第151話:ただアイスを食べるだけ

 時間は戻り、今は俺が楓さんに膝枕をしてもらって耳かきをしてもらっている。初めての膝枕だがこれがまた心地いい。お風呂上りということもあってほんのり温かい上に、今日使った入浴剤の効果かいつも以上に肌がスベスベしていてしっとりしている。控えめに言って最高だ。


「はい、終わりましたよ。勇也君てばすごく気持ちよさそうでしたね。そんなに良かったですか?」

「んぅ……すごく気持ちいい……このまま寝たいくらいだよ」


 楓さんの膝枕はどんな枕にも勝る最高品だ。柔らかさと適度な弾力。そこに愛情のこもった珠玉のナデナデが合わさればこのまま夢の中に旅立ちたいと思っても仕方のないことだ。


「もう。お昼寝の時ならいいですが寝るときはダメです。諦めてください」

「えぇ……そんな殺生な……」

「だって……寝るときは勇也君にギュッてしてほしいんだもん」

「はい、わかりました膝枕で寝るのは昼寝の時だけで我慢します」


 楓さんが唇を尖らせてだもんと言われたら何も言えなくなる。可愛いから是非もないよね!


「そうだ! 歯磨きをする前に約束のアイスを食べましょう! 宮本さんにお願いしておいたものが冷凍庫に入っているはずですから」


 あぁ、そう言えば帰ったらアイスの食べさせ合いをしましょうって言っていたな。買わずに帰宅したから忘れているものだと思ったのだが、まさか宮本さんに用意してもらっていたとは。


「さぁ、リビングに行きますよ! 起きてください!」


 気持ち的にはこのまま布団に入って眠ってしまいたいところだが、楓さんが起きている以上、まだ執事と主プレイは終わらないのでしぶしぶ身体を起こして、鼻歌交じりでリビングへと向かう楓さんの後に続く。



 *****



 ソファに座って時計を確かめると時刻は23時過ぎ。この時間からアイスを食べるのは背徳感を覚えるが、たまにはこういう日もあっていいだろう。それに楽しそうにしている楓さんを見ているだけで心が満たされる。


「えへへ。さすが宮本さん。しっかり買って来てくれました。さぁ、勇也君! 一緒に食べましょう!」

「どんなアイスを買ってきたのかな―――って、バニラバーとハーゲ●ダッツ? 組み合わせおかしくない?」


 冷凍庫から取り出したのは昔ながらのバニラの棒アイスとカップアイスの最高峰(味はストロベリー)。どっちか一つで良くないか?


「こっちのストロベリーは勇也君の分です。私はこのバニラの方を食べますから」

「いや、それは申し訳ないよ。食べさせ合いならストロベリーの方を一緒に食べようよ。それじゃダメなの?」

「えぇ、ダメです。だってこれは食べさせ合い。勇也君にこのバニラバーを食べさせてもらうんですから!」

「……なん……だ、と?」


 某死神代行さんの名台詞が思わず口から出てしまったが無理もない。棒アイスを食べせる? この人は一体何を言っているんだ? 言葉の意味を理解しようと脳みそをフル回転させている俺を尻目に、楓さんは喜々としながらバニラバーの袋を開けて俺に手渡してきた。本気でやるのか!?


「ちょっと高いストロベリーなアイスを食べたければまずは私にバニラアイスを食べさせるのです! さぁ、早く!」

「んっ……わかったよ。それじゃ……あ―――ん」

「あ―――んっ……っちゅ……」


 恐る恐る、小さく開いた楓さんの顔の前へと持っていくと、まるで小鳥がついばむようにアイスに唇を付けた。


 初めは舌先をチロリとだけ出して探るように舐めていき、少しすると徐々にアイスの先端を包み込むように舌を旋回させていく。アイスを食べるにしては随分と気合が入っていませんか?


 普段の楓さんから想像もできないくらい艶めかしい表情を目の前にして、心臓の鼓動がどんどん速くなり、体温が上昇していく。


「んぅ……甘くて美味しいです……んぅ……っちゅ」


 ゆっくりとバニラアイスの口で咥える楓さん。吐息を漏らしながら舌を動かしているのが手に伝わる振動でわかる。時に優しく、時に激しく口の中で舌を動かす。そしてフェーズは〝舐める〟から〝食べる〟へと以降して、頭を前後に動かし始めた。


 アイスを舐めるその姿を見ているだけで頭がクラクラしてくる。楓さんの頬はいつの間にか紅潮しており、漏れる吐息に熱と甘さが混じっている。


「勇也君……すごく……んぅ……美味しい……っちゅ。全部食べちゃいたいです」


 いいですよね? と上目遣いで尋ねられて、俺はコクリと頷いた。その答えに満足したのか、楓さんはいつものようにフフッと笑ってからラストスパートに突入する。


「勇也君……大好きです……っちゅ……はぁむっ……美味しい……勇也君のアイス美味しい……」


 はいアウト! 初めからアウトだっただろうとか言われるかもしれないけどさすがにこれはやりすぎですよ楓さん! 色々我慢の限界に達した俺は暴走列車楓号の頭に手刀を落として緊急停止させてからアイスを没収した。透明な糸が伸びるのが何とも艶めかしい。その上、


「もう……勇也君がいきなり離すから口から零れちゃったじゃないですか」


 不満そうに言う楓さんの口からポタッ、ポタッ、白い液体が床に垂れ落ちた。あれはアイス! まごうことなきバニラアイスで楓さんの熱で溶けただけだ! いかがわしいところはどこにもない! 甘くて美味しいベリーバニラアイスだ!


「楓さん、普通に食べることはできなかったんですかね!? なんですか今のは!?」

「もう、勇也君は鈍感さんですね。なんですかって決まっているじゃないですか。勇也君へのご奉―――」

「はい、スト――――――ップ! それ以上は言わせねぇよ!?」


 大方そんなことだろうとは思ったけど案の定の回答にびっくり仰天ですよ! けれど楓さんはペロリと舌なめずりをして妖しく笑うと、顔を近づけて耳元で囁いた。


「まだ冷凍庫にたくさんあるので……また食べさせてくださいね?」

「……き、機会があればね」


 震える声で俺は答えを絞り出したが心臓に悪い! 本当に心臓に悪い! デンジャラスビーストな楓さんには多分この先ずっと勝てないと思う。


「フフッ。勇也君からのお誘い、楽しみにしていますね。さて。今度は私が食べさせてあげる番ですね」


 そう言って楓さんはストロベリーのアイスとスプーンを手にして身を寄せてきた。


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