第111話:楓さん、胃もたれする。

「うぅ……勇也君……助けてくださぁい……うっぷ」


 ベッドで横向きになって気持ち悪そうに口元を抑える楓さん。そんな彼女の枕元にこしかけて背中をさすりながら俺はやれやれと苦笑いをする。


 喫茶店『エリタージュ』で食事を終えた後。時間にはまだ余裕があったのでカラオケでも行こうかと話になった。けれどジャンボパフェをほぼ一人で食べ切った楓さんが案の定胃もたれを起こしてしまったのだ。一時は動けなくなるほどの重症のため、残念ながらお開きになった。


「んぅ……まさかジャンボパフェを食べただけでお腹が痛くなるんて……うぅぷ……今日の夕飯は何も入りません……」

「いや、その後にメロンフロートを食べたのが原因だと思うけど?」


 ニコニコしながらジャンボパフェを完食して満足そうにしていた楓さんだったが、俺が追加で頼んだメロンフロートのアイスをさらに食べたいと駄々をこねたのだ。あーんと物欲しそうに口を開けるのが可愛くてついつい与えてしまった。もちろんその様子は大槻さんと伸二によって写真と動画に収められた。


「ほら、薬とお水を持ってきたから飲んで。落ち着くまでは大人しく布団被って横になってなさい」

「ありがとうございます。それと……迷惑かけてごめんなさい」


 しゅんとしたしおらしい声で謝る楓さんのこと俺は笑みを浮かべて優しく撫でる。楓さんは驚いて目を見開くが、すぐに恥ずかしくなって頬を赤く染めていく。


「大丈夫だよ。迷惑だなんてこれっぽっちも思っていないから。むしろ楓さんを看病出来て嬉しいかな?」


 風邪じゃなくて甘いものの食べ過ぎてお腹を壊しったっていうちょっと笑っちゃうような理理由だけど。


「看病してくれるのは嬉しんですがそこはかとなく馬鹿にされているような気がするのは気のせいですか?」

「……うん、気のせいだよ。そうだ。いくら胃もたれしていると言っても何も食べないのはまずいからスープでも作って来るよ。野菜たっぷりのポトフとかどうかな? うん、そうしよう。作って来るから待っててね」


 ポンポンと撫でてから立ち上がる。確か冷蔵庫に必要な材料は残っていたはずだ。甘いものと冷たい物を同時に大量摂取してびっくりしているお腹を落ち着かせるためにも急いで作ってあげないと。


「あっ……待ってください、勇也君。その前にお願いがあるんですけど……」


 身体を起こした楓さんにシャツの裾を掴まれる。安静にしていてくれるなら、俺のできる範囲でよければ叶えてあげるけど何かな?


「お布団に入って休むのはいいんですが、制服のままだとスカートが皺になっちゃいますし、何より寝苦しいんです。だからですね……」


 なるほど。確かに制服のまま布団で休むのは身体が重く感じて逆に辛いよな。パジャマに着替えたいってことだよね。なら尚のこと早くここから出ていかないと恥ずかしくて着替えられないよね。


「いえ……むしろ勇也君にお着替えを手伝って欲しいと言いますか、むしろ着替えさせて欲しいなぁ……なんて」


 てへっと舌を出して笑う楓さんに思わず俺は目まいを覚える。その理由は舌だし笑顔があまりにも可愛かったからとお願いの内容が予想の斜め上を通過したためだ。


「ねぇ、勇也君。お着替え手伝ってくれませんか? それともこんなお願い……ダメですか?」

「い、いや。ダメじゃない……です。はい」


 無意識のうちにイエスと答えていたことに気が付いて俺は後悔して内心頭を抱える。いや、そりゃね。楓さんとは一緒にお風呂に入っているし? それこそ愛し合った仲だし? 今更どうってことないよ? ないんだけど服を脱がせるってことは今までしたことがない! なんならいつも以上にドキドキする!


「エヘヘ。ありがとうございます、勇也君。それじゃ早速……お願いします」


 断ればよかった。でも目をウルウルさせながら上目遣いで訴えられたら俺が出せる答えはうん、はい、もしくはイエスしかないから仕方ない。


 覚悟を決めてお着替えタイムの始まりだ。

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