第113話:お着換えタイム シャツ編

 自ら外したリボンを投げ捨てた楓さん。第一ボタンだけしか空いていないが、そのわずかな隙間から覗く鎖骨が何とも言えない艶めかしさを放っている。


「ねぇ、勇也君。は・や・く脱がせてください」


 猫なで声で催促してくるが笑いをこらえるのに必死なのが口元を見ればわかる。俺が慌てふためくのを楽しんでいるのだ。だけどね楓さん。それは悪手だよ。策士策に溺れると言うやつだ。


「わかったよ、楓さん。それじゃ後ろを向いてくれるかな?」

「え? 後ろを向くんですか? 向かい合ってじゃダメなんですか?」

「ダメです。ほら、早く後ろを向いて。じゃないと脱がせてあげないよ?」


 しぶしぶ楓さんは俺に背を向けた。フッフッフッ。俺をこれでもかってくらいドキドキさせたんだ。その分のお返しはしないとな! なんてことを腹の底で考えながら俺はそっと楓さんのことを後ろから包み込むようにして優しく抱きしめた。


「―――!? ゆ、勇也君!? いきなりどうしたんですか!?」


 予想通り楓さんは顔を真っ赤にして驚いている。抜け出したいのか身体をもじもじと動かすが抱きしめる力を少し強めて逃がさない。楓さんの肩に顎を乗せて耳元でそっと囁く。


「動いたらダメだよ。大人しくして」

「は、はひ……わかりました……」


 吐息を吹きかけるように言うと、あまりの恥ずかしさに楓さんは俯いてしまった。フッフッフッ。だけど俺の反撃は始まったばかりだ。もっとドキドキしてもらわなければお仕置きにならない!


「それじゃ……ボタン、外していくね」

「お、お願いしま―――ひゃぅ!? 何するんですか!? 耳は……ダメですっ……」


 俺の追撃の不意打ちでぷっくらとした耳たぶを甘噛みした。くすぐったさと言葉にできない快感に可愛らしく身をくねらせる楓さん。耳が弱点なのは把握している。耳の裏にペロリと舐めてから再びはむはむしながら俺はゆっくりとボタンを上から順番に外していく。


「ゆ、ゆうやくん……耳は……んぅ……ダメですよぉ……」


 楓さんの声に艶が帯び始めたが気にしたら負けだ。反則級に可愛い反応をするのでもっといじめたくなるがここは理性を総動員して堪える。シャツのボタンをすべては外すと赤いレース付きの下着に包まれたたわわな果実が顔を見せる。


「はぁ……はぁ……んっ……ゆうやぁくん……」


 熱を帯びた吐息と潤った瞳で俺を見つめてくる楓さん。抱きしめている身体も心なしか火照っている。耳たぶから口を離し、シャツを脱がして下着姿にする。神話に登場するどんな女神よりも美しい、俺だけの女神様。


「それじゃ……下着も脱がすね」

「……へぇ?」


 呆けた声を上げる楓さん。だがもう遅い。俺は両手で下着のフックを外して優しく真紅の下着を脱がして魅惑の果実を拘束から解放する。たゆん、と擬音が聞こえてきそうなくらい大きく弾む双丘。あぁ、なんて綺麗なんだろう。このまま食べてしまいたい。


 なんて俺の中の悪魔が囁くが一瞬で殲滅する。そもそもこれは体調が悪い楓さんを寝かしつけるための看病で始めたこと。ならばここは心を鬼にして着替えさせなければならない。安心してくれ。何を言っているんだと思うが俺自身も何を言っているかわからない。


「楓さん、万歳して。そうじゃないと上を着せられないよ?」

「……はい」


 借りてきた猫の様に大人しくなった楓さんはか細い声で返事をしながら素直に両手を上げた。俺は一度深呼吸をしてからパジャマを被せていく。袖を通し、もぞもぞと裾を下ろしていくとすぽっと楓さんの頭が襟から出てきた。ふぅ。これで任務完了だな。


「はい、お着替え終了。大人しく布団に入って寝てくださいね」

「……無理です。寝られません。眠れるはずがありません!」


 パジャマへお着替えしてあげたのに楓さんはご不満のようだ。まぁやられたからやり返したけど倍返しくらいで抑えておけばよかったかなと反省はしているが、それもこれも楓さんが可愛い反応をするのが悪い。


「―――なっ!? 私のせいだって言うんですか!? それは理不尽では!? 勇也君が優しく耳を舐めるのがいけないんです! 私も勇也君のお耳をはむはむしていいですか? いいですよね? 答えは聞いていません!」


 とぉっ! とヒーローが登場するような掛け声とともにダイブを仕掛ける楓さん。ぷるんと大きく揺れる胸に目を奪われるが俺は素早くベッドから降りてこれを回避。ぼふっとベッドに倒れ込むだけで不発に終わった楓さんはフグの様に頬を膨らませて無言で抗議の視線を向けてくる。


「可愛い顔をしてもダメです。安静にしていてください」

「そんな殺生なぁ! 勇也君、後生ですから勇也君成分を補充させてください! クンカクンカさせてくださいよぉ!」


 こら、ベッドの上でバタ足をしないの! 最優先は楓さんの体調なんだからね。俺だって我慢しているんだから。


「わかった。もし楓さんがいい子でいられたら今夜は好きにしていいから。クンカでもはむはむでも楓さんがしたいようにさせてあげる。だから今は安静にして。お願い」


 頭をポンポンと撫でながら言うと楓さんの頬は空気が抜けた風船の様に萎んでいき、いそいそと布団を被って大人しく横になった。


「フフッ。それじゃスープ作って来るからそれまで休んでてね」

「……はい。ありがとうございます、勇也君。あぁ、それと―――」


 寝室から出ようとする俺を引き留めるように楓さんが声を上げる。何かなっと思って立ち止まる俺に楓さんは特大の爆弾を炸裂させた。


「―――今夜は寝かさないから覚悟していてくださいね!」


 いや、それはすごく魅力的でぜひともそうしてもらいたいのは山々なんだけど、明日も学校あるから寝ないとダメだからね?

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