002 レベル1に逆戻りで仲間を得る。

「ピポン。ケンタのレベルが1に戻りました」


 頭の中のナレーションをかき消すかのような元気な声が頭上から聴こえる。明らかに肉声だ。声の主が俺の背後に降り立つ気配を感じる。


「ピポン。ケンタの体力が1に戻りました」


 ジーンズとシャツを押し上げていた筋肉が風船のようにしぼんでいく。


「ピポン。ケンタの知力が1に戻りました」


 どこまでも澄んだ湖のようだった頭の中が、急に前のように霞んでくる。


「ピポン。ケンタの魔力が1に戻りました」


 輝いていたオーラが消えていく・・・。


「ピポン、ピポン、ピポン」


 背後で女の子がムキになって叫んでいる。振り向いた俺の目の前に中学生くらいの少女が立っていた。


 ロリコンの趣味は無いが中学生アイドルのような整った容姿に魅入られる。銀髪のショートヘア。華奢で小柄な体を覆う純白のワンピース。


 こんな状況で無ければ、普通に可愛い女子なんだけど・・・。


 彼女は俺の顔を下から見上げてニカッと笑う。その顔が何か忌々しい。


「魔王から引き継いだ魔石(クリスタル)の能力は、天使ベルが封印したのじゃ」


 下から見上げられているのだが話し方が偉そうで上から目線。明らかに喧嘩を売られている気がする。


 天使ってこんなんだっけ?イメージが違い過ぎる。もっと清楚でおしとやかな女性のはず。


「はいっ?何で封印すんのよ」


 思わず反撃に出てしまう。


「ケンタには使いこなせないじゃろ」


 タメ語の上に下の名前で呼び捨てかよ。


 少女は目をクリクリさせながら俺の瞳を覗き込んでくる。


 まあ、歳の離れた少女を正直少し可愛いと思ってしまう俺ってどうよ。ちょっとまずいかも。


 相手が子供みたいで大人げないが主張だけはさせてもらう。


「なっ、何でよ。これでも俺は『ネトゲ』の天才だぞ。『異世界物のラノベ』だって有名どころは全部押さえているぞ」


「変態!」


 いきなり罵声を浴びせられた。


 マジいけ好かないガキじゃんかよ。本当にこいつ天使なのか?


「あのー、お取込み中ですがマスターケンタ様」


 俺の視界にメイドコスプレ美少女がヒョコリと入り込んでくる。


 ぴくぴく動くネコ耳。本物なのか?


「魔王様が亡くなったです。魔王様の魔石(クリスタル)をマスターケンタ様が継いだ以上、私を引き取ってくださいなのです」


 さっきまで巨大ガマの前で泣き崩れていた少女が、一転、笑顔で告げたのだった。


 こんな展開『ネトゲ』でも『異世界物のラノベ』でも無かったよな。


「よろしくお願いなのです。マスターケンタ様」


 俺に向かってペコリと頭を下げるメイドコスプレ美少女。ぱっつん前髪の上のネコ耳までピョコンとお辞儀した。うーん、耳の動きがリアルだ。


「魔王の力を解放されてはかなわん。わらわも、ケンタにお供してやるぞよ」


 俺とメイドコスプレ美少女の間に割って入る天使ベル。頭の中で無機質なあの声が響いてきた。


『ピポン。ケンタのパーティーに使い魔ハルが加わりました』


『ピポン。ケンタのパーティーに天使ベルが加わりました』


 レベル1に逆戻りした俺は、半(なか)ば強制的に仲間を得たのだった。

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