、さほど広い庭でも無いうえ、遊び道具も少ないのによくもまあこれだけ遊べるものだ。
「…………ん?そういえばこっちは……」
ふと、庭の中の壁で区分けされた一画の事を思い出す。あそこはどのように使われているのだろうか。
「”――――、――――――”」
「……なるほど、」
「――――”
そこでは魔法の練習をしていた。確かに庭を区分けするにはやけに頑丈な壁が張ってあるとは思ったが……。
魔法を放とうとしているあの子の名前は……確かリーリエだったかな、それをシーアが応援しているようだ。
「……はあ、やっぱりうまくできないよ……」
「練習あるのみだよ。がんばろ!」
別に、何らおかしい話でもない。魔法の初歩だけでも学んでおけば色々と役に立つし、この世界は危険も多いのだ、身を守る手段は多いに越したことはない。
……ただ、あの勉強法はまずいな、どうやらうまく詠唱ができずに失敗しているらしいが、あのまま続けていればいつ暴発して事故を起こしてもおかしくない。
「……詠唱がうまくいかないんですか?」
「あ、レオにい……。えっと、そうなの。呪文が覚えられなくて……」
「呪文の意味は理解してますか?」
「……? 魔法を使うために必要なものってこと?」
「いえ、そっちじゃなくて呪文の文章そのものの意味です」
「ううん、しらない」
「そうですか、だったら……ええと確か……『赤き火よ、燃え上がる炎よ、我が魔力を糧に鋭い鏃を
「……やってみる!」
そう言うと、リーリエはまた詠唱を始めた。今度はつっかえたりすること無く呪文を唱えられている。
今教えたのは、精霊語の文章である呪文をそのままウォルクロア語―――この国で広く使われる言語に翻訳した文章だ。初歩的な魔法ならこれで十分なはず。
「――――”
「すごいじゃん!」
「……うん、さっきまで失敗ばかりだったとは思えない出来の魔法でした」
果たして魔法は成功した。これで一件落着……と思っていたのだが、
「わたしにもおしえて!」「ぼくにも!!」
…………まあ、あとはなし崩し的に授業をすることに決まってしまったわけである。……俺、魔法はほとんど使えないんだけどなあ……。
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