第4話 名付け、そして考え事

 それから、あれやこれやと話しているうちに、


「あの子の名前はなんていうの?」


「そいつ、今朝手懐けたばかりで、まだ名前がないんですよね。何かいい名前はありませんか?」


 と、蛇の名前の話になったので、そう返すと、子供たちは嬉々として相談を始めた。


 よし、これで質問攻めから解放されるな!


  ―*―*―*―


―――……なんか飼っていた犬の名前とか付けられそうになってるんだが。


 念話には意地でも反応しない。だって質問攻めが再開しそうだし。


 そんなことを考えていると、さっきの大人しい声の少女、エルメアが戻ってきた。なぜか眠たそうに。

 ……外で見張りをしていたと思うのだが、もういいのだろうか。


「お帰り、エルメア。もう大丈夫なの?」


「うん、無事に帰れそうだよ。ところで、あの子たちは何してるの?」


「蛇の名前を考えてるみたい」


「…コニーとかロンとか聞こえてきたのはそういうことか。―――ッ!?」


 そう話しながら件の蛇のことを見やると、途端に黙り込んでしまった。

 わいわいと相談していた子供たちも、黙ってエルメアのことをじっと見ている。けど、なんというか、期待の眼差しを向けているような?


「………ヴァル=ナダル……?ということは風竜王、だよね?……どういうこと??」


 うわごとのようにつぶやく言葉を聞いて、また子供たちが騒ぎ始めた。


「ふうりゅうおう!!」

「ヴァル=ナダル!!」

「じゃあこの子すごい蛇なんだ!」

―――おお、いいな!!


 なんだかこのまま『ヴァル=ナダル』と名付けそうな勢いだ。とはいえ……、


「さすがに名前負けしすぎじゃないですか?ただの蛇ですよ、そいつ」


―――なんだと?!


「「「えーーでもーー」」」


「いや、でもじゃなくて」


 ……だめだ、せめて風竜王に関する名前を付けないと満足しない奴だ、これ。


 うーん……風竜王……ヴァル=ナダル…………


 ――うん、これならいいだろう。


「ならヴァルナ、ヴァルナにしましょう」


―――ふむ、まあ、それならいいか。


「「「さんせーい!」」」


 何とか無事に名前が決まったようだ。ついでに言うと質問攻めからも解放された。


  ―*―*―*―


「ふう…」


 やっと落ち着いたな。

 一度落ち着いてみれば、考えたいこと、気になることは出てくる。

 何故、この馬車には大人が乗っていなかったのか。とか、エルメアが急にあんなことを口走ったのは何故なのか、とか。


 前者についてはまるっきり分からない。積んである薬草類を見る限りは、どうにも冒険者のようなことをしていたらしいが、そもそも子供だけでやるようなことではないだろう。


 後者については……ある程度の予想はつくな。

 おそらく、【未来視】だろう、読んで字の如く『未来を視る』能力であり、その有用性、特殊性から希少な能力でありながら多くの歴史書などに登場している。


 ……でも、不幸な結末を迎えているものが多いんだよな、不都合な未来を予見して処刑されたり。彼女がそうならないことを祈ろう。


 とにかく、【未来視】の能力なら説明がつくことが多い。早々に見張りを切り上げたのは、『何事もなく町にたどり着く』という未来を視たからだろうし、眠そうにしていたのも、能力を使って疲れたからだろう。何せ、1日のうちに2日分の事を見るような力だ、疲れないほうがおかしい。


 ……ただ、そうなると気になるのはヴァルナの事だ、エルメアは彼を見て風竜王のことを口走った。

 エルメアにあれは何だったのかと聞いてみたが、はぐらかされてしまった。【命令】を使えば無理やり聞き出せるけれども、それは俺の性に合わない。


「竜王、か……」


 どういう存在だったかな、

 俺が知っているのは、「風」とか「火」とかいろんな属性の竜王がいることと、人に試練や加護を与えることくらいだ。


「……ちゃんと調べておかないとな」


 いずれ関わる事になるかもしれない。


 町に着いたらすることが、1つだけ決まった。

 

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