歩きスマホでマンホールに落ちた俺は、異世界でスマホを作って世界制覇を狙います!
坂井ひいろ
001 いきなり魔王を倒して無敵になる。
「あっ!」
思わず叫ぶ。
スマホのゲーム画面に気をとられていた俺の足元。
「地面が無い!」
踏み出した右足が宙を泳ぎ、気がつけばフタの外れたマンホールの中に落っこちていた。
ビューン。
真っ暗闇の空間を垂直に落下する。風が頬を駆け抜けて行く。
あれっ?どこまで落っこちんのよ、俺っ!
マンホールの下を流れるドブ川にダイブするわけでもなく、悪臭を放つ川底のコンクリートに激突するわけでもなく、ひたすら落っこちる。
ビューン。
頭の中を過去のエピソードが走馬灯のように・・・。
と思ったが、めぐるだけの楽しい記憶は愚か、イベントっぽいイベントなんてこれっぽっちも無かった人生。
何、考えてんのよ俺。今はそれどころじゃないだろが!
もがいても、つかむものもなく無駄に時間が経過していく。
ビ、ビューン。
って、加速してねーかー。
どこまで落ちるのか知らんが、もう十数分は落っこちている。これだけ長い時間落下しているのだから高層ビルから飛び降りた以上の事になるんじゃねー。
大ケガどころか、グッシャ、グシャの肉塊!人間かどうかも判別できねんじゃねーの。俺は自分の未来の姿を思い浮かべてしまう。
きもい!
思えば残念過ぎる人生だった。が、しかし、ブラック企業の平社員では、この先に良いことがあるなんて想像できない。
俺らしい最後かもしれないなー。
人生をあきらめた瞬間、真っ暗な空洞を抜けたのか、一瞬、視界が明かりに包まれる。
ドッチーン。
俺はぐにゃりとした柔らかいモノの上に尻もちをついていた。
ケガ、一つしていない。
正に奇跡!
って、ここ何処よ!
「おっ、お前は誰なのです!」
大理石でできた床の上を黒髪の美少女が俺に向かって走ってくる。猫耳にフサフサの尻尾?黒で統一されたメイドさんコスプレ衣装。
どうやら俺は地下空洞に作られたお城のような建物の前の広場に落下したらしい。
明るく感じたが、暗闇から突然抜けただけで、そうでもないらしい。
石壁に取り付けられた無数の松明があたりを照らしている。俺はメイド服の少女に挨拶した。
「はあ。えっと、八島健太(ヤジマ ケンタ)です。初めまして・・・」
前髪をパッツンに切り揃えた美少女は俺の前に立ち、俺の尻の下を指し示していきなり泣き出した。
「ぐえーん。まっ、魔王ダーマ様が死んでしまったです」
「えっ、うわっ、なに?人間!・・・。ちゃうよね。なんじゃこれー。ばっ、化け物!!」
俺の尻の下にカエルと人間を合わせたような姿の巨大な生物が潰れていた。耳元まで裂けた口からピンク色の舌が、だらしなくベロリと伸びている。
俺は慌ててそこから飛び退いた。
降りた先には、四人の人間が倒れていた。先頭の青年は、中世の騎士のような金属製の甲冑をまとい、手には銀色に輝く剣を握っている。
その後ろに中華ドレスのような格好をした若い女性・・・。手にはナックルのような武器が・・・。
背後には純白のローブをまとった白髭の爺さんと黒のローブを身に着けた子供?それぞれ杖のようなものを握って倒れている。
後ろの三人は重症らしく呼吸はしているがピクリとも動かない。先頭の青年は辛うじて意識があるらしく呻き声を漏らしているが立ち上がる体力も尽きたらしい。
「だっ、大丈夫ですか」
俺は彼らの所に駆け寄って、先頭の甲冑の青年を抱き起した。
「たっ、助かった。キミは神の使いか。魔王を倒してくれてありがとう・・・」
青年は細くなっていく呼吸を何とか堪え、俺にお礼を告げてから他の三人同様に気を失った。
見覚えがある光景、異世界物のラノベのテンプレのような展開。
何だよこれ!マジ、これ、現実なんだけど。
「まっ、魔王様が消えていくです」
俺が先ほどの少女の声で振り向くと、巨大ガマ人間が紫の光に包まれ、溶けるように消えていく。後には紫色の巨大な宝石が残った。
いわゆるドロップアイテムってやつか?あれ。
ジュバッ!
「うっ」
目にも止まらぬ速さで、その宝石が宙を飛び、俺の心臓に向かって突き刺さったように思えた。俺は前かがみになって胸を押さえる。
「あれっ、何ともなっていない」
ゲームのナレーションのような機械的な女性の声が、頭の中に直接響いてくる。
『ピポン。ケンタが魔王を倒しました』
『ピポン。ケンタはレベル99になりました』
『ピポン。ケンタは体力が99になりました』
俺の体がムキムキの筋肉で覆われていく。ジーンズもシャツも破れそうな勢いでパンパンになってキツイ。
『ピポン。ケンタは知力が99になりました』
頭の中が急に拡大して、この世のあらゆる理(ことわり)が、一瞬、垣間見えたような・・・。今なら難解な数学の問題もスラスラと解けてしまうかも。
『ピポン。ケンタは魔力が99になりました』
うわっ。体の中に宇宙のエネルギーが満ちてくるような感覚。俺の体の周りを紫に輝くオーラが覆い始める。すげえ!何だってできそうな気がしてきた。
『ピポン、・・・。ピポン、・・・』
次々と俺の頭の中に現れたレベルゲージがカンストしていく。まじ、俺、最強になっちまうのか?この俺が・・・。
どうやら俺は、勇者のパーティと死闘を繰り広げる魔王の真上に落っこちたらしい。勇者のパーティは力を使い果たし、勝ち残るはずだった魔王の息の根を止めちまった。って、とこだろうか。
これが最近流行の異世界で無双するってストーリーか?何か良くわからんが、得したような気がする。
こうして俺は、異世界でいきなり魔王を倒して無敵となった。
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