第11話 薬草集め①

 あの後、無事にヴァルナの従魔登録も済み、俺たちは依頼掲示板の前に立っていた。


―――なんか色々並んでるな。


―――そっちの並んでいるほうは今日は受注しないけどな。


 ここで、冒険者組合ギルドの依頼のシステムについて説明しようと思う。

 依頼には大きく分けて3つの種類がある。恒常依頼、受注依頼、そして指名依頼だ。


 恒常依頼は基本的に、傷薬の材料に使うような使用頻度の高い薬草や、魔道具の燃料として使うような小さな魔石など、日常生活に欠かせないものに対して出される。また、その依頼もいちいち受注するわけではなく、即座にギルドが買い取れる量及びその値段が掲示板に張り出され、それを参考に採取量を決めるといった形になる。


 受注依頼は、依頼者が報酬を事前に提示し、その依頼を冒険者が受注するという冒険者の花形ともいえる依頼形式だ。その内容は、どこどこに住み着いた魔物を討伐してほしい、だとか、難病に効く○○という薬草をとってきてほしい、とか、あと変わり種では力仕事をする人手の募集なんてものもある。


 そして最後の指名依頼は、その名の通り依頼人が特定の冒険者を指名して頼む依頼である。一応受注依頼の一種といえるのだが、掲示板に掲示されず、その内容も危険なものが多いなど別に扱われることが多い。


  ―*―*―*―


―――で、今回は恒常依頼にあった薬草を集めようと決めたわけだ。


―――受注依頼ってやつのほうが報酬多いみたいだが。


―――さすがにこの辺りの地形を覚えないとつらいからな。


 受ける依頼を決め、町の外へ向かうべく歩いていた俺は、ヴァルナへの説明をしていた。


―――正直な話、滞在報告だとか従魔登録が何なのかの説明が欲しいんだが……。


―――見ての通り、門に到着だ。続きは手続きが終わったらな。


 といっても手続きはすぐ終わる、冒険者証を衛兵に渡し、本人確認をしたら終了だ。


―――よし、続きだな。


―――入る時と違ってあっさりしてんな。


―――あれは分かりやすく疑われる理由があったからな……。


 むしろ冒険者登録をした理由の大部分がそこにあるといっていい。【命令】持ちは身元を証明できる手段がないと町から町へ移動するとき、特に町に入るときによくて半日、場合によっては丸一日かかる時もあるのだ。


―――なんでそんなことになるんだ?


―――昨日、俺の【命令】に逆らえたか?


―――いやまったく。


―――あれを人が多く集まる広場で、それも別の【命令】……例えば『隣の奴と殺し合いをしろ』とかでやったらどうなると思う?


―――……逆らえる奴もいるんじゃないか?


―――多少はいるかもしれないけど、その程度でどうにかなるようなことじゃないだろ?


―――……まあ、な。


―――で、そんな危険人物を管理するために俺たち【命令】持ちは滞在報告をしないといけないと決められているわけだ。


―――なるほど。


―――従魔登録も必要な理由は似たようなもんだよ。強い魔物ならそれなりの審査もあるしな。……よし、到着。腹ごしらえしたら働くぞ。


―――よっしゃ、さっきからいい匂いがしてて待ちきれなかったんだ。


 カバンに突っ込んでいたバスケットからサンドイッチを取り出す。今朝の朝食のパン屋で買ったもので、バゲットに鶏肉とレタス、ピクルスが挟んでありなかなかのボリュームでうまそうだ。


 ……待ちきれないのはこちらも同じ、空腹を満たすべく、思い切りかぶりついた。


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