第150話:勇也君の好きな色

 楓さんを背中から包み込むように抱きしめながら、ゆっくりと裾をたくし上げていく。肩越しにキュッと引き締まったお腹が見える。普段の努力のたまものだ。


「楓さん……すごく綺麗だよ……」


 耳元で吐息を吹きかけながら囁いた。普通に脱がしていくだけではただひたすらに俺のSAN値が削られていく。なら少しくらいは楓お嬢様に意地悪をしてもいいよね? 答えは聞いてない!


「んぅ……くすぐったいですよ、勇也君……」

「知ってる。楓さん、耳弱いもんね」


 はむっと耳たぶを甘噛みすると可愛い声を上げて身をくねらせる。その様子が俺の中に眠る嗜虐心を掻き立ててしょうがないが、飲まれてはいけない。


 洋服が魅惑の双丘の手前までめくれ上がる。楓さんの頬が紅潮しているのは弱点を責められたせいか、それとも脱がされていることに今更羞恥心を覚えたからか。答えは定かではないが、俺は一気に胸元まで服を引き上げた。


「へぇ……今日の下着は赤色なんだ。もしかして球技大会だから気合を入れるため?」

「そ、そうです。今日は大事な日なので赤にしました……ひゃうっ! もう、勇也君! 意地悪しないでください!」


 ビクンと肩を震わせて、抗議の声を上げる楓さん。突然首筋をペロリと舐めたら驚くと思ったがまさかここまで初心な反応を見せてくれるとは。


「そ、それに。勇也君はこの赤い下着が好きですよね?」


 今日楓さんが身に着けているのは情熱的なレッドとシャンパンゴールドのプリント柄の花びらがとても艶美な下着。確かに俺はこの下着がその、はい……好きですがどうしてわかったんですかね?


「わかりますよ。だってこの下着の時の勇也君は……いつもより狼さんになっているんだもん」


 穴があったら入りたい。顔から火が出る。楓さんに意地悪しているつもりがすべて手の平で踊らされていたのか!? たった一撃で俺の精神はグロッキー状態へと追い込まれた。何か反撃しないと!


「男の子はたくし上げが好きだとお母さんが言っていましたがどうですか? そそりますか? 食べたくなっちゃいましたか?」


 桜子さん!? いつもいつもあなたは娘に何を吹き込んでいらっしゃるんですかねぇ!? いや、確かにたくし上げは名状しがたい色気と可愛さがありますけどね! 無防備であり、あざとくもあり、けどそれは心を許した相手にのみ行う特別な仕草。って俺は何を言っているんだ!?


「あれれぇ? どうしたんですか? お顔が真っ赤ですよ? 照れているんですか? こっちを見てくださいよぉ」


 くるりと回って正面を向いてからかいながら微笑む楓さん。悔しいが彼女の言う通り、たくし上げられたことで露わになっている下着と、それに包まれている雪のように艶のある上乳が情欲を刺激して直視が出来ない。


「もう、ダメな執事さんですね。まだ脱がし終わっていませんよ?」

「……わかりました」


 フフッと妖しく笑う楓さん。この状況をどこまでも楽しんでいるだけでなく、俺の反応を見て喜んでもいる。必死に抵抗してもすぐに返される。今日の楓さんは手ごわい。


「次はどっちにしますか? このまま下着にしますか? それとも下を脱がしてくれますか? さぁ、勇也君。選んでください」


 上半身は下着のみという扇情的な姿だが余裕の表情で選択を迫ってくる楓さん。セオリーで行けばショートパンツを脱がしてからブラジャーに手をかけるところだが、ここは敢えて勝負に出よう。


 楓さんの肩に手をかけてくるりと半回転させる。左腕は腰に回して抱きしめて、右手はブラジャーのフックにかけて一瞬で留め具を外してはぎ取り、そのまま洗濯カゴへ。そして改めて両手でギュッと抱きしめる。


「へ? 一瞬で? いつの間にこんな技を? 勇也君はマジシャンですか?」


 なんて驚いているが、俺が片手で外せるようになったのは他でもない、楓さんのせいですからね! 


「ホント……すごく綺麗だね、楓さん。ん……いい匂い」

「ちょ、勇也君!? ダメです! 今日はたくさん運動したから汗をかいているので……ひゃん! 首筋をペロペロしないでください……くすぐったいですよぉ…」

「でも、嫌じゃないでしょう? 身体くねくねさせて可愛い」

 

 耳元で囁きながら、ショートパンツに手をかける。今楓さんの意識は首筋を舐められていることに向いている。この隙にこの戦い(?)に終止符を打つ!


「耳はダメですぅ……甘噛みもダメ―――ってあれ?」

「はい! 脱がし終わりましたよお嬢様! いつまでも裸でいたら風邪をひくので浴室へ入ってくださいな!」


 背中越しに腕を伸ばして風呂場のドアを開けて、優しくポンと背中を押した。何が起きているのか理解される前に扉を閉めた。ふぅ。


「ちょっと勇也君!? やり切った感を出していないでください! というか私の計画と違うんですけど!?」

「……一応聞くけど、どんな計画だったのかな?」

「それはですねぇ……勇也君に服を脱がしてもらったら、今度は私が勇也君の服を脱がしてあげるんです! 背中から抱きしめてゆっくりじっくりと……恥ずかしがる勇也君をいじめながら一枚ずつ……ぐへへ」


 案の定ろくでもない計画だった。もしそれが実行されていたらと考えると恐ろしくて震えるな。


「それでそれで! 顔を真っ赤にしてもじもじしている勇也君の耳元で囁くんです。どうしたんですか? 手をどけてくださいって。それで―――」

「それ以上は言わせねぇよ!?」


 まったく何を言い出すんですかねこのお嬢様は! 楓さんの服を脱がしている時、腰やお腹周りのしっとりとしながらも滑らかな柔肌に触れているだけでも大変だった。その上可愛い嬌声を聞いて暴走しかけた。その立場が逆転したらどうなるか? その答えは言うまでもないだろう。


「だっていつも勇也君が脱がしてばっかりでずるいんだもん! 私だって勇也君のお洋服を脱ぎ脱ぎしたいです! というかさせてください!」

「それはいつも楓さんが……うん、これ以上はやめておこう。色々まずい。そんなことより、俺もすぐに行くから待っててね。背中、流してあげるから」

「はい! 背中流しっこしましょうね! 早く来てください!」


 楓さんに急かされて、俺は急いで服を脱ぐ。この後一緒にお風呂に入ったのだが、背中を流すという話だったのだが楓お嬢様の要求は変更されて背中だけでなく前も洗うようにと命令されて大変だった。


 



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