第2話 世☆紀☆末!?

 それから......月日は過ぎ............。


 一部生徒による苛烈な鳳来学園男女戦争は今でも続く。


 学園内生徒達も、攻撃性は無くなったが冷戦状態は続いていた。


 そして、非常に影響を受けやすい多感な高校生徒達はみるみると変わってしまった。

 学校では真の男らしさを追求した肩パットに黒マスクのツンツンヘアーの男が数人現れたり、パンプアップし過ぎた端正な顔をした生徒が数人誕生してしまった。若干名女性的な方向に目覚めた者も居るが、僕とはまた同類とは思えない不出来な装い。その奇天烈な扮装は目を当てることが出来ない始末。結局の所、一部を除き男生徒に大した変化は無いのだが、僕を見る目まで些か気持ち悪いものになってきてしまった。


 女生徒側も、真っ黒に日焼けした山姥が発生してしまったクラスもあるみたいだ。そんな女子側も宝塚風の存在が確認できている。夢見るシンデレラガールや普通の女の子達はそんな強い彼女らに支配され、自分を抑制して日々を過ごしている。


 とにかく僕を取り巻く環境はガラリと色を変えた。


 鳳来学園は完全に壊れた。


 各教室は異様な雰囲気に包まれている。


 あの時、僕が無責任に言わなければ......。


 あの一言を非常に後悔している。言わない後悔の方が遥かにマシだった......。誰だよ後悔するならやって後悔しろとか言い始めた奴。


 でも、今更後悔しても遅い。


 何故ならば学園崩壊化によって引き起こされるであろう、事件が起きてしまったからだ。


 そう。僕は今、好きでもなんでもない肩パットの男から呼び出され、告白を受けようとしていた。


「い、いきなり呼び出してごめんね。俺は二年の佐藤。あ、あの、俺、五十六君の事が......」


 僕の目の前には口元をモゴモゴとしながら頬を染める佐藤。ヒューヒューと指笛が何処からとも鳴る。どうしても、佐藤への嫌悪感が酷い。逃げたくても野次馬に包囲されているのは分かっている。厳しいな。


「ちょっ、お前ら!見るなよォ!」


 佐藤が照れ、楽しそうに野次馬に吠える。そして、佐藤は勢いそのままに僕の肩を掴んでくる。


「ちょっと、邪魔されちまったけどよ。俺、五十六君の事が......す、すすす............すっ......ち......」


 早く言えよ馬鹿野郎。いつまでお前の青春に付き合ってやらなきゃいけないんだ。ほら、だらだらしてるから無駄に人が集まってきただろ。


「え、えーと......ごめんなさい?」

「えっえっ、なんでっ!? ねぇねぇ!! 俺勇気出したんだよ!? なんでえええええ!!??」

「ひっ、僕、男は好きになれないかな?」

「俺とお前の愛に性別の壁なんて何の障害になるって言うんだあぁぁぁぁ!!! お前はっ! これからっ、俺と愛し合うんだよ!! お前はぁぁぁああ!!」


 とりあえず謝っても聞く耳を持ってくれない佐藤。

 解放されたい。助けて欲しい。そもそも何が目的何だよ。愛心なんてお前に芽生えるわけないだろ。


 目を瞑って黙っていると激しく肩を揺さぶられた。


「......嫌がってるだろ、離してやれ佐藤」


 佐藤の背後から山の様な男が現れ、佐藤の秘孔を突いた。


「ぴぎゃあっ!」


 佐藤は一瞬の断末魔を上げ、地に伏せる。

 ピクリとも動かない............死んだのか?

 こいつ今、佐藤を殺したのか?


「全く......。大丈夫だったか? うぬの名はなんと言う」

「は、蓮田、です」

「そうか、我は......」

「ありがとうございます、そ、それではっ」


 良かった!助かった!救世主様!


 内心はもう、狂喜乱舞。

 金髪ロン毛ゴリラ世紀末風の彼に感謝を伝えその場を後にしようとした。


「......まて」

「いや、本当助かりましたって。僕、昼食まだなんで、それではっ」


 本気で走った。

 僕は元々帰宅部一の韋駄天として運動会では重宝されていた。なのに、今はもう周りの成長に置いていかれている。後ろから聞こえるのはドスドスとした大地を蹴る音。



 ひいいいぃぃっ!!

 ゴリラ男の分厚い指に肩を掴まれる。そして、身の危険を感じ、気づけば身構えていた。


「蓮田よ、落としたぞ」

「あ、あああ......。ありがとうございますっ!」


 答えてもいない苗字を呼ばれあわあわする僕。佐藤に揺さぶられた時に学生証が落ちてしまったみたいだ。もう、驚かせるのはその冗談みたいな存在力だけにしてくれよ............。


 結局、昼は買い損ねた。

 不貞腐れて机に突っ伏していると。


「ーーーどうしたよ、レンちゃん」

「なんだよ」

「おっ、怒ってんな?」


 金髪の髪をピンで止めている、鳴尾が僕のムスッとした顔を見て笑う。僕の事をレンちゃんって呼ぶのは鳴尾位だ。どうやら由来は、蓮田から取ったらしい。


「そりゃぁ、おかげで昼も買いそびれたしね」

「だと思ってよ、これ要るか?」


 僕は鳴尾の差し出すメロンパンに手を伸ばす。

 袋を端からツーと切り、思い切りかぶりついた。


「......そういや、炎堂さんに助けて貰ったみたいじゃん」

「あの、デカい人?」

「そ、黄金のゴリラみたいな人」


 あの人炎堂さんって言うんだ。バトル漫画とかに出てくる、戦う為だけに生まれてきたような男の名前だな。


「レンちゃんが無事で良かったよ俺は。俺も別件でそっち行けなかったからさ」

「また女子に告白でもされてた訳?」

「ん、まあな。んで何? もしかして俺に妬いてんの」

「ちげーよ。誰が男に妬くんだよ。勘弁してくれよ」

「またまた〜。安心しろって、俺にはレンちゃんが居るから女なんて要らねって」


 鳴尾はメロンパンを咀嚼する僕の頭を撫でる。そして、大きな手で髪の毛をバサバサと散らす。なんでこいつが女子に告白されてる間、僕は野郎共に囲まれて無けりゃならんのだ。そう考えると理不尽過ぎて単純に気に食わない。

 それでもこの学園の状況を考えても尚、告白されてる鳴尾は女子から見て、よっぽど魅力的な男子に見えているのだろう。


「鳴尾はそうやって誤魔化してるけど、何か、理由があったりして断ってたりするんだろ?」

「別に......? 俺は今、レンちゃんと一緒にいるこの時間が、ずうっと続けば良いなって思ってるだけだよ」

「まじキモイから止めろよそういうの。今の僕は特段にナイーブなんだよ」

「その位、レンちゃんが可愛いのさ」


 ヤンホモかよコイツ。この距離感がたまに気持ち悪くてむず痒い。


「気持ち悪い奴だな」と一蹴。


 ごめんごめん、なんて適当な詫びを言って鳴尾は戻って行った。変なノリが無ければただの良い奴なんだが、少し面倒な所があるのが傷だ。中学から同じ学校に通っていて、まさか高校まで同じになるとは思わなかったけど。

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