第48話:雰囲気が変わった……?

 名残惜しいが楓さんと別れて一晩明かし、課外合宿最終日の朝を迎えた。この日の予定は施設内にあるお土産屋さんを見て回り、お昼過ぎに出発することになっている。


「時間はあるようでないですね。勇也君は何か欲しい物とかありますか?」


 荷物をバスに預けて早速買い物に向かおうとしたとき、楓さんからこう尋ねられて俺は顎に手を当てて考える。


「んぅん……別にこれと言ってないんだよなぁ。でもせっかくなら楓さんとお揃いの何か買えたらいいかな」


 楓さんに「好き」と伝え、成就した思い出の場所。その記念になるような何かがあればいい。それを使うたび、もしくは見るたびに昨日の夜ことを思い出すような物がベストだな。簡単には見つからないと思うけど、それを二人で探すのも楽しい思い出になるだろう。


「まぁ俺は楓さんとのんびり一緒に見て回れるだけで楽しいからさ。お互い気に入ったものがあれば買えばいいじゃないかな?」

「もう……またそうやってしれっと嬉しいことを言うんですから……私も同じ気持ちなんですからね!」


 そう言って楓さんは俺の腕に抱き着いてくる。太陽に負けないくらい眩しい笑顔を向けられて俺の表情筋も思わず蕩ける。


「あ、あぁ……ご家族には何か買って帰った方がいいよね? ものすごくお世話になっているからお礼も兼ねて何か買わないと……」

「フフッ。いいんですよ、気にしないで。でもそうですね、ここは無難に紅茶とかにしておきましょうか。父も母も紅茶は好きなので喜ぶと思います」


 英国を意識した施設ということもあり、本場の茶葉など種類は豊富だ。お菓子類も多数取り揃えられていて、好き嫌いはあるだろうがクッキーなら大丈夫だろう。


「さっ、そうと決まれば急ぎましょう!」


 楓さんと指をしっかり絡めた恋人繋ぎでお土産ショップに向かう。


『一葉さんと吉住君、なんか雰囲気違くない? 昨日、一昨日よりもなんかさらに距離が縮まったと言うか……?』


『吉住君の優しさに磨きがかかったと言うか、なんだろう、一葉さん大好きオーラが全開?』


『一葉さんのご両親へのお土産を気にかけるなんて……なんて出来た彼氏なんだろう。それに比べて私の彼は……ハァ……』


 女子生徒たちのため息混じりの声が耳に入る。優しさに磨きがかかるってどういう意味ですかね? 俺は別に変ったつもりはないんだけど。


 距離が縮んだって感じるのはその通りだと思う。物理的なものではなく心の距離。告白したことで楓さんに対して遠慮が無くなった。告白する前なら手を繋いだらオドオドして緊張していたが今はこうして堂々としていられる。多少はドキドキしているが。


 それにしても楓さん大好きオーラが全開で出ているのか。確かに大好きだしこの気持ちを隠す必要もないから漏れ出ていても仕方ないのだがわかるものなんだな。


『くそぉ……吉住の野郎……朝からメオトップルぶりを見せつけて来やがって……!』


『メオトップルの甘ップルぶりを振りまきやがって! ふざけんなよ畜生め!』


『でも見てみろよ、一葉さんのあの笑顔を! 見たことないくらい幸せそうに蕩けてやがるよぉ……! あんな笑顔を見せられたら……もう立ち入る隙がねぇよ……』



『処せない……いと尊きあのシュガップルは処せない……無念』


 相変わらず男子の嘆きは酷いものだった。と言うかメオトップル以外にも色々出てきていたけどなんだよそれ。名称は一つじゃなかったのか?


「フフッ。メオトップルって言い得て妙だと思いませんか? 今はまだカップルですけど将来夫婦になることは確定している私達にピッタリです」


 まさか楓さんがこのふざけた名称を気に入ってしまうとは。楓さん公認と知られれば厄介なことになること間違いない。


「いいじゃないですか。それだけ私達がラブラブってことの証なんですから。秋穂ちゃんと日暮君のようなバカップルを越えましたね!」


 それでいいのか楓さんと突っ込みたいところではあるが、彼女がそう言うならまぁ良しとしよう。もしここで不快な顔をしたら伸二を含めた茂木、坂口には鉄拳制裁をしなければならなかったが、命拾いしたな。


「そんなことより! 楽しいお買い物タイムですよ、勇也君!」



 それから時間ギリギリまで、俺と楓さんは買い物を楽しんだ。


 俺達二人の思い出の品に選んだのは赤い帽子と青い帽子を被ったクマのぬいぐるみのペアセット。玄関に飾って置くことになった。それに加えて楓さんは結構大きなぬいぐるみも買おうとしていた。ちなみにどうして欲しいのかと尋ねたら、


「……勇也君が部活で帰りが遅い時やお家で一人寂しい時に勇也君の代わりに抱きしめる用です。ダメですか?」


 顔半分をぬいぐるみで隠しながら切ない声で言われたらダメなんて言えるはずがないでしょう。


「それは反則的に可愛いからダメだよ、楓さん」


 結局ぬいぐるみは購入して、配送してもらうことになった。バスに持ち込めなくて楓さんは涙目になっていた。


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