003 じぁあ、脱出するです。

 意図せず魔王の使い魔ハルと天使ベルと言う仲間を得た八島健太(ヤシマ ケンタ)であった。


 が、相手は高校生と中学生くらいの女子。正直、どんな話題で話したらいいかサッパリ思い浮かばない。


 ゲームなら日常的な会話なんていらんもんなー。そう言えば女子と話すなんてメチャクチャ久しぶりかもしれない。


 その上、天使ベルは下の名前、ケンタを連呼するので気恥ずかしい。小学生の時だってそこまで馴れ馴れしく呼ばれたこともない。仲間と言っても会話が進まずモジモジするはめになった。


「あのー。マスターケンタ様、そろそろ逃げた方がよろしいと思うです」


 俺に向かってにっこり微笑むネコ耳のメイド美少女ハル。少し若すぎるが悪い気はしない。マスターだものな、俺。なんかカッコイイ!


「何でじゃ。小娘」


 おい、小娘って・・・。お前の方がちっこいだろ、天使ベルさん。天使には見えんが魔王から引き継いだ力を封印したくらいだ、能力的には相当な格上には違いない。


 しかし、このままずっと下から目線で、上から目線の物言いをされるのもちょっとしゃくだよな。会話の主導権を取り戻さねば。


「えっと、ハルさん。逃げなきゃいけない何かがあるのか。例えば魔王以上のラスボスが出てくるとか」


「それは無いのですが、魔王ダーマ様がお亡くなりになった今、この魔宮殿を支えている魔力が尽きますです」


「なぬっ!ここはダンジョンの最下層、地下六百メートルなるぞよ」


 慌てふためく天使ベル。さっきまで威張り散らしていたのに・・・。


「えっ?ベルさん。君、天使だよね。ススーッと飛んで逃げるとか、亜空間移動するとか、できるんですよね」


「魔王の力を封印するのに力を使い切ったのじゃ。わらわがしもべ、ケンタよ。わらわを背負って逃げるのじゃ」


 この期に及んでも生意気な口調。人にものを頼む態度じゃないぞ。


「勇者のパーティはどうするんだよ。四人とも気絶しているけど、まだ、生きているぞ」


「非常事態だ。ほっとくぞよ」


 天使ベルは無慈悲に言い放った。


「そんな。君、天使でしょ!」


「うーん。おいネコ耳娘。お前が背負え」


「ええー。私がですか。わかりましたです」


 むちゃくちゃ言うな。って、おいおい。ハルさん・・・。


 ひょい。


 重そうな甲冑に身を包んだ勇者を一つまみで背負うハルさん。マジかよ!!


 ひょい。ひょい。ひょい。


 女拳士と白魔導士、黒魔導士を軽々と背中に積んでいく。


 ハルさんの細っちい弱々しそうな腕と脚。使い魔ってメチャ怪力じゃんかよ!


 てか、ハルさん。魔王の使い魔ですよね。勇者のパーティを助けるの?


「ハルさん。魔王が怒りませんか」


「魔王ダーマ様は亡くなったです。私はもうマスターケンタ様のモノです」


「俺のモノって・・・」


 ちょっと若すぎだけど・・・。ネコ耳のだから人間じゃないけど・・・。


 使い魔ハルの姿に顔を熱くする俺。理性が持つのか、俺!


「じぁあ、脱出するです」


 俺の思考を遮ってケロリとした表情で言われてしまう。俺は渋々、天使ベルを背中に乗せた。

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