ハロウィンSS:Afternoon Party

 10月31日。この日が何の日かご存じだろうか? そう、お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞって言う日、通称ハロウィンだ。


 まぁそんな冗談はさておいて。近年ではド力と言えばみんなで仮装して騒ぐお祭りとして認知されている。俺も去年までは家のテレビでその様子を眺めてみた。


「ぷっ……ぷぷっ……予想以上に似合っているね、ヨッシー……」

「わ、笑ったらダメだよ、秋穂。で、でも……ぷぷっ……勇也、すごく……ぷぷっ……可愛いよ」


 例によって例のごとく、大槻さんの発案によってハロウィンパーティをしようってことになって仮装をすることになった。まぁそこまでいい。俺だって一度くらいは仮装を体験してみたいと思っていたからな。


「よ、吉住は何だかんだ言って顔は良いから映えると思ったけどこれは想像以上かも……普通に可愛い。というか私よりかわいくないか?」

「まさか勇也君と女装の相性がここまで合うとは……なんて恐ろしい……知らずに街ですれ違ったら女の子と間違えますね」


 大槻さんと伸二は口元を押さえて必死に笑いを堪え、二階堂と楓さんは驚きのあまり言葉を失っている。どうしてこうなった。


 ハロウィンの仮装衣装はくじ引きで決めることになった。そして俺はそのくじに負けて、女装することになった。その結果、俺は今、化粧をして―――楓さんにしてもらった――-金髪ロングのカツラにドレスを身に纏っている。誰だよ、これを用意したのは!?


「こんな可愛いヨッシーを私達だけで独占するのはもったいないよ! 写真撮ってアップしようよ!」


 そういう大槻さんの格好は魔女だ。つば広の黒のとんがり帽子に裾の長い外套を羽織っており、手にはほうきを握っている。衣装サイズが合っていないのか、それともこれを選んだ人の趣味なのか、服の丈があっておらずおへそが見えており、二つの果実と相まってエロ可愛い感じになっている。


 そんな合法ロリっ子魔女の彼氏の伸二の格好は顔に包帯をぐるぐると巻いたミイラ男。この中では無難な部類の仮装だ。羨ましいな、チクショウ。


「秋穂、それはさすがにマズイよ。せめて週明けみんなに見せるくらいにしておかないと」


 大槻さんの提案を即却下したのはさすが親友と言いたいところだがその後が頂けないなぁ! クラスメイトに見せようとするな! そもそも写真に収めようとしないでくれ!


「ねぇ、吉住。せっかくのハロウィンなんだ、記念に写真くらいいいじゃないか。一人で撮られるのが嫌なら私と一緒っていうのはどうかな?」


 それはどういう意味だ、と俺が尋ねるより早く、二階堂はフフッと不敵に笑みを浮かべて俺の隣に立つといきなり腰に腕を回してきた。


 ちなみに二階堂の格好は吸血鬼だ。しかも王子様という設定ということで男装をしている。役になりきるためか、瞳をカラコンで赤くして、純白のシャツにワインレッドのベスト。黒のパンツに羽織るマントを翻すその姿は普段以上にカッコイイ。しかし、シャツのボタンは胸元手前まで外されているので肌が露出しており、いつになく色気があって目のやり場に困る。


「に、二階堂!? 何をして―――!?」


 シトラスの香りが鼻孔をつく。健康的な肌とちらちらと綺麗な翡翠色の下着が視界に入る。俺は全力で視線を逸らす。


「静かに、お姫様。私は吸血鬼。これからあなたの血をもらいます。大丈夫、痛くしないから」


 俺は心の中で悲鳴を上げた。いつの間にか抱き寄せられていて、二階堂の顔がすぐ目の前にあった。吸血鬼の王子様の仮装をしていることもあってか王子様度合いに拍車がかかっている。


「フフッ。いい子だね。それにしても綺麗な首筋だね。すごく……美味しそうだ」


 待て待て待て! どうしたんだ二階堂!? テンションがおかしくないか!? 声に艶が出ているぞ! 舌なめずりしないで! ヤバイ、抵抗しないとマジで食べられる! 


「あぁ! どこに行くのかな? ダメだよ、逃げようとしちゃ。キミは今から私の……私だけの姫になるんだ。誰にも渡さない」


 身体を捩り、二階堂の魔の手から逃れようと抵抗を試みるが逆に俺の腰を抱く力が強くなり、耳元で囁かれる声音に俺から反抗心を奪う魔力が宿る。


「に、二階堂…………?」

「安心して。痛いのは一瞬だから。それじゃ……いただきま―――」


 白く美しい歯が首筋に迫る。噛まれる。そう思った瞬間、俺を救ってくれたのは、


「スト――――――ップ! それ以上はダメです! 勇也君から離れてください、二階堂さん!」


 狼娘の姿をした楓さんだった。腕を掴まれ強引に引き寄せられたことで吸血鬼の王子様の魔の手から脱することが出来た。


「あ、ありがとう、楓さん。おかげで助かったよ……」


 俺の腕を胸の中でぎゅっと抱きしめる楓さん。人肌の温もりと柔らかさと弾力性を兼ね備えた至福の感触に表情が蕩けそうになる。


 楓さんの仮装は狼娘。大胆に肌を露出するオフショルダーのトップスにショートパンツの組み合わせにケモミミと尻尾のおまけ付き。


 可愛い楓さんに色気が限界ギリギリまで追加されているので二階堂以上に目のやり場に困る。さらにこの腕にダイレクトに伝わる柔らかい感触。あ、この人付けてないな。何をとは言うまい。


「ごめん、ごめん。吉住があまりにも初心な反応をするからついからかっちゃったよ。だからそんな威嚇しないで?」


 アハハと笑いながら弁明する二階堂に対して、楓さんは頬を膨らませながらも警戒心むき出しだ。


「二階堂……頼むからあぁいうことは心臓に悪いから止めてくれ。というか仮装なのに本気を出し過ぎだぞ……」

「吉住が悪いんだぞ? そんな可愛いお姫様の格好をしているだけならまだしも、反応まで可愛いとか反則だよ。私が食べなくても狼さんに食べられちゃうんじゃないのか?」


 ハッハッハッ。そんな馬鹿な。楓さんに限ってそんなことをするわけないだろう。どう見ても可愛い狼じゃないか。


「勇也君、トリックオアトリートです。お菓子をくれなきゃ……食べちゃうぞ? がおー」


 両手の指を曲げて前に突き出してくる楓さんは控えめに言って可愛い。まるで子猫が精いっぱいの虚勢を張っているかのようだ。


「うぅ……勇也君の目が生暖かいです。いいですか、勇也君。私は今狼さんなんです! そして勇也君はお姫様。言う通りにしないと頭から丸かじりですよ!」

「何この狼娘。めっちゃくちゃ可愛いんだけど……ねぇ、吉住。私が持ち帰ったらダメかな? 一晩でいいからさ! お願い。私に一葉さんを愛でさせてくれ!」

「何を言っているんだ、二階堂。ダメに決まっているだろう。楓さんを愛でていいのは俺だけだ」

「ふふふ二人とも何を言っているんですか!?」


 わかる、わかるぞ二階堂。楓さんを愛でたいという気持ちはすごくわかる。一晩中頭をナデナデして甘やかしたくなるよな。俺もそうだ。膝枕にしてずっと撫でていたい。


「勇也君!? もう、どうしてこのタイミングでそういうことを言うんですか!? 嬉しいですけど今は自重してください!」


 楓さんが顔を真っ赤にして叫んで俺の胸をドンドンと叩く。いいじゃないか、いつもはむしろ撫でてください! と自分から抱き着いてくるのに。


「ねぇ、シン君。ハロウィンってなんの日かな?」

「秋穂。ハロウィンは元々収穫祭で仮装をするようなイベントじゃなかったんだよ。ましてや友達の目の前でイチャイチャするようなイベントでもなかったよ」

「日暮れの言う通りだね。この二人は隙あらばストロベリーな空間を作るからホント……むかつく」


 いつの間にか二階堂は伸二達の隣に移動してジト目を向けていた。最後の〝むかつく〟には殺気を感じたが気のせいだと思いたい。


「あんなメオトップルは放っておいてケーキ食べようよ! この衣装を持って来てくれた執事? のおじさんが買って来てくれたのが冷蔵庫に入っているんだよ!」

「吉住がイチャイチャしている間に全部食べてやる。やけ食いだ」

「に、二階堂さん? せめて僕らの分は残しておいてくれると嬉しいなぁ」


 俺達の分も残しておいてくれよな!? 楓さんもそろそろ落ち着いてください。いつまで俺の胸で太鼓の達人をするつもりですか?


「……勇也君が私のことをギュッと抱きしめてくれるまでです……」

「いや……それはさすがに恥ずかしいというか、みんなもいるし……夜なら……」

「約束ですよ? みんなが帰った後、私がいいって言うまでギュッとしてくださいね?」

「わ、わかった。楓さんがいいって言うまで抱きしめるし、ナデナデもするから。だから今は……ね?」

「フフッ、言質は取りました。夜が楽しみです。あ、そうそう。この衣装なんですけど、夜になったら特別仕様に変わるので楽しみにしていてくださいね?」


 え? それってどういう意味ですか? 

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