特別SS:スペシャルPV第二弾公開告知

 雲一つない青空。燦々と輝く太陽は絶好調で今日も全国各地で真夏日を記録している。一日くらいサボってくれてもいいのに真面目さんめ。縁側に腰かけてぼんやりとそんなことを心の中で愚痴っていると、突然背中にひんやりする何かを押し当てられた。


「フフッ。びくぅってして反応しちゃって……可愛いですね、勇也君。はい、キンキンに冷えたラムネです」

「もう……びっくりするから勘弁してくれ、楓さん。ラムネを飲むのは久しぶりだな。しかも瓶なんてお祭りでしか飲んだ記憶がないよ」


 私もです、と言って楓さんは微笑み、俺にラムネ瓶を差し出しながらそのまま隣に腰かけた。

 今俺達が居るのは楓さんの祖父母の家。きっかけは連日のうだるような暑さに耐えかねた楓さんのお母さんの桜子さんから連絡。


『ねぇ、楓。もうすぐお盆だけど暇かしら? もし特別予定がなければみんなでおじいちゃんとおばあちゃんの家に行かない? もちろん勇也君も一緒に』


 俺としては家族水入らずの時間の邪魔をしたくないので留守番していると言ったのだが、楓さんが涙目で頬をフグのように膨らませるので首を縦に振らざるを得なかった。加えて楓さんのお父さんである一宏さんからも


『勇也君は我が家の一員なんだから遠慮することはないよ』


 優しく諭すように言われてしまった。温泉での一件以来、一宏さんは俺のことを認めてくれているようで、桜子さんから聞いた話によると〝早く一緒にお酒が飲みたい〟というのが家での口癖なんだとか。


「そうなるくらい、勇也君の言葉がお父さんの胸に刺さったということですね。私も思い出したら嬉しくて顔が真っ赤になっちゃいます。えへへ」

「あぁ……うん。俺も恥ずかしくなるからやめようか」


 ホント、初対面にもかかわらず我ながら大胆なことを言ったものだ。思い出して火照った身体にラムネを流し込んで無理やり冷ます。甘くて爽やかな清水と適度な炭酸が熱で乾いた身体に染み渡る。カランとビー玉が転がり綺麗な音が静かな縁側に響き渡り、風情を感じる。


「ところで勇也君。そろそろ今回のお題に入ってもいいですか?」

「え、突然何? ここは〝子供の頃、ラムネ瓶のビー玉を取り出そうとしましたよね?〟とか日常的な会話をするんじゃないの? お題って何?」


 正直楓さんが何を言い出すのかわからなくて怖い。楓さんが空気をガン無視して話題転換をするときは良からぬことを考えている時と相場が決まっている。あれ、そう言えば似たようなことが四ヶ月ほど前にあったような───?


「フッフッフッ。思い当たる節がありますね? そうです。実は今日、とても大事な発表があるんです。それはですね───私たちのイチャイチャボイスがついに公開されことになりました!」

「な、ん……だと?」


 俺は戦慄し、心の奥底から沸き起こる震えに寒気を覚えた。楓さんとのイチャイチャボイスが公開されるだと? 確かにその存在は四ヶ月前に明示されていたが、それ以降音沙汰がなく、てっきりお蔵入りになったとばかり思っていたのにどうして今頃になって。


「フッフッフッ。私と勇也君との思い出のやり取りを〝名前を呼んではいけない例のあの人〟がお蔵入りにするはずないじゃないですか」


 どこの魔法の世界のラスボスだよ。お辞儀をすればいいのか? そんなアホなことを考えている俺をよそに、楓さんは感慨深げな表情で話を続けた。


「この数か月。〝例のあの人〟はことあるごとに言っていたそうです。収録していたイチャイチャボイスを聴かせてほしいと。そしてついに手に入れて、それを耳にした時……ただ一言だけ言ったそうです。〝ヤバイ〟と」

「ホント……色々大丈夫なのか、あの人?」


 だけどそうなる気持ちもわからないでもない。楓さんの甘く蕩けるような囁き声は否が応でも心臓の鼓動は速まるし、耳が幸せになる。なんなら最近流行っている睡眠導入ASMRを作りたいくらいだ。


「もう、勇也君たら。そこまで言うなら毎晩勇也君が眠りにつくまで耳元でずっと囁いてあげますよ? 安心してください。必要な技術は履修済みですから!」

「どこをどう安心しろって言うのかな!? 安眠どころかドキドキが止まらなくて寝不足になりそうなんだけど!?」


 楓さんに生で耳かきされながら囁かれたりしようものなら眠気は一瞬で吹っ飛ぶし、きっと途中で楓さんが寝落ちする。そうなるとすぅすぅ可愛い寝息を聞かされることになって悪循環が止まらない。幸せだけど辛いという矛盾を一晩味わうことになる。


「まぁその話は追々また今度にするということで。イチャイチャボイスに話を戻しましょう」


 俺達が好き勝手に話しているだけだからな。実現する予定は今のところZEROだからまたこの話はまた今度にしよう。これ以上突っ込んだら今晩楓さんが本当に耳元で囁いて眠れなくなりそうだし。


「今回も私こと一葉楓を東山奈央さんに、吉住勇也を榎木淳弥さんに引き続き担当していただきました! 気になる内容ですが、私と勇也君の出会いのシーンから始まってキュンキュンすること間違いなしの3分間となっておりますので、ぜひ聴いてくださいね!」

「ちなみに公開はいつを予定しているの?」

「それはですね……8月18日の20時です! つまり今日ですね!」

「つまりも何ももう公開済みじゃないか!?」※SS投稿時間20時10分

「完全なるサプライズというやつです!」


 どや顔でえっへんと胸を反らす楓さん。その瞬間、たわわな果実がぶるんと揺れるので俺は思わず目を逸らした。楓さんの服は薄手のノースリーブワンピースだからいつも以上に大きさが強調されているから破壊力が増している。


「あれれぇ? どうしたんですか、勇也君? 顔が赤いですよぉ?」

 

 小学生探偵みたいなわざとらしい演技はしなくていいから。俺の顔が赤くなっている理由はわかっているでしょうに。


「フフッ。もう、本当に勇也君は可愛いというか初心というか。そういうところも私は好きですよ」

「っくぅ……からかわないでよ、楓さん」

「8月20日には最新三巻が発売されるので、こちらもよろしくお願いします! 私だけでなく秋穂ちゃん、二階堂さん、さらに結ちゃんの水着姿がある、夏にぴったりのお話です!」

「「今後とも【両親の借金を肩代わりしてもらう条件は日本一可愛い女子高生と一緒に暮らすことでした。】をよろしくお願いします!」」



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ここまでお読みいただきありがとうございます。

リンクなどは近況ノートに貼りますのでそちらをご確認ください。

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