第120話:新入生歓迎試合
放課後となり、俺と伸二はユニフォームに着替えてグラウンドに立っていた。そして俺達の前には体操着姿の新入生男子がずらりと並んでいた。その数ざっと三十名弱。いくら体験入部とは言え集まりすぎじゃね?
「アハハ。僕らの時とは大違いだね。でも無理もないと思うよ? 後ろを見てみなよ」
ほら、と伸二に促されてグラウンド場外に目を向けてみると異彩を放つ美少女が二人。そのうちの一人であるスラリとした女神様は俺と目が合うと満開の笑顔でぶんぶんと大きく手を振った。
「勇也くーーーん!! 頑張ってぇーーー!!」
なんでグラウンドに降りてきているんですか、楓さん。声援は嬉しいけどおかげで新入生男子君たちだけじゃなくてサッカー部員全員の視線が釘付けだよ! 今までは教室から観ていたはずなのにどうして。
「それはあれだよ、ある種のアピールじゃない? 私にはもう心に決めた人がいますからって感じ? 見せつけてくれるね、勇也」
「ハッハッハッ。それを言うならお前もだろうが。楓さんの隣を見てみろよ?」
「シンくーーーん!! ファイトだよぉ!!!」
楓さんの隣に立っていたのは大槻さんだ。小さい身体で一生懸命に飛び跳ねて伸二を応援する姿は幼さの残る容姿と相まって健気で可愛らしい。だが反面、楓さんを凌ぐほどのたわわな果実が激しく揺れているのは猛毒だ。二階堂が見たら泣くぞ。
「あれれ。どうして秋穂まで? 今までそんなことなかったのに……」
「理由は楓さんと同じだと思うぞ? シン君は誰にも渡さないよぉ! っていう大槻さんなりのアピールだろ。愛されてるね、シン君」
いつも伸二には煽られているからな。滅多に来ない反撃のチャンスが来たら逃さず攻めるに限る。案の定、恋人からの生の応援に慣れていない伸二は珍しく顔を赤くして照れている。
「勇也の気持ちがなんかわかった気がするよ。応援されるのは嬉しいけど想像以上に恥ずかしいね」
伸二は頬をポリポリと掻きながら言った。ようやく俺の気持ちがわかってくれたみたいで嬉しいぞ。俺は改めて伸二との間に芽生えた友情を祝うために拳を突き出すと、親友はコツンとぶつけてきた。
「おい、そこのモテ男達! 彼女が応援してくれているからってデレるのはいいけどこれから毎年恒例の紅白戦だぞ! 恥ずかしいプレイを見せるなよ!」
叫んだのは今年からキャプテンに就任した三年生の
「我が部のエースの力を新入生には見てもらわないといけないし、可愛い彼女持ちに対するガス抜きもしないといけないからだよ! あぁ俺だって彼女が欲しいなチクショウ!」
地団駄を踏む杉谷先輩はキャプテンでありながらムードメーカーでもある。どんなに試合が劣勢でも明るく前向きで仲間を鼓舞する。ある意味で扇の要だな。時々暴走するのが玉に瑕だけど。
「さてと、勇也。試合に出ることになった以上無様なところは見せられないね」
「そうだな。楓さんの前だ。カッコいいところを見せないとな。でもそれはお前も同じだろう?」
「フフッ。もちろんだよ。新入生には悪いけど全力で行こうね」
おう、と答えて再び拳を交わしてから俺は気合を入れるために前髪をかき上げる。伸二も口にしたが楓さんが見ているなら新入生との紅白戦でも加減はなしだ。
「きゃぁあああああ!!?? 見ましたか、秋穂ちゃん! あれが勇也君の髪上げです! やる気スイッチを入れる合図です! もうホントカッコいいですっ!!」
「た、確かに髪をこう……グイっとかき上げる仕草はカッコいいかも。シン君もやらないかなぁ……」
ほら、彼女からリクエストだぞシン君。髪をかき上げたらどうだ?
「う、うるさいよ! 勇也のすぐ後に出来るわけないだろう!? タイミングってものがあるんだよ!」
「はいはい、わかったよ」
そして俺達はグラウンドの中央に並んで立つ。向かい合う新入生達の瞳には燃えるような闘志が漲っていた。別の言い方にすれば殺気という。
「勇也くーーーん!! 頑張れぇーーー!!」
楓さんの声援と同時に試合開始の笛が鳴った。
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