第3話 俺、質問攻めにあう
「先ほどはありがとうございました」
馬車に積まれていたロープを使って盗賊たちを縛り、おとなしくしているよう命令したところで、先ほどの少年――クルトに礼を言われた。
盗賊に関しては、町まで連行して衛兵に引き渡すつもりらしい。
「いえ、街道を迂回するのも面倒でしたし、見て見ぬふりをするわけにはいきませんでしたから」
言葉に感情を乗せないように、そして丁寧な言葉を選ぶようにして返答し、そして尋ねる。
「よろしければ町まで同行しましょうか?盗賊たちには一応おとなしくしているように命令しましたが……」
「それは……」
……やっぱり悩むよな。
そもそも俺の持っている【命令】という能力は、持ち主は少ないのに知名度は一、二を争うくらいに高い、その内容は『口に出した命令に、相手を強制的に従わせる』というもの。悪名高さはぶっちぎりの一番だろう。
普通なら長時間一緒にいるのは避けたい相手だろう、だが、見張りは多いほうが良い、その板挟みに悩んでいるようだった。
このままでは埒が明かない、そう思って口を開こうとしたとき、
「クルト、その人なら大丈夫だと思う」
「クルト兄ちゃん、その人なら大丈夫だよっ!」
大人しい声と元気な声が聞こえてきた。
声のほうを見ると、12歳くらいの少女と9歳くらいの少年がこちらへやってきた。
「エルメア、カイ、…そうか、二人がそう言うなら…。
すいません、お願いできますか?」
「…いいんですか?」
「はい」
そんなにすんなり決めていいのだろうか
とにかく、頼まれた以上は見張りの役割を全うしなくては、そう思い馬車に乗り込んだ。
―*―*―*―
【命令】の力はたとえ無意識でも発動してしまう。だから、馬車の中では極力しゃべらないようにしよう。
と、考えていたのだが……
「ねえねえ、レオにいはどこから来たの?」
「旅って楽しい?」
「ずっと歩いてきたの?」
「「「おしえておしえてー!!」」」
この通り、質問攻めにあっていた。なお、返答は順番に「東にある砂漠の向こうの島国からです。」「大変なことも多いですが楽しいですよ。」「海や川を越えるときに船に乗ったり、砂漠でラクダに乗ったりしましたが、ほかは全部歩きです」である。
主に質問しているのはさっきの9歳の少年、カイとその双子の妹、シーアの二人。ちなみに、「レオにい」と呼び始めたのもこの二人で、簡単に自己紹介をしたら、「じゃあレオにいだ!」「よろしくね、レオにい!」と、怒涛の勢いで呼び名が決まり、そのまま質問タイムに突入してしまった。
―――さっきから変な喋り方だな。
勢いに
「…なんでそんな変な話し方なんですか?」
クルトと同い年くらいで、さっきから俺のことを疑わしそうに見ていた赤毛が印象的な少女、ミリアが同じ質問をしてきた。
……確かに、感情を抑え込むこの話し方は、はたから見れば奇妙に思えるだろう。ずっとこうだったから忘れていたな。
「【命令】の力を暴発させないためです。俺の力は他の【命令】持ちの人より強いみたいで、普通に話していたつもりが、思わぬところで迷惑をかけていたことがあって」
「そう、ですか……」
……言葉選びを間違えたかな、悪いことを聞いたと思わせてしまったのか、深刻そうな顔で黙り込んでしまった。
一方で、
―――へぇー
「「「へぇー」」」
あの蛇は
―――おい、なんか失礼なこと考えなかったか?
とりあえず念話は無視して再開された質問攻めに対応することにした。
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