第114話:キスマーク隠蔽作戦

 翌朝。宣言通り、就寝前に小一時間ほど楓さんの愛玩動物にされたが無事に寝ることはできた。幸せな時間だったが暴走した楓さんは俺の首元に吸い付いてキスマークを付けたのだ。


「ごめんなさい、勇也君。つい楽しくて調子に乗ってしまいました」


 しゅんと落ち込む楓さん。もし子犬だったら尻尾がだらんと下がっているだろうがそこまで気にするようなことではない。


「ハハハ。まぁ大丈夫だよ。シャツのボタンをちゃんと締めれば見えないからさ。まぁこれが夏だったら大変なことになっていたけど……」


 制服に着替えて家を出る前に最後に鏡で確認してみたが第一ボタンをきっちり締めれば多分大丈夫だ。キスマークの位置も首の根元なのが幸いしたな。ただ、普段第一ボタンを閉めず、ネクタイも緩く締めているから突然きっちりしていったら不自然に思われるかもしれない。


「うぅ……その時は潔く自首します。勇也君に耳をはむはむされた仕返しをしていたらつい暴走してしまってキスマークをつけてしまったんですって。だから勇也君は悪く言わないでくださいって情状酌量を求めますから」

「うん、楓さんが何も言わないほうが俺は勝訴を勝ち取れる気がするな!」


 むしろ楓さんが証人として話せば話すほど俺は敗訴、もれなくクラスの男子生徒から殺意たっぷりの視線を浴びせられることになるだろう。俺の心の平穏のため、お願いだから余計なことは言わないでね?


「まぁ……楓さんにキスマークを付けられるのは嫌じゃないというか、むしろ嬉しいというか? なんなら俺も楓さんにキスマークを付けたいくらいだよ」


 愛をこめて楓さんの首筋にマーキングをして『この人は誰にも渡さない』という俺の思いを周囲の人達に知らしめたい。なんてことを考えてしまうくらいに俺は独占欲が強いみたいだ。


「ただ、それをするなら週末じゃないとね。さすがに翌日学校なのに堂々とキスマークを付けていくのは色々とまずいだろう?」

「はい。今回の一件で痛感しました。キスマークを付けるなら首筋ではなく鎖骨のほうが良いと。そうすれば絶対にバレることはありませんよね!」

「……そういうことじゃないんだけどなぁ……」


 グッと拳を作る楓さん。鎖骨にキスマークって付けられるものなのか? それはさておいて楓さんの鎖骨か。白くて綺麗なデコルテラインなんだよなぁ。あそこに『俺の楓さん』って証を刻むのか。


「フフッ。それじゃ鎖骨にキスは今夜すると言うことで。そろそろ行きましょうか!」


 いつものように楓さんの手を握り、俺達は学校へと向かう。


 今日は入学式を終えた新入生の初登校日でもある。宮本さんの娘の結さんと会えるかもしれない。楓さん大好きっ子と言うから敵対視されなければいいのだが。


「そこは大丈夫です! 私がきっちり説明しますから!」


 申し訳ないけど楓さん。それを聞いてむしろ不安になったよ。


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