第98話:日本一カッコいい男子高校生になったら……
そして翌朝。早速スーツを買いに向かった。お店をチョイスしたのは楓さん。どうやら昨夜のうちに桜子さんに連絡してどこがいいかを聞いていたらしい。ちなみにそこはオーダーメイドで仕立ててくれるにも関わらず値段もお手頃で最近人気の店らしい。
希望を胸に入店した直後、俺は絶望することとなる。
「申し訳ございません。本日ご購入された場合、最短の仕上がりは一週間後でございます」
そんな馬鹿な。その場で膝をつきたい衝動に駆られるがそこをグッと堪えて笑顔で少し考えますと言って店を出ることにした。
「だから言ったじゃないですか。今日の今日で買ってすぐに持って帰れるとは限りませんよって」
泣き崩れそうになっている俺に楓さんは苦笑いしながらそう言った。マジか。ズボンの裾上げとかと違ってそんなに時間がかかるのか。
「一週間でも早いほうだと思いますけどね。既製品なら即持ち帰りも可能ですが、せっかく買うなら良い物を買わないと」
楓さんの言っていることは最もだ。自分の身体に合うように一から採寸し、自分の好きな色や生地、ボタンなどなどこだわりを持って作るオーダーメイドの方が長く着ることができるというのは間違いない。
「ですが勇也君はまだ高校生。まだまだ身体も大きくなるでしょうからオーダーメイドは不要だと思います」
「……ならどうしてここに連れてきたのさ?」
「昨日からパニックになっている勇也君を落ち着かせるためです。昨夜はおやすみのちゅーもしてくれないし抱き着かせてもくれなかった恨みとかではないですよ? その腹いせとかでは断じてありません」
「うん。その腹いせだっていうのはよくわかったよ」
むぅと可愛くフグのように頬を膨らませる楓さんの頭をポンポンと撫でる。寂しい思いをさせてごめんね。
「えへへ……って怒ってませんよ!? でももっとなでなでしてくれてもいいんですよ? ですよ?」
仰せのままに、プリンセス。満足するまで頭を撫でたいところではあるがさすがに店の前でするには恥ずかしい上にこのままでは刻一刻と時間が過ぎていくだけなので次なる一手を考えなければならない。
「そのことでしたら私に任せてください! 私が勇也君をコーディネートしてあげます! これでカッコよくなること間違いなし! 全国男子高校生ミスターコンのグランプリに選ばれちゃいますよ!」
「楓さんじゃあるまいし。それは大げさだと思うけど?」
「そんなことありません! 勇也君はカッコいいです! 少なくとも私の中では日本一カッコいいです! 二位以下も勇也君が独占です!」
それはランキングの体を成していないのではないかという突っ込みをするのは野暮というものだろう。彼女からこんな風に言われて嬉しく思わない男はいない。現に俺は嬉しいと同時にものすごく恥ずかしい。だって往来の中で結構な声量で楓さんが言うんだもん。道行く人たちの視線が生暖かい。
「あっ……ダメです! やっぱり全国男子高校生ミスターコンにエントリーしてはダメです!」
「いや、そもそもする気はないから安心してほしんだけど……なんで?」
楓さんが見事グランプリに輝いた女子高生ミスコンの男子版もあるのかと今初めて聞いたのだが、どうしてダメなのだろうか? いや出る気はさらさらないんだけど。
「だって……もし勇也君が出場したら勇也君の魅力が全国に広まってしまいますから……勇也君は私だけの勇也君だもん」
おぉ、久しぶりに聞いた楓さんの「だもん」。しかも頬を赤らめながらの上目遣いというおまけつき。可愛さが爆発している。
「うぅ……なんですかそのいかにも子猫を見守るような目は!? 私は真剣なんですよ!? それともあれですか!? 勇也君も男の子ですからモテモテになりたい願望があるんですか!?」
あれれ、おかしいぞ。なんだか楓さんがめんどくさい方向にスイッチが入っちゃったぞぉ? 再び頬を膨らませて上目遣いで睨みつけてくる。地団駄を踏みそうな勢いを感じるが、やっぱり可愛い。
「安心して。俺は楓さんしか見てないからさ」
我ながらキザなセリフを言って楓さんの頭をポンポンと撫でてから手を握る。そろそろ移動しよう。時間はあるようでないからさ。
「……勇也君の馬鹿。ずるいです。反則です。でも、そういうところも大好きです」
頬を紅葉に染めながらの満面の笑みを向けられて俺の心臓の鼓動が一段階早くなる。まずい、今すぐ抱きしめたい。
「フフッ。そろそろ移動しましょうか。勇也君のコーディネートには時間が必要ですからね。たくさん着てもらうので覚悟してくださいね?」
「梨香ちゃんだけじゃ飽き足らず、今度は俺を着せ替え人形にするつもり? 勘弁してほしいなぁ」
「私だけが知っている勇也君のカッコいい姿をたくさん見たいじゃないですか。大丈夫です。いつか私が着せ替え人形になってあげますから。勇也君の好みに合わせますからね」
と言われても、この日本一可愛い女子高生は何を着ても可愛いからなぁ。ワンピースもスカートもパンツ、どれを着ても可愛くなるから困ったものだ。
「私を……勇也君色に染めてくださいね?」
「―――か、楓さん!? 何を言って……!?」
突然耳元で囁かれた言葉の真意を問う前に楓さんは走り出した。楓さんは頬のみならず耳まで赤くなっていた。
まぁ俺はすでに楓さん色に染められているんだけどね。
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