第12話 薬草集め②

「!!」

―――おお、うめぇ


 これは……凄いな、驚くことに鶏肉は香草焼きになっていた。そのうえ冷めているのにおいしい。この辺りでは高いはずのスパイスが良く効いていて、一口食べるたびにその凝縮されたうまみを感じる。


―――これすごいな、冷めたときにうまくなるような味付けがしてあるのか。少し濃い気がするのは……パンと合わせるからか?


 ああ、なるほど。それで合点がいった、出来立ての料理と冷めた料理とでは味が変わる。それを考えた味付けならこれほどおいしいのも納得だ。

 

 …………って


「お、おい! お前それ食って大丈夫なのか!?」


―――? なんかあったか?


「い、いや、こういうスパイスって動物には毒だって聞いたことがあるんだけどな」


―――ああ、それなら問題ねえよ。俺、毒はあんまり効かねえから。


「……ああ、そういう才能スキルか」


―――なんだその『スキル』って


「……その説明も必要か」


  ―*―*―*―


 才能スキルは『体内に魔石を持つ生物及び魔物が先天的に持つ特殊能力』っていう風に定義されている。まあつまりは俺の【命令】とかお前の【念話】がその才能スキルってやつに当てはまる。……まあ後天的に才能スキルを得るような例外もあるらしいけどな。


 え?魔物はみんな生物じゃないのかって? ……生物じゃ無い魔物がいるんだよ面倒なことに。一番多いのは死体――特に魔石を放置すると生まれるゾンビとスケルトンだな。後は魔力が淀むような場所で魔力が意思を持って動き始めるとウィスプになるし、強い怨念を持つ奴が死ぬとゴーストになるし……。思いつくのはこの辺りか。


 まあ、それじゃあ魔物の定義って何なんだよって話になるよな。……さっきは魔法が使えるかどうかが一番手っ取り早い判別法だって言ってたけどさ、魔法を使わない魔物だって存在するんだよ。ならなんで魔法が判別法にされるのかというと、それが魔力の量を測るのに使えるからだ、それで、魔力量が分かれば魔石の大きさがわかる。……っと、動物は必ず体内に魔石を持っているっていうのは知ってるよな? ……さすがに知ってるか、ええと、とにかくその『魔石の大きさが一定以上ならそいつは魔物だ』っていうのが、動物に対する魔物の定義だよ。


  ―*―*―*―


「植物とか非生物の魔物の定義は長くなるからまた今度な。」


―――なるほどなあ


「まあ、長話してても仕方ないし、そろそろ仕事始めるぞ」


―――おう、オレは周囲の警戒をすればいいんだよな?


「ああ、任せる」


 打ち合わせ通りに役割分担をして薬草集めを始める。……根から掘り返さなければならないもの、新芽の部分だけ採集すればいいもの、ほかにも採集するものそれぞれに注意点があるので、見張り役が一人(一匹)いるだけでかなり楽になる。


「……おっ、これは」


―――どうした?


「確かこれの実がスパイスになったはず」


 そうか、これが生育しているならあのサンドイッチの値段も納得だ。今は春だから季節ではないが、収穫できるころには依頼も出されるのだろう。


―――……あー、悪い、気を抜いてた。


「この気配は……小悪鬼ゴブリン3体か?」


―――いや、後方に少し大きいのが一体だ。囲まれてる。


小悪鬼長ホフゴブリンもいるのか、面倒だな」


 まだ森の端のほうだと思って油断してたな、


「さっきも聞いたけど牽制はできるんだよな?」


―――むしろその程度しかできないな。


「十分だ」


 腰にさした直剣を抜き、左手のバックラーを構える。


 ……そう、十分だ。一人で戦うよりは何倍もマシなのだから。

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